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悪夢にうなされる勇者アカサタ

 以前は安い宿屋に寝泊まりしていた勇者アカサタ。

 資金的にゆとりができてからは、アルファベの街に立派な建物を借りて、そこを拠点として暮らすようになっていました。

 おかげで、専用の個室を持つこともでき、夜はフカフカのベッドで眠ることができています。もちろん、一晩寝れば、体力も精神力も全回復する魔法のベッドです。

 …というか、この世界のベッドは、みんな、そんな風にできているんですけどね。


 そんなある夜のこと。

 ベッドの上で、勇者アカサタは、うなされています。

「ウ~ン…ウ~ン…」

 苦しそうな声を上げながらも、夢から覚めたりはしません。どうやら、悪い夢を見ているようです。

 ちょっとアカサタの頭の中をのぞいてみましょう。


         *


 そこは、一面、水色みずいろの世界。

 空中を、魚や水棲生物すいせいせいぶつたちが泳ぎ回っています。


 …かと思ったら、突然、泥にまみれて、黄土色おうどいろの世界へと一変します。

 にごった水の世界を泳ぎ回るザリガニやヤモリやヤゴやタガメや小魚やドジョウやナマズたち。


「よくも、我々を殺してくれたな~」などと、口々に呪いの言葉を吐いています。


 そこに、音楽が鳴り始めます。

 そうして、魚やザリガニたちは、曲に合わせて歌い始めました。まるで、ミュージカルみたいに。


「ズンチャッチャ♪ズンチャッチャ♪ズンチャッチャ♪」

「勇者たちの一団は~♪」

「容赦なく、僕たちをひねり潰す~♪踏み潰す~♪」

「魔王の軍勢を倒すためならば~♪」

「それ以外の犠牲は、全く関係なし~♪」

「誰の迷惑もかえりみず~♪」

「おかまいなし~♪」

「全ては、大いなる目的のため♪」

「それ以外は、全く関係なし~♪」

「全ての生き物が幸せに暮らせる世界を~♪」

「そんな発想はサラサラありませ~ん♪」


 ここから、曲に乗せた歌ではなく、セリフに変わります。

「正しいのは、魔王か?勇者か?どっちなんだろう?」

「その答は難しい」

「とてもとても難しい」

「ウ~ン…難問だ!」

「とにかく、僕らは静かに平和に暮らしたいだけなのに…」

「それを邪魔する奴らは、誰であろうとも敵だ!悪に決まっている!」


 再び、歌が始まります。

「ズンチャッチャ♪ズンチャッチャ♪ズンチャッチャ♪」

「だけど、世界は弱肉強食~♪」

「強い者だけが生き残る世界~♪」

「僕らにできるコトは、何もな~い♪」

「ただ、こうして夢の世界で踊るだけ~♪」


         *


 チュンチュンチュンと、窓の外では鳥の鳴き声がします。

 どうやら、もう朝のようです。窓からは、まぶしい日の光が差し込んできています。

「なんだ、夢か…」

 目が覚めて、勇者アカサタは、そう呟きました。

「それにしても、変な夢だったな…」


 ところが、悪夢はそれで終わったりはしませんでした。一晩だけではないのです。毎晩のように、同じ夢を見ます。

 それも、勇者アカサタだけではありません。女勇者ハマヤラも、炎系の魔法の使い手スカーレット・バーニング・ルビーも、ゲイル3兄弟も、その他の数多くの冒険者たちが、決まって似たような夢を見ているのです。

 調べてみると、それは、前回のロネック討伐に行ったメンバーでした。


「これは呪いだ!呪いに違いない!」

 冒険者の1人は叫びました。

「きっと、沼の生き物たちの呪いだ。大ガメを退治するために、沼に電撃を放ったりしから…」

「あの時に、多くの生き物を殺してしまったからな」

「頼むよ。魔王を倒したら、ちゃんと供養してやるからさ…」

 悪夢を見ている人々は、次々に叫びます。


 ここで勇者アカサタは、決心します。

「魔王を倒したらと言わず、今から行ってくるか!」

 そうして、前回の冒険に参加したメンバー全員で、ミルキーレースの北西に広がる沼地へとおもむき、慰霊碑いれいひを建てたのでした。


 以後、みんなの悪夢は静まって、グッスリと安眠できたといいます。

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