動き始めた世界
そんなこんなで、勇者アカサタたちは、世界各地に存在する“魔王の配下が守る拠点”を潰して回りました。
おかげで、以前に比べて魔物の数は減りつつありました。徐々にではありますが、アカサタたちの行動は意味を持ち始めていたのです。
世界の人々は考えます。
「これまで、魔王を倒すだなんて、現実的ではないと思っていたけれど…」
「もしかしたら、可能なのかも知れない」
「魔物が街の周りを歩き回る生活が、当たり前だと思ってた。でも、そうじゃなかったんだわ」
「オレたちにも何かできるんじゃないか?勇者たちに協力する“何か”ができるんじゃないのか?」
そんな声が、街のあちこち、世界各地で聞かれるようになってきました。
そうして、アルファベの街を目指し、さらなる人々がやって来るようになりました。もちろん、新たな冒険者になるコトを目指して。勇者アカサタや、賢者アベスデに弟子入りしようと。あるいは、直接戦闘に参加するようなことはなくとも、何らかの手助けをしようと思って。
人だけではありません。世界中から援助物資が送られてきます。国からの支援も行われるようになってきました。おかげで、アカサタたちは、生活に困るようなことはなくなりました。暴れ竜リベロ・ラベロの食糧問題も解決しました。
それだけではありません。
アルファベの街以外でも、新たな冒険者たちが次々と誕生していきます。第2・第3の勇者アカサタになろうと、剣を手に取り、魔法の修業にいそしむ者が激増しました。
世界の流れが変わり始めたのです。
“世界を変える”
それは、並大抵のコトではありません。1人の力でどうこうなるものではないのです。
けれども、1度動き出した流れは、そう簡単に変えられはしません。人々の想いの力というのは、それほど強力なものでした。
まるで、最初は小さな“せせらぎ”に過ぎなかったものが、寄り集まっていくように。小さな小さな水の流れが集まって、1つの川となる。さらに、それらの川が集まって、大河を形成する。そうして、その大河は湖へと流れ込み、海へとつながってゆく。
それと同じように、1人1人の小さな力が集まって、巨大なウネリとなりつつあったのです。
*
勇者アカサタ自身も、それを肌で感じ始めていました。
どこの街を訪れても、街の人たちから大歓迎を受けるのです。もちろん、立派な宿泊所を提供してもらえます。それも、無料で。
食事だって、食べ放題です。その地方特産のとびきりおいしい料理がふんだんに振る舞われます。
冒険に必要な物資があれば、いくらでも与えてもらえました。ランタンやロープなどの小物はもちろんのこと、馬や馬車の大型の物資まで。アカサタが望むならば、何だって送ってもらえます。
もはや、かつてのようにお金で苦労する必要はなくなっていました。
ここで、アカサタはちょっぴり調子に乗ります。ほんのちょっぴりですけどね。
「ガハハハ!ガハハハ!見たか!これこそが、オレ様の力よ!」などと、偉そうな口をきいたりします。
けれども、決して目的は忘れません。魔王討伐という大きな目的は!
調子に乗りつつ、日々の修業も欠かしません。無理せず、コンスタントに続けます。“気の力”の修業だけでなく、剣も魔法もバランスよく。
もちろん、目の前の魔物の討伐も続けます。現実的には、その繰り返しが一番効果があるのですから。いきなり、魔王の所を訪れて勝負を挑むわけにはいきません。1つ1つ、魔王の配下の拠点を潰していくこと。それこそが、最も確実に魔王にダメージを与える方法でした。
こうして、またしばらくの時が経過しました…




