至高の音楽
暴れ竜リベロ・ラベロは、勇者アカサタたちと一緒に行動するようになっても、仲間になった気はサラサラありませんでした。
ただ、牛やブタやヒツジなど、やわらかくておいしいお肉が食べられるので、その点については「ありがたい!」と感じていました。そうして、「いつか、その分くらいはお礼をするかな?」と考えてもいました。
リベロ・ラベロは、雑食だったので、これまでもいろいろな物を食べて生きてきました。
魔王が、この世界に現われてからは、もっぱらヌーメア平原に生息する魔物が主な食料源となっていました。けれども、魔物の肉は固くてマズイことが多かったのです。それに比べて、人間の飼っている家畜のなんと美味なこと!
それと、もう1ついいコトがありました。
それは、音楽です。人間たちは、様々な歌や演奏を聞かせてくれたのです。
特に、ハープ奏者パールホワイト・オイスターの奏でる竪琴の音は、心を落ち着かせてくれました。
かつて、リベロ・ラベロに寄り添って生きてくれた少女のことを思い起こさせてもくれました。そこまでではないにしろ、その曲は心に染み入るようでありました。
「いずれ、“至高の音楽”に到達できるかも知れない…」
そんな風にさえ、考えていたのです。
*
一方、パールホワイト・オイスターの方はというと…
かつて、大都会ヒルマンに暮らしていた時に望んでいた、「誰か、この街から私を連れ出してくれないかしら?」という夢は、勇者アカサタによってかなえられました。
そうして、その後も、数々の戦闘をこなしながら、メキメキとその演奏の腕を上げていったのです。
けれども、彼女は、それでもまだ不満でした。
「もっと!もっとよ!私にはもっと先がある!神の領域にだって近づけるはず!誰か、私をそこまで引き上げて!何か、そのためのキッカケが欲しい!」と、そう願います。その夢は、どこまでも尽きないのでした。
巨大な竜の側で、竪琴を奏でながら、パールホワイト・オイスターは考えます。
「私には、このような能力がある。凶暴な生き物さえも静まらせる力がある。この力を、もっともっと極めていったら、どうかしら?そうしたら、神の奏でる音楽に近づけるかも知れない…」と。
その曲を聞きながら、暴れ竜リベロ・ラベロは、目を閉じてスヤスヤと眠っていました。いえ、正確には眠っていたわけではありません。目をつぶって、半分夢の世界で、考え事をしていました。
そうして、敏感に、竪琴の奏者の気持ちを感じ取っていたのです。
「オヤオヤ、さっきまでは純粋でよい曲だったのに。何やら、雑念が混じり始めたな。これではいかん。至高の曲に到達するためには、全てを忘れ、全てを捨て、ただその1曲にのみ没頭する必要があるというのに。かつて、アイツがそうしていたように…」
そうして、夢の世界に描き出した少女の姿を楽しんでいたリベロ・ラベロは、そのイメージがグニャリと歪んでいき、醜く変形していくのがわかりました。
「この子も、まだまだだな。理想の音楽に達するのは、いつになることやら?」
口には出さず、頭の中でリベロ・ラベロは、そう呟きました。
それは、もう夏も終わり、秋の虫たちが合唱を始める季節の夜のことでした。
パールホワイト・オイスターが奏でる竪琴の音が、その虫たちの声に重なって、美しくハーモニーを醸し出しています。普通の人が聞けば、充分過ぎるほど高度な演奏に思えたことでしょう。
その中に、わずかな邪念を感じ取り、未来の可能性と共に欠点をも見抜いたリベロ・ラベロも、また一流の聞き手であったというわけです。




