新生勇者アカサタ
戦場は、魔王軍に不利な戦況が続いていました。
暴れ竜リベロ・ラベロとアイスドラゴンの戦いは、互角でありました。が、それ以外の戦いは圧倒的に勇者軍の方が優勢でした。
いかんせん、賢者アベスデの能力が高すぎて、普通の魔物たちでは相手にならないのです。数は多くとも、賢者アベスデやスカーレット・バーニング・ルビーなど、強力な魔法を扱う人間たちの前に、次々に倒されていくのでした。
そこへ、勇者アカサタとの戦いを終えて、氷雪のノーザンクロスが戻ってきました。
これにより、一気に情勢は変わります。
さすがは、“魔王の4本の腕”と称された者だけあります。並の兵士では、全く歯が立ちません。逆に、今度は人間たちの方が次から次へと討ち倒されていくのでした。
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ノーザンクロスの相手をし始める賢者アベスデ。
「イワンよ!勇者イワンよ!」
「その名はとうの昔に捨てましたぞ、アベスデ殿」と、斧を振るう手を止めずに答えるノーザンクロス。
「ならば、現在の名で呼ぶとしよう。氷雪のノーザンクロスよ!」
「なんですかな?」
「お前の理想とやらは、実現されたのか?」と、杖を振り、天から稲妻を呼び落としながら尋ねる賢者アベスデ。
「道半ば…といった所でしょうか?けれども、着実に理想に向っておりまする」
「果して、本当にそうかな?この世界のありさまを見ても、そう言えるのか?」
「もちろん!むしろ、あなたのやり方の方が世界を駄目にする。役立たずを大量に生み出してしまう。そうでしょう?」
会話をしながらも、2人の間では魔法や物理攻撃の応酬が続いています。
お互いに持論を展開し、相手の攻撃をうまく防ぎ、戦いの方も会話の方も決着はつきそうにありません。
そこへ、1人の人物が現われました。
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現われたのは、勇者アカサタ。もちろん、女勇者ハマヤラの姿はありません。
けれども、他のみんなは、誰もその理由を知らないのです。
「ノーザンクロスとか言ったな…」
勇者アカサタは、ポツリと呟きます。
「ほう。戻ってきたか。けれど、何度やろうが同じコトよ。今の貴様の実力では…」
と、氷雪のノーザンクロスが言いかけたところに光の矢が飛んできます。勇者アカサタが放ったものです。
それを余裕の表情で、大きな盾をかざし受け止めるノーザンクロス。
ところが、光の矢はその強靭な盾を貫き、矢の先端が盾の裏側まで突き抜けています。完全に貫通こそしなかったものの、明らかに盾の防御力を上回る攻撃力を秘めています。
「なっ…」
驚きの表情を隠せない氷雪のノーザンクロス。
光の矢は、次々と飛んできて、盾へと突き刺さっていきます。
「こんな…」
“先ほどまでとは、明らかに攻撃力が違う。しかも、さっきまでは、弓矢での攻撃などなかった。能力を隠していたというわけか?まだ、本気ではなかったということか?なめられたものだな、この氷雪のノーザンクロスも…”
ギリリ…と歯ぎしりをすると、ノーザンクロスは、魔法で吹雪を起こします。
周囲には、雪が降りしきっていますが、それに加えてさらに冷気での攻撃。これには、勇者アカサタもたまりません…となるはずなのですが、身の周りを暖かい空気の壁で守り、全く効果を成していません。
そのまま、静かに歩いて近づいてくる勇者アカサタ。
賢者アベスデは、黙って2人の戦いを見守り、手を出そうとはしません
“明らかに何かが違う。まるで別人のようじゃ。何が起こったのじゃ?この勇者アカサタに?”
言葉にはせず、心の中でそう考える賢者アベスデ。
トンッ…と、軽く跳ね上がると、アカサタは敵との距離を一気に詰めます。
「終わりだよ…」
ノーザンクロスの耳元で静かに呟くアカサタ。
「何が、終わりなもの…」
そう言いかけるノーザンクロスの視界から、アカサタの姿が消えます。
次の瞬間には、背後に回り込んだアカサタの“稲妻の槍”によるキツイ一発を背中に浴びてしまいました。
「グエエエエエ!!」
叫びながらも、とっさに冷気で身を守るノーザンクロス。
けれども、勇者アカサタの攻撃は止まりません。
中距離から放たれる“光の矢”の連射。大きな盾をかざしてその攻撃を防ぐノーザンクロスですが、矢は次々と盾に突き刺さっていきます。
そうして、ついに手にした盾はボゴッという音を立てて、砕け散ってしまいました。
「な…に…!?」
明らかに驚愕した表情を見せる四天王の1人ノーザンクロス。
今や、アカサタはハマヤラの能力を受け継ぎ、さっきまでとは別人のようになっているのです。
いわば、アカサタ=ハマヤラ!
近距離・中距離・遠距離と、弱点もありません。
もはや、ノーザンクロスごときでは、相手にならないのでした。




