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アルファベ国大臣の思惑

 アルファベ国の首都アルファベに、続々と新しい移住者がやって来ます。

 もちろん、勇者アカサタと一緒に魔王を倒そうと。あるいは、弟子にしてもらおうと。もしくは、自分では戦わないものの、その協力をしようと集まってきた者たちです。

 すでに、その人数は1000人を越えていました。それでも、まだその勢いは止まりません。次から次へと新しい志願者がやって来るのです。


 それを、お城の窓から眺めながら、いまいましく思っている人物がいました。

 いつも、アルファベ国の王様の側にいる、あの大臣です。

「思った通り。あのアカサタという奴は、どんどん力をつけてしまっている。それも、個人の力だけではない。そんなものならば、どうとでもなる。1人がどんなに能力を極めようとも、たかが知れている。だが、あいつは民衆を味方につけつつある。これは、やっかいだぞ…」

 大臣は、そんな風に考えていました。


 このままのペースで成長が続けば、勇者アカサタは、本当に魔王を倒してしまうかも知れません。

 それはいいのです。王様にとっても、大臣にとっても、先代の王や、国に関わる全ての人間たちにとって、それは長年の悲願なのですから。

 問題は、その後です。仮に、勇者アカサタが魔王を倒し、世界が平和になったとして、民衆は誰を指導者に選ぶでしょうか?このまま、アルファベ国で王政が続く保証もありません。


 ここで大臣は考えます。

「方法はいくつかある。あのアカサタが、魔王を倒してくれ、同時に相討ちにでもなり、この世から消えてくれる道。だが、その可能性はかなり低いだろう。となれば、別の道を模索せねば。我々が、手を加えられる方法を…」

 大臣は、考えを続けます。

「暗殺?だが、そんなにうまくいくだろうか?アレだけの使い手を、誰が殺せるというのか?それよりも、懐柔かいじゅうし、味方の引き込む方がよいだろう。それ自体は、それほど難しいコトではない。そのために、今も惜しまず援助をしているわけだし。ただ、どこで心変わりするかわからん」

 さらに思考を深める大臣。

「いまいち、あのアカサタという奴の性格が把握しきれん。何を考えているのか、よくわからんし、『人の上に立とう!』という野望があるのかどうかもわからん。だが、奴自身がそれを望まぬとしても、周りの人間たちが勝手にまつり上げるかも知れん。昔から、民衆というのは、そういうものだ」


 そこまで考えて、大臣は考えを全く別の方向へと向けてみます。

「あるいは、今の内に王を見限り、あのアカサタについてしまうか?」

 けれども、すぐに頭を何度も横に振って、こう呟きました。

「いいや!いかん!いかん!そんなコトをしてはいかん!」

 大臣は、非常に頭の切れる人物であり、未来を予測してみせるのも得意としていました。けれども、そういう部分は義理堅い人だったのです。これまで、目をかけてくれた王様を裏切ったりする気はサラサラありませんでした。


「結局、人なんてものは、チッポケなものだ。私にできるコトなど、限られている。どんなに先の世界を見通そうとも、できるコトには限界がある。これまでは、世界を魔王に支配され、今度はまた別の者に支配されようとしている。たとえ、あの勇者アカサタがいなくなったところで、また新たな者が現われるだけかも知れん…」

 大臣は、そのように考え、さらに別の発想へと思考を飛ばします。

「もしも、私に、あの勇者アカサタのような力があったならば、一体、何を成すだろうか?どのような行動を取り、どのような生き方を選ぶだろうか?やはり、魔王を倒そうとするだろうか?このまま王につかえ続けようとするだろうか?あるいは、魔王の側についてしまう?もしくは、自らが世界の支配者となろうとする?」


 最後に大臣は、このような結論に行き着きます。

「おそらく、そんな風に考えている内は、永遠にそこにはたどり着けぬのだろう。権力とか、力とか、そのようなものではなく。もっと別の思考が必要なのだ。勇者アカサタには、それがある。この私には、それがない。どこかうらやましくもあるな、そのような生き方が。同時に、そこまで背負いたくはないという思いもある。大変だぞ、あのような人生は…」


 そうして、大臣はクルリと反転し、窓から離れ、いつもの業務へと戻っていったのでした。

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