絶品焼き肉パーティー!
勇者アカサタたちは、“魔物の生産工場”を壊滅させるという1つの大仕事をやってのけ、近くの街で焼き肉パーティーを開いていました。
この街を支配している領主のお屋敷に呼ばれ、料理が振る舞われています。
今夜のメニューは、さばきたてのお肉を使った焼き肉なのです。牛やブタやニワトリやヒツジなど、近所にある畜産農家から最高級のお肉が運ばれてきます。
さらに、キャベツやニンジンやジャガイモといった新鮮な野菜も!
それらを、薄切りにして、炭火でジックリと焼いて食べるのです。
勇者アカサタは、絶品焼き肉の感想をもらしながら、モグモグパクパクと別の意味でも口を動かし続けます。
「ウメエ!ウメエ!コイツは、うめえ!」
そんな様子を女勇者ハマヤラに注意されます。
「もう!行儀が悪いわね!喋るか食べるか、どっちかにしなさいよ!まったく誰に似たんだか…」
「そんなコト言っても、オメエ…うまい物はうまいだろう。ウメエウメエ言いながら食うのが一番ウメエのよ!」
「あと、お肉ばっかりじゃなくて、野菜も食べなさいよ!野菜も!野菜はお肉の3倍!そう言ったでしょ?」
そんなハマヤラの言葉に不満顔のアカサタ。
「…とはいえ、あねさん!こいつは確かに、ウメエですぜ!」
「肉がうまけりゃ、酒も進むってね!」
「メイドさ~ん!酒のおかわりおねがいしや~す!」
そんな風に、領主のお屋敷の中でも普段通りの大声で喋りまくるゲイル3兄弟。
「しかし、肉はうまいが、味が単調だな。塩コショウばっかりだと、飽きてくる。こう…なんていうか、“焼き肉のタレ”的なものはないのかね?」と、勇者アカサタ。
「焼き肉のタレ?なんっすか、それは?」と尋ねるゲイル3兄弟の1人デブールが尋ねます。
「知らねえの?焼き肉のタレ?」
「知らないっす」
「なんつーの?焼き肉専用の調味料で、甘辛い感じの。みんな食ったことない?」
そう勇者アカサタは尋ねますが、その場に居合わせたメンバーは、みんな首を横に振ります。ただ1人を除いては。
ここは、勇者アカサタが元々住んでいた世界とは全然違う世界なのです。“焼き肉のタレ”など、ありはしません。
ただし、時々、別の世界から異文化の情報が流れてくるコトがありました。そうして、この世界の新しい文化として定着していくのです。
たとえば、伝説の画商イロハ・ラ・ムーさんのお屋敷にあった“尺八”という管楽器も、その内の1つでした。
特に、食文化に関しては、勇者アカサタが元々住んでいた世界と共通する物がたくさんありました。
牛やブタなどの家畜はもちろんのこと、お米や麦なども主食として広がっています。キャベツやナスビ、トマトや白菜、レタスやニンジンやジャガイモなどの野菜も共通したものばかり。
パンやチーズやヨーグルトなども普通に普及していますし、バターやマヨネーズやマスタードといった調味料も多くの地域で使われています。場所によっては、ミソやしょう油などといったものまで。
それでも、この時代は、食べ物以外は、まだそれほど異世界の文化が普及していたわけではありません。
楽器とか、絵の具とか、そういったものが一部の人たちの間で使われている程度。一般庶民の多くは、ほとんど無縁のもの。
それも、ある時代で止まってしまっています。
本格的に、この世界に別世界の文化が広がるのは、もうしばらく後の時代となるのでありました。