パールホワイト・オイスターの想い
美しきハープ奏者パールホワイト・オイスターは駆け出します。
自らの意志に従って!
そうして、竪琴の音が届く距離まで、暴れ竜リベロ・ラベロに近づくと、ゆっくりと指を動かし、竪琴の弦を弾き始めました。
パールホワイト・オイスターが手にしているのは、魔法の竪琴。しかも、彼女自身の能力もあって、どんな雑音の中でも対象者の心に直接響きます。
それでも、あまりにも距離が離れ過ぎると、効果を発揮しないのも、また事実。
この距離ならば、充分にリベロ・ラベロのもとへと届くでしょう。けれども、それは同時に非常に危険な状況であるとも言えました。リベロ・ラベロがほんのちょっと手を伸ばせば、パールホワイト・オイスターの体は、簡単に引き裂かれてしまうでしょう。
そうでなくとも、その口から吐き出す灼熱の炎は、瞬く間に人の体を消し炭と化してしまうのです。
賢者アベスデが、叫びます。
「何をしておるのじゃ!危険じゃから、近寄るでない!」
その言葉を耳にしても、美しき演奏者は、竪琴を弾くのをやめません。
この時のパールホワイト・オイスターの心には、邪念は全くありませんでした。ただ純粋に、リベロ・ラベロを救いたいという想い、それだけ。その一心で、ただひたすらに、楽器の演奏に集中し続けているのでした。
ピタリ、と巨大な竜の動きが止まります。
そうして、徐々に意識を取り戻していくリベロ・ラベロ。
「オレは、一体、何を…」
そう、呟きます。
その様子に気がついた、愛のウエスタニア。
戦闘中の勇者アカサタと距離を取ると、突然、歌い始めます。
「ア~、ア~、ア~~~」と、戦場に響き渡る歌声。
その声を聞いた者たちは、次々と自我を失い、ウエスタニアの味方となっていきます。
暴れ竜リベロ・ラベロも、再び操られかけます。
それに対抗するかのように、パールホワイト・オイスターの竪琴の音が鳴り響きます。
いつしか、戦場は、戦いの場ではなく、音楽合戦の会場となっていました。
*
1曲。この1曲に全てを賭ける。たとえ、それで、この命を削られるとしても構いはしない!
そのような想いで、パールホワイト・オイスターは竪琴を弾き続けます。
その音を聞きながら、暴れ竜リベロ・ラベロは、夢を見ていました。
夢の中で少女が、微笑みかけてくれています。そうして、歌を歌ってくれているのです。
やがて、少女は歌から、竪琴の演奏へと切り換えました。
その音は、こんな風に語りかけてきます。
「さあ、目覚めて。そうして、あなたのするべきコトを成すのです。あなたには、あなたの使命がある。役割がある。その役割を果たすのです」
そうして、巨大な竜リベロ・ラベロは目を覚まし、クルリと方向転換すると、愛のウエスタニア目がけて灼熱の炎を吐き出しました。
かろうじて、その攻撃を避け、致命傷をまぬがれるウエスタニア。けれども、そこへ勇者アカサタが槍を持って迫ってきます。
その攻撃もかわした…と思った瞬間!別の方向から飛んできた光の矢によって、右の肩を貫かれてしまいました。
高い城壁の上から落下しながら、ウエスタニアは矢の飛んできた方向を確認します。
そこに立っていたのは、顔を大きく腫らした女勇者ハマヤラの姿でした。
*
どうにか空中で体勢を立て直し、“飛行の魔法”で落下の衝撃をやわらげた愛のウエスタニア。
けれども、戦況は明らかに劣勢です。パールホワイト・オイスターの奏でる竪琴の音により、今度は逆に魔物の方が心を操られ、同士討ちを始めているのでした。
瞬く間に、敵に周りを囲まれてしまうウエスタニア。もちろん、その中には勇者アカサタの姿もあります。
それでも、「私は、最後まで戦うわ!この命、尽きるまで!」と決心を固めます。
そこに1匹の悪魔が飛来してきて、ウエスタニアの体を引っつかむと、遥か上空まで飛び上がりました。
「お逃げ下さい、ウエスタニア様!あなたは、まだ、このような場所で命を落とされる方ではない!」
それは、かつてストロベリーシティーで市長をしていたキチ・ムーンでした。その時の名は、“ブルベリ・バナナンヌ”
勇者アカサタたちに正体を暴かれ、街を追い出されたあの時の悪魔です。あの後、街を逃げ出したキチ・ムーンは、ここへやって来て、愛のウエスタニアのもとで働いていたのでした。
ウエスタニアは、迷いました。
が、最終的には、キチ・ムーンの言葉に従って、撤退することに決めたのです。
こうして、勇者アカサタたちの軍勢は、見事、“魔物の生産工場”での戦いに勝利し、その土地を占拠したのでした。