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子を思う親の心

 勇者アカサタは、女勇者ハマヤラから引き継いだ弓を手にしながら、思いました。

“静かだ。心は驚くほど静か。それでいて…”

 アカサタは、冷静に弓を構えます。

“見える。全てが見える。敵の弱点も。矢の軌道も。何もかも。風も計算に入っている”


 そもそも、魔法で光属性を与えられた“光の矢スターアロー”での攻撃は、貫通力を格段に増すもの。少々の風では、ほとんど影響を受けません。

 氷雪のノーザンクロスのまとった冷気をも貫通し、さらには手にした強靭きょうじんな盾にも突き刺さるのです。そうして、ついに、その盾をも破壊してしまいました。


 勇者アカサタは、敵と戦いながら、母親の愛情を感じていました。子を思う親の心。その深さ、その熱さ、その広さを。

 そうして、その思いそのものすら、自分の心に取り込んでしまっていたのです。

 いわば、親であり同時に子でもある。そのような心境にいたっていたのでした。


 女勇者ハマヤラが、勇者アカサタに残した最後の力。

 この世界で、たった1度だけ使用できる能力。それは“我が子に全てを伝える能力”

 この世界で身につけた魔法。弓や剣での攻撃能力。回避能力。記憶や思いすらも!!


 女勇者ハマヤラは、この世界から消える直前に「私は元の世界に戻らせてもらう」と言っていましたが、実際に、そうできたかどうかはわかりません。

 1度、別の世界に転生した者が、元の世界に元の姿で帰れる保証などどこにもないのです。

 勇者アカサタ自身、それを理解していました。その記憶すら、受け継いでいるのですから。


 それでも、勇者アカサタは思います。

“オレは、自分にたくされた役割を果たすぜ!それが正しいかどうかは、わからねえ。けど、とりあえずは目の前の敵を撃破する!魔王も倒す!後のコトは、それから考える。さあ!見ててくれよ、かあちゃん!!”


         *


 氷雪のノーザンクロスは、焦っていました。というよりも混乱していました。

“いくら手を抜いていたからといっても、こんなにも能力に差が生じるものなのか?攻撃力、機動力、精密度、魔法での攻撃や武器強化。何もかもが、先ほどとは違いすぎる。一体、何をやった?勇者アカサタよ”

 そんな風に考えますが、考えはまとまりません。


 それはそうです。あのわずかな時間の間に、誰が“別の人間の能力を受け継いだ”などと考えるでしょうか?その行為は、常人の想像力をはるかに凌駕りょうがしていました。

 想像を超えた能力。それは、頭で考えてどうにかなるものではないのです。

 ただ単に“受け入れる”しかない。そのようなたぐいの現象なのですから。


 けれども、今のノーザンクロスに、それはできませんでした。

 ただ混乱し、どうにか状況を分析し、対応策をみちびき出そうとするのみ。その行為が、逆にみずからの動きをにぶらせているとも知らずに!


 盾を失ったノーザンクロスに向って、勇者アカサタが剣を片手に迫ってきます。

 その剣もまた、光の力により攻撃力・貫通力を増しているのです。


 “光の剣サンライトソード

 女勇者ハマヤラが、勇者アカサタに残した魔法の1つ。

 光属性により強化された剣は、ノーザンクロスの手にした斧をはじき飛ばし、身につけている鎧を破壊していきます。


 たまらず、氷結の魔法を放つノーザンクロス。

 すかさず、勇者アカサタは炎の魔法で対抗します。

 氷の輪がアカサタの周りを取り囲み、その身をしばろうと迫ってきますが、炎の壁が立ちはだかり、それを防ぎます。

 今度は逆にアカサタから放たれた炎がノーザンクロスを襲います。周囲を冷気がおおい、炎の攻撃から身を守ってくれますが、その時にはすでに勇者アカサタが目の前まで迫ってきていました。


 舞うような動きで剣を振るう、勇者アカサタ。

 ズバッ!ズバッ!ズバッ!という音と共に繰り出される剣技は、ノーザンクロスの鎧をはがしていきます。

 そうして、ついにアカサタの攻撃は、大ダメージを与えることに成功しました。 


 身動きの取れなくなったノーザンクロスにクルリと背を向けると、勇者アカサタは、今度は暴れ竜リベロ・ラベロと争っているアイスドラゴンへと向っていきます。

 光の力で槍を強化すると、リベロ・ラベロと協力し、アイスドラゴンの硬い鎧のようなうろこを破壊して回ります。

 たまらず、アイスドラゴンも、逃げ出します。サッと、ノーザンクロスを口にくわえると、空高く飛び舞い上がり、どこへやら飛び去っていってしまいました。

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