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ストロベリーシティの市長

 勇者アカサタが活躍する一方で、世界中の人々も奮起ふんきし始めていました。

「これまで、世界を魔物が歩き回るのが当たり前だと思って生きてきたけれども、そうじゃなかったんだ!」

「我々にも、できるコトがあるはずだ!」

「魔物を倒し、魔王を討伐するために、勇者アカサタに協力しよう!」

 そう言って、あちこちで活動が始まります。


 ある者は、その手に剣や棍棒を持ち、魔物を倒すために出かけます。またある者は、自分では戦わないものの、魔物の情報を集めて回りました。

 次から次へと寄せられる、魔物の出没報告。そうして、いくつもの“魔物の拠点”も発見されます。

 そうやって集まってきた情報を元に、勇者アカサタやその一派が、本格的な魔物討伐へと向います。


         *


 さて、今回のお話は、山や森や沼地が舞台ではありません。

 発展した1つの都市が舞台となります。その名も“ストロベリーシティ”


 ストロベリーシティは、別名“デザートの街”とも呼ばれています。

 こんな時代にあって、「人々に、おいしいお菓子やケーキを食べてもらおう!」「甘い物は、人の心をなごませてくれる!幸せにしてくれる!」とスローガンをかかげて、たくさんのドーナツやクッキーやケーキやチョコレートなどを生産しているのです。

 そうして、その味は日に日に向上し、値段も徐々に下がり、手に入れやすくなっていきます。

 

 それもこれも、全て、この街の市長のおかげでした。

 市長の名は、“ブルベリ・バナナンヌ”

 市民からは、バナナンヌ市長と呼ばれ、親しまれています。


 懸命な読者の皆さんならば、この市長の正体が誰だかおわかりだと思います。

 そう!魔王の部下キチ・ムーンだったのです!


 キチ・ムーンは、魔王のめいにより、このストロベリー・シティの統治をまかされていました。

 それも、魔王から「人間たちを、こき使ってはならない!労働環境を整え、最大限効率を考えた働き方をさせるのだ!」と命じられていました。

 最初は不満だったキチ・ムーンですが、人々から喜ばれ、感謝されている内に、この任務にのめり込み、没頭していくようになりました。“天職だ!”とすら思うようになっていました。

 なので、「もう、自分は、このままでいい。このまま残りの人生を全て、この街のためにささげよう!」

 そんな風に考えるようにさえなっていました。


 けれども、何事にも終わりの日はやって来ます。

 どういうわけだか、キチ・ムーンの正体が、1体の悪魔であるとバレてしまったのです。

 そうして、やって来たのは、勇者アカサタたち冒険者の一行でした。


         *


 アカサタは、ストロベリーシティーの市庁舎までやって来て、キチ・ムーンの首元に剣を突きつけて叫びます。

「正体を現せ!この悪魔が!」

「何のコトかね?」

 そう、キチ・ムーンは誤魔化ごまかしますが、通用しません。

「ネタはあがってるんだよ!観念しな!じいさん、頼むぜ!」

 勇者アカサタは、賢者アベスデの方を振り返りながら、そう言い放ちました。

「了解!」

 そう答えると、アベスデは何やら呪文を唱え始めます。

 次の瞬間、人間の姿をしていたバナナンヌ市長は、元の悪魔の姿へと戻ってしまっていました。

 大きなコウモリのようなはねを背中に生やし、長いウナギのような尻尾しっぽを持った姿に。


 それを見て、驚く市民たち。

「あ、なんてコトだ!」

「バナナンヌ市長が悪魔だったなんて!」

「これまで、私たちをだましていたのね!」

 口々に、そう叫ぶストロベリーシティーの一般市民。


 けれども、その後、意外なコトが起こりました。

「さあ、年貢ねんぐおさめ時だ!」

 そう叫んでキチ・ムーンを攻撃しようとした勇者アカサタの前に、市民たちが立ちはだかり、壁を作ったのです。

「待ってくれ!ちょっと待ってくれ!」

「よく考えたら、この人は何も悪いコトはしていない」

「それどころか、私たちを守ってくれたのよ!」

「バナナンヌ市長がいなければ、今頃、オレたちはどうなっていたコトか…」

 

 あきれた顔で、アカサタは答えます。

「何を言ってやがる!見ての通り、そいつは人なんかじゃね~!魔王の手先!悪魔なんだよ!」

 市民たちは、なお抵抗します。

「この方は、我々を救ってくれた」

「バナナンヌ市長が、この街を復興させてくれたのだ!我々に仕事を与えてくれたんだよ!」

「それも、ただの仕事じゃない!最高の労働環境!やりがいのある仕事!こんな街が、他にどこにあるって言うんだ?」


 ここで、迷うアカサタ。

 賢者アベスデは、「容赦するな」と言っています。

 他の冒険者たちは、意見が真っ二つに分かれています。「許してやれよ」と言うものもいれば、「さっさとトドメを刺せ!」と物騒なコトを言っている者もいます。


 ストロベリーシティーの市民の1人が叫びました。

「逃げてください!市長!逃げてください!」

 他の市民たちも続いて声をあげます。

「早く!早く逃げて!」

「こんな奴らに負けないで!」

「我々が、ここを防いでおきます!今の内に!」


 キチ・ムーンは、それを聞いて、バ~ンと窓を開け放ちました。

 そうして、クルリとみんなの方を振り向いて、こう言いました。

「ありがとう!どうもありがとう!みんな、この日のコトは忘れないよ。これまでの日々も、決して忘れない!さらばだ!!」

 人々は、ハッキリと確認しました。振り返った悪魔の目に、うっすらと涙が浮かんでいるのを。


 そうして、悪魔は、その背中の羽を開いて、大空へと飛び出していきました。

 遠く、遠くへと飛び去っていく1匹の悪魔。

 やがて、その姿は豆粒のように小さくなり、見えなくなってしまいました…

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