魔王の配下モロンネメット
勇者アカサタは、自分の体の3倍はあろうかというほど大きなクマの化け物を、目の前にしていました。
「我が名は、モロンネメット!魔王様に仕えし8大魔神が1人!」
大グマ、モロンネメットの強力な張り手を、剣を使って防ぐアカサタ。けれども、あまりの威力の大きさに、防御しきれず、そのまま背後に吹き飛ばされてしまいます。
立ち上がりながら、巨大な竜リベロ・ラベロに向って叫ぶアカサタ。
「オイ!お前も、ちったあ戦えよ!」
それを横目に、地面に横になったまま、めんどくさそうに答えるリベロ・ラベロ。
「まだまだ、このオレの出番ではない。その程度の敵、お前1人で倒せないでどうする?」
そう言いながら、暴れ竜リベロ・ラベロは、時々、前足を出しては、ペロリとゴブリンやオークを口に入れては噛み砕きます。
そうして、盾や鎧など固そうな部分だけ、器用に吐き出すのでした。まるで、ブドウの中身だけ食べて、きれいに皮の部分だけ口の外に出すように。
けれども、リベロ・ラベロの言うコトにも一理ありました。
あくまで、魔王討伐は勇者アカサタに課せられた使命なのです。そのためには、魔王には遥かに劣る能力しか持たない魔物たちなど、アカサタ1人で倒せなければなりません。
「ちぇ!しゃーねーな!」
文句を言いながらも、アカサタは敵に剣を向けます。
*
勇者アカサタたち冒険者の一行は、賢者アベスデの指示に従って、次なる“魔王の拠点”を破壊しにやって来ていたのでした。
今回の拠点は、深い深い森の中にありました。森の奥には、巨大な鏡が置いてあって、そこから次々と魔物が湧き出してきます。
それらを片づけながら、この土地を統治しているボスである大グマの元まで進んできたのです。
大グマ、モロンネメットの鋭い爪をかわしながら、勇者アカサタは弱点を探ります。
「フム。腕を振り下ろした直後に、隙があるか。バレバレだな…」
そう判断したアカサタは、次の攻撃を待ちます。大グマの右腕が振り下ろされた瞬間に、素早く敵の右側に回り込み、そのまま背後まで進み、思い切り剣で斬りつけます。
バシュッ!と飛び散る鮮血。叫び声を上げるモロンネメット。
「ギェエエエエエ!!!!!」
そんなコトが何度か繰り返され、大グマの体は切り傷だらけになってしまいました。
全身から血を流しながら、それでも向ってくるモロンネメット。
「無駄だよ。もう、既に見切っている」
そう言うと、勇者アカサタは再び相手の死角を突き、敵の体に新しい傷を加えます。
ハァハァと息を切らしながら、それでも戦闘の意欲を失わない大グマ、モロンネメット。
しかし、ここで、ついに諦めたのか、クルリと背を向け、4つ足をついて走り去ります。
「逃げるのか!?」
アカサタが、そう思った瞬間でした。大グマは、その強力な腕と爪で、巨大な鏡を破壊しにかかったのです。
「もはや、ここまで」と判断し、敵に利用されるコトを恐れて、魔物の湧き出てくる鏡を壊してしまったのでしょう。
そこへ、フッ…と1人の魔術師が宙に現われます。頭までフードをかぶり、顔はよく見えません。
「お前が、勇者アカサタか」
「何だ!?」と、アカサタは驚いて声を出します。
「なるほど。確かに、おもしろそうな奴だ。モロンネメットを、ここまで傷だらけにするとは」
「オイ!やんのか、テメー!オメーが次の相手か!?オラ、かかってこいよ!」と、挑発するアカサタ。
その様子を興味深そうに眺めている暴れ竜リベロ・ラベロ。もちろん、地面に寝転んだまま静観しているだけ。決して、手を出そうとはしません。
「まあ、そう焦るな。もう少し、お前の実力を見ておきたい。他にも、興味をそそられる部分もあるしな」
フードの魔術師は、そう言うと、手にした杖をサッと上から下へと振り降ろしました。
その瞬間、巨大な稲妻が轟音と共に地面へと降ってきました。続けて、猛吹雪が!
それらがやみ、アカサタが頭を上げると、もうそこには魔術師の姿はありませんでした。大グマ、モロンネメットと共に消え失せてしまっていたのです。




