巨大ガメ、ロネック
沼の主であるロネックの粘着性の唾液により、あちこちで冒険者たちが動きを封じられています。
そこに迫り来る、“沼ゴブリン”や“化け物ワニ”
体の自由が利く者たちは、それらの魔物の相手で手一杯です。
肝心の勇者アカサタは、というと…
慌てて飛び出していったために、雪の降り積もった沼の中へと落ちてしまい、ようやく岸から上がろうとしているところでした。
その時、巨大なカメ、ロネックに向っていく3つの影がありました。ゲイル3兄弟です。
3人は、気の力を操作して、沼の上も地面と同じようにスイスイと渡っていきます。そうして、巨大ガメの唾液攻撃を難なくかわし、近づいていきました。
最初に、ロネックの元まで到達したのは、ハゲ頭のハゲールでした。
ハゲールは、“疾風人”とも呼ばれており、その身を極限まで軽くし、目にも止まらぬ速さで動くことができるのです。
カメの頭に向って、連続で打撃を加えるハゲール。
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!バシッ~ン!という激しい音を立てながら、乱舞が決まります。
そこへ、次に到着したアゴの長いアゴールが、追撃を加えます。
アゴールの別名は“鋼鉄人”
その身を鋼のごとく硬くして、身を守ったり、敵に大ダメージを与えることができるのです。
鋼鉄の身体に変化したアゴールは、そのまま巨大なカメに向って、体当たり!!
物の見事にコロリ~ンとひっくり返ってしまうロネック。手足をバタバタさせながら、どうにか元の体勢に戻ろうとしますが、なかなかうまくいきません。
さらに、そこへデブのデブールが到着!
そうして、巨大なカメの首を、体全体を使ってガッチリと抱きしめます。首を締め付けられ、もがき苦しむロネック。ところが、その手足は短く、首に取りついたデブールを外すことができません。完全に、首元が盲点となっているのです。
「グ、グ、グ、グルジイ~!」
そう叫びながら、どうにか体を回転させ、沼の中へと潜っていくロネック。
けれども、デブールは首に抱きついたまま、ロックを解きません。
デブールは、その名を“巨人クラゲ”とも呼ばれ、気の力を使い、体をクラゲのようにやわらかくすることが可能なのです!そうして、水中でもしばらくの間、活動することができるのでした。
どうしようもなくなった巨大ガメ、ロネックは、首と共に手足を縮め、甲羅の中へと引きこもってしまいました。
水面へと浮かんできて、岸へと上がるデブール。
そこへ、勇者アカサタが到着し、沼に向って電撃攻撃を食らわせます。
ところが、アカサタの電撃は、まだまだ未熟。まったく効果を発揮しません。
それを見ていた魔術師たちが、同じように、ロネックの逃げ込んだ沼を目がけて電撃の魔法を放ちます。こちらは、威力絶大!!
ようやくベトベトの唾液から逃れた魔術師たちも加わって、沼に向っての攻撃に参加します。
次々と、撃ち込まれる電気の嵐に、ロネックもたまらず、沼から這い出してきました。
そこに、勇者アカサタの“稲妻の槍”による、キツ~イ一発が!!
バチコ~ン!という音と共に、巨大なカメの頭に槍での殴打が決まりました!!
フラフラになりながら、大ガメ、ロネックは叫びます。
「お、覚えておれ~!!」
そうして、地面の上で手足を甲羅の中に引っ込めると、クルクルと回転し始め、空中へと浮遊し、そのままどこか遠くへと飛んで行ってしまいました。
*
残った魔物をあらかた退治すると、勇者アカサタは、こう呟きます。
「やれやれ、どうにかこうにか片をつけたな…」
その様子を離れた場所から見守っている賢者アベスデ。
「フム。ま、なかなかといったところじゃな」
その横では、アヘアヘと嬉しそうな笑顔をしながら、一心不乱にスケッチブックに向ってエンピツを走らせ続ける少女ラズリー・ラピス・ラビアの姿がありました。
周りの者たちには、「心の底から、絵を描くのが楽しい!幸せだ!」という思いが伝わってきます。
その懸命さは、賞賛に値するものではありましたが、同時にどこか狂気を感じさせるものでもあったのでした。