人集めワヲンとの出会い
それは、また1つ“魔物の拠点”を破壊し、アルファベの街でノンビリと過ごしていた時のコトでした。
勇者アカサタが1人で街をぶらついていると、目の前にフードをかぶった背の低い老人が現われます。いえ、現われたのかも知れません。
いつからそこに立っていたのか?あるいは、たった今、その場に現われたのか?それすら、わからなかったのです。
老人は、しゃがれた声で、こう話しかけてきます。
「わたしゃ、人集めワヲンという者でね。世界中の優秀な人間を集めて回っておる」
「わおん?聞いたコトねぇな」と、アカサタは答えます。
ワヲンと名乗った老人は、頭までスッポリとフードをかぶっており、顔はよくわかりません。
「わたしゃ、仕事を紹介するのが得意でね。その者にピッタリの“天職”とでもいうべきものを見抜くコトができるのじゃ。どうだい?一緒に来る気はないかい?お前さんにふさわしい、最高の仕事を紹介してあげられると思うのじゃが…」
人集めワヲンの声は、年を取っているというのはわかるのですが、男か女かは判断できません。それくらい高い声で、おじいさんのモノとも、おばあさんのモノとも聞こえるのでした。
それに対して、勇者アカサタは、ハッキリと言い放ちます。
「ケッ!残念ながら、オレは働く気なんてサラサラないね!あえていうなら、魔物を退治し、魔王も倒す!それが、仕事っちゃ仕事だな!」
ワヲンは、奇妙な笑い声を出しながら答えます。
「クックック…魔王を倒すとな?お前さんは、自分の本当の使命をまだ知らぬ。そんなモノよりも、もっとずっと、自分に合っている生き方があるというのに」
「魔王を倒すよりも合っている生き方だって?」
「そうじゃよ。他の誰にも代わりが務まらぬ。お前さんならば、最高にうまくこなしてくれるであろう仕事じゃよ。それでいて、“魔王を倒す”という行為も同時に達成できるやも知れんなぁ」
勇者アカサタは、ちょっと考えてみます。
“魔王を倒すコトができて、自分にピッタリの仕事?なんだ、それは?それって、この勇者としての生き方じゃないのか?”
そうして、直接、ワヲンに向って尋ねてみることにしました。
「オイオイ、なんだよ、その最高の仕事ってのは?勇者以上に、このオレにピッタリの仕事があるって言うのか?」
ワヲンは、再び奇妙な笑い声を出しながら、答えました。
「クックック…それは“世界の支配者”じゃよ。この世界を裏から操る魔王以上に、お前さんは、この世界をうまく支配してくれることじゃろうて。それも、裏からではなく、堂々と表舞台に立ってな」
勇者アカサタは、それを聞いて、あきれてしまいました。
「何を言うかと思ったら、“世界の支配者”だって?そんなバカげた話があるものか。そんなモノになれるんだったら、誰だってそうしてるさ」
「他の者では駄目なのじゃ。勇者アカサタ、お前さんでなければなぁ」
アカサタもついに我慢の限界にきて、怒った声でこう叫びました。
「なんだ、コイツ。うさんくせぇ野郎だな。とにかく、オレはこの生き方を変える気はね~の!今のままで充分満足してるんだからな!」
「そうかい。それでは、ここは1度、去るとしよう。わたしゃ、本人の自由意志を尊重するのが信念でね。けど、お前さんの気が変わる日も来るやも知れん。その日が訪れたら、また現われるとしよう…」
そう言って、人集めワヲンは、去っていきました。
現われた時と同じように、いつ消えてしまったのか、わかりませんでした。勇者アカサタがまばたきをした瞬間には、もうその姿はそこにはなかったのですから…
残されたアカサタは、1人、呟きます。
「世界の支配者か…」
そんなもんがあるなら、なってみたくもあるかな?きっと、世界中の女のおっぱいも揉み放題なんだろうな。
けど、なんだか、めんどくさそうでもあるな。いろいろ忙しくて、おっぱおなんて揉んでる暇もないかも。やっぱり、オレには似合わないや。
そんな風にボンヤリと考える勇者アカサタでありました。