四天王の1人、風のイースティン現る!
相変わらず、魔法の能力は上がらないままの勇者アカサタ。
それでも、剣や槍を持たせて戦えば、もはや誰もかなう者はいなくなっていました。“気の力”の修業もマジメに続け、それを使った“自己回復能力”や“手から電気を発する能力”も、それなりに使い物になりつつあります。
そんな、ある日のコトでした。
勇者アカサタの前に、とてつもない能力を持った者が現われたのは…
*
いつものように、魔物の拠点を撃破するために、遠くの街へと出かけていた勇者アカサタとその一行。
どうにか無事に任務を終えて、街の中でゆったりと過ごします。みんな好き勝手に行動し、アカサタも女勇者ハマヤラの買い物につき合って、並んで歩いています。
そんな、買い物の帰り道。人通りのない道を、宿屋へと向って歩いている時のコト。突然、強烈な突風が、辺りに吹き荒れます。
手にした荷物を飛ばされないようにと、地面にしゃがんで、シッカリと荷物を抱え込む2人。
風が吹き抜けた後には、1人の青年が立っています。
「やあ!君が、勇者アカサタだね。僕は、イースティン。魔王様を支える“4本の腕”の内の1本。四天王の1人、風のイースティンさ」
途端にアカサタとハマヤラ、2人の顔色が変わります。持っていた荷物を放り投げると、戦闘態勢に入りました。
年の頃は30代前半といったところでしょうか?もうちょっと若いかも知れません。
風のイースティンと名乗った青年は、勇者アカサタに向って、こう言いました。あるいは、自分に向って確認するように言ったのかも知れません。
「フ~ム…雰囲気からすると、ま、そこそこといった感じか。魔王ダックスワイズ様が気に入った理由、わからないでもないが…」
風のイースティンは、1度、言葉を切り、さらに続けます。
「ま、ちょっと試させてもらうかな?」
次の瞬間には、アカサタのすぐ側まで間合いを詰めているイースティン。さっきまでは、10メートル前後の距離にいたはずなのに。
続けて、剣でのラッシュを繰り出してきます。ほとんどその動きが見えません。
「チッ…」
勇者アカサタは、1つ舌打ちをしただけで、それ以上は何も喋りません。そのゆとりさえないのです。
次々と繰り出される突きを、剣で受け止めたり受け流したりするだけで精一杯!
それを見た女勇者ハマヤラは、同じく剣を持って、加勢に入ります。
ところが、イースティンは、たった1度剣を振り上げただけで、その攻撃を跳ね上げると、さらに剣を持っていない方の腕から魔法での攻撃を繰り出します。
強烈な風の塊が、女勇者ハマヤラの腹部へと飛んできたかと思った瞬間、そのまま背後へと吹き飛んでいってしまいました。まるで、ボーリングの球をまともに食らったかのような衝撃です!
「邪魔をしないでおいてもらえるかな?」
そう言うイースティンに、勇者アカサタも賛同します。
「そうだぜ。これは、男と男の戦い。オメーは、引っ込んでて、さっき買ってきたお菓子でも食べながら、横で観戦してな」
ようやく、アカサタにも言葉を発する余裕ができたようです。
それを聞いて、「フッ」と軽く笑みを浮かべる風のイースティン。
「なかなか、おもしろいね」
そう言うと、イースティンは勇者アカサタと距離を取り、今度は手にした剣を弓矢に持ち替えます。
うなり声を上げながら次々と飛んでくる矢の数々。それも、ただの矢ではありません。風の力を付加され、周囲の空気を切り裂きながら迫ってくるのです。
それらの攻撃を流れるような動きでかわしていく勇者アカサタ。
地面に接触した矢は、そのまま石畳を破壊します。
「フ~ン…避けるのは、うまいね。けど、これはどうかな?」
風のイースティンは、長い呪文を詠唱し始めました。
すると、アカサタの目の前の空気が、渦を巻き始めます。しだいに大きくなっていく空気の渦。やがて、家の2階くらいまでの高さに達した渦は、竜巻となり勇者アカサタ目がけて迫ってきます。
背後に飛び、それを避けようとするアカサタ。
けれども、そこに向って、風をまとった矢が何本も飛んできます。たまらず、今度は横に飛んで逃げますが、竜巻をまともに食らってしまい、勢いよく吹き飛ばされてしまいました。
それを黙って見ている風のイースティン。
起き上がってくる勇者アカサタ。
2人は、距離をとったまま、向かい合って立った状態で1歩も動きません。
「どうした?攻撃してこないのかい?」
そう言われても、勇者アカサタには、どうすることもできないのです。なにしろ、遠く離れた敵を攻撃する術を持っていないのですから。
仕方がなしに、走って間合いを詰めるアカサタ。さらに、間合いをとるイースティン。追うアカサタ。逃げるイースティン。
しばらくの間、その繰り返しが続きます。
突然、「フッ」と笑い出す、風のイースティン。
そうして、こう言い放ちました。
「な~んだ!それが君の限界か!なんたる弱点!遠く離れた敵を攻撃できない。そうだろう?」
そう言われて、「グヌヌ…」と唸るコトしかできない勇者アカサタ。
「こりゃ、拍子抜けだな…」
アカサタは、何も言い返せません。なにしろ、それは純然たる事実なのですから。
遠距離の敵を攻撃する方法が全くないわけではないのですが、どれも大した威力ではありません。たとえ、使ったとしても、ダメージなど与えられないでしょう。そのコトは、アカサタ自身が一番よくわかっていました。
それから、離れたままの位置で、風のイースティンは、こう宣言します。
「魔王様に、君は殺すなと言われている。けれども、それが君の限界ならば、時間の問題だね。魔王ダックスワイズ様は、成長しない者に興味はない。いつまでも、そのままならば、君に対する興味も失われることだろう!」
その言葉を黙って聞いている勇者アカサタ。
「じゃあね!僕も、君の成長に期待してるよ♪」
そう言って、風のイースティンは、まさに風のように去っていってしまったのでした。




