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ダブル勇者体制

 賢者アベスデは、勇者アカサタと女勇者ハマヤラの2人から話を聞くと、こうつぶやきました。

「そうか。ついに現われたか…」


 2人の前に現われた敵。

 “魔王の4本の腕”の1本である、風のイースティンは、かつての勇者であり、賢者アベスデの教え子でもありました。

 それだけに、アベスデとしても非常に複雑な思いがあります。

 “裏切られた!”というくやしさもあり、“倒してもいいのだろうか?”という迷いもあり、“再び、我々の味方になってくれはしないだろうか?”というあわい希望も抱いていたのでした。

 けれども、ここで私情をはさむわけにはいきません。

 最悪の展開を考え、心を鬼にして、全力で敵を排除する方法を取らなければならないのです。


 賢者アベスデは考えました。

“このままでは間に合わんかも知れんな。仕方がない。アカサタの魔法の方は、諦めるか。代わりに、ハマヤラに徹底的に叩き込むしかあるまい。私が、これまで身につけてきた魔法の全てを…”


 こうして、アベスデによって、ダブル勇者体制が取られることになりました。

 勇者アカサタは、剣や槍による、近接および中距離の戦闘。

 女勇者ハマヤラは、勇者アカサタの補助。そして、遠距離からの攻撃。

 2人で1人の勇者というわけです。


 アカサタは、それを聞いて不満顔でしたが、ハマヤラの方は真剣そのもの。それから全身全霊をかたむけて、魔法の習得にはげみました。

 おかげで、これまでにも増してメキメキと成長していきます。

 既に覚えていた魔法の威力は上がり、新たな魔法をいくつも習得していきます。


 勇者アカサタは、魔法の方は諦め、他の修業に専念します。

 剣の方は、もはや充分な領域まで達していたので、主には“気の力”の特訓です。それを極めるだけでも、戦闘においてはかなり有利になるでしょう。また、いくつかは、魔法に近い能力も身につけるコトができます。


 こうして、時は瞬く間に過ぎていくのでした。


         *


 そんなある夜のコト。

 女勇者ハマヤラは、1人、部屋の中で考え事をしていました。

 そうして、こんな風に呟きます。

「近いわね。終わりの時が。この世界で学んできたコトの全てを役立てる時が…」


 女勇者ハマヤラは、窓から外の景色を眺めながら、遠い目をしています。

「長かった。ここまで、長かった。けれども、私の全ては、あの子のためにあった。だから、決して、後悔はしていない。ここで過ごした長い時間。それらは決して無駄ではなかった。私は、そう信じている」

 そう呟くと、ハマヤラはスクッと立ち上がり、ティーカップに熱い紅茶を注ぎました。


 そうして、ゆっくりとカップに口をつけて、ストレートティーをほんの少し口に含むと、言葉を続けます。

「残りの時間、精一杯、学んでみせる。でも、それにも限界があるでしょう。私は、決してアベスデさんを超えるコトはできない。そこが、私の限界。才能の限界であり、成長の限界でもある。それくらいは、自分でわかる。だから、そこまで到達したら…」


 ハマヤラは、そこでちょっと考えます。それから、もう1口、紅茶をすすると、決心を固めたかのようにこう言いました。

「もしも、そこまで到達したら、いよいよ最後の手を使うしかないわね。私に与えられた、最後の力を。それで、全てを終わらせる。終わらせてみせる…」

 そこまで語り終えると、女勇者ハマヤラはベッドに潜り込み、明日の厳しい修行に備えて眠りに入ったのでした。

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