新魔法フワリン
勇者アカサタが覚えた炎の魔法マッチは、戦闘においては、ほとんど何の役にも立ちません。
マッチを発展させたマッチ・ヘ・ボンバーも、戦闘中に使うには危険過ぎます。しかも、リスクが大きい割には、大したダメージを与えられそうにありません。
それでも、勇者アカサタは、マッチ・ヘ・ボンバーを極めるべく、日々精進していました。
そうして、その日に食べた食べ物によって、オナラの威力が変わるコトを発見しました。特に腸の調子がよくなるのは、マメとイモ類。グルグルとお腹が鳴り、ガスが溜まりやすくなります。
マメ系・イモ系の食材を大量に摂取した数時間後には、プンスカプンスカ、お尻の穴からオナラが漏れ出してきます。こうして、連続で技を放ったり、より大きな威力で発動したりできるようになりました。
結局のところ、マッチ・ヘ・ボンバーは、戦闘では役には立ちませんでした。
けれども、酒場での宴会芸としてはバカうけです!最初は嫌がっていた人々も、自分たらの方から要求するようになってきました。
「オイ!アカサタ!例のヤツやってくれよ!例のヤツ!」
「そろそろ得意技の出番だろう?」
「待ってました!十八番!」
などと、はやし立てます。
そうして、見事に空中に炎の花が咲くと、ヤンヤヤンヤと騒ぐのです。
「決まった~!」
「今夜のヤツは、いつもにも増して美しい技だな~」
「それにしても、くっせえ!!臭くて臭くてたまらないぞ!」
「誰か、窓を開けて換気をしてくれ~!」
こんな感じです。
その後、酒場の一同は、銅貨や銀貨などのおひねりを勇者アカサタに投げつけてくれるのでした。もちろん、楽しませてくれたお礼の意味で。なんだかんだ言いつつも、みんな、アカサタのことを好きだったのです。
*
ある日、勇者アカサタは、魔法屋さんの前に立っていました。
「魔 法 屋」
と、大きく書かれた例のお店です。
酒場での宴会芸で小金を稼いだ勇者アカサタは、とっくの昔に“炎の魔法の書”の元を取っていました。最初に買った、初心者用の炎の魔法の本です。
そうして、稼いだお金を使って、新しい魔法を覚えようと、ここへやって来たのです。
以前と同じように、ズカズカとお店の中に入っていく勇者アカサタ。
「ちわ~っす!新しい魔法く~ださい」
どんな失礼なモノの言い方をするお客さんにも、丁寧に対応してくれる例の店員さんが現われました。
「はいはい、ただいま。おっと、この前のお客さま。以前にお買い上げになった炎の魔法はいかがでしたか?」
どうやら、ちゃんとアカサタの顔を覚えてくれていたようです。さすがですね。1度、来店しただけのお客さんの顔を忘れていないとは。もっとも、勇者アカサタくらい印象の強い人ならば、誰でも1度会っただけで忘れはしないでしょうけれど。
「ああ~、アレね。まあまあだったよ。威力は大したコトなかったけど、そこはオレの才能でカバーしておいたから」
「左様でございましたか。それはそれは、大変結構なことで。それで、本日は、どのようなご用件で?」
「ウム。新しい魔法を覚えようと思ってな」
「新しい魔法ですね。では、炎系のもう一段階、強力な魔法などいかがでしょう?あるいは、同じ炎系でも支援を目的としたモノもございます。たとえば、武器に炎の属性を付加する魔法ですとか…」
それを聞いて、勇者アカサタは強く首を横に振りながら、こう答えました。
「いやいや、今日は新しい魔法に挑戦しようと思ってね。全然違うタイプ」
「なるほど。別の属性の魔法で御座いますね」
「ウム。風の魔法なんて、いいかな~?と思って。こう、強力な風を起こして物を吹き飛ばすとか。あるいは、布なんかを切り裂く魔法がいいね」
「風属性の魔法でございますね。それは、こちらの初心者向けの品はいかがでしょう?初めてのお客さまにも扱いやすくできております」
「そうか、じゃあ、それをもらおうか」
「はい。金貨1枚でございます」
「わかった。ホレ、取っておけ」
このように終始偉そうな態度で買い物を済ませた勇者アカサタは、ズカズカとした足取りで、店を後にしました。
さて、新しい風の魔法、ちゃんと習得できるのでしょうか?
炎の魔法だって、まともに使えてないというのに…
*
ところが、今回は、驚く程アッサリと習得してしまいました。
街の端っこにある空き地で練習を始めた勇者アカサタでありましたが、ものの数十分で簡単な風を起こせるようになり、数時間後には風の魔法で干してある洗濯物を吹き飛ばせるくらいの威力となっていました。
魔法を覚えるコツをつかんだのでしょうか?それとも、炎の魔法とは相性が悪かったけど、風の魔法は性格に合っていた?魔法というのは、それぞれの人に合った属性というのが存在していて、相性はその人の生き方や考え方・感じ方・性格などに影響されるという話です。
とにもかくにも、勇者アカサタは、新しい魔法を覚えることに成功しました。
そうして、その魔法に“フワリン”と名前をつけました。物をフワリと浮かせるからです。




