エメラルドグリーンウェル嬢の1日
その日、エメラルドグリーンウェル嬢は、いつものように自宅から職場である研究所へと向っていました。
いつも通りの変わらぬ日常。世界のどこかでは、魔王の魔の手が広がっていると聞きますが、この辺りは平和なものです。それも、いつまで続くかわかりませんが…
ところが、ここでいつもとは違う出来事が起きたのです。
道を歩いていると、いきなり、わけのわからない男が声をかけてきました。
ははぁ~、この人が噂の人ね。新しい冒険者。“勇者”とかなんとか名乗っているお調子者は…と、思慮深いエメラルドグリーンウェル嬢は、すぐに察しがつきました。
それで、こう答えました。
「アラ?あなたが、有名な勇者アカサタさんね」
勇者アカサタは、全然人の話を聞きません。いきなり、“一緒に暮らそう!”だなんて言い始めます。
それでも、エメラルドグリーンウェル嬢は大人の女性であるので、慌てたそぶり1つ見せずに、こう返します。
「とりあえず、もっと強くおなりなさい。お話は、それからね」と。
*
エメラルドグリーンウェル嬢は、子供の頃から、この褐色の肌が嫌いでした。
「もっと真っ白に透き通るような肌をしていればよかったのに。そうすれば、人々からも憧れの視線を浴びることができたでしょうに。残念ながら、わたくしはそのような体には生まれてこなかった。わたくしは、なんて醜い肌をしているのでしょう…」
そんな風に考えて暮らしていました。
それが、植物と出会い、考えが変わりました。花や木を愛で、慈しみ、育てていく間に、植物に感情移入していってしまったのです。
「わたくしのこの肌は、木の幹であり枝である。この身を全身、緑色の葉で包み込みましょう。そうすることで、わたくし自身が1本の木となるのです」
そんな風に考え、その通りに実行しました。以来、エメラルドグリーンウェル嬢は、日中も寝る前も、全身を緑色で統一した服を着て暮らすようになったのです。
*
草色、もえぎ色、深緑、松葉色、コケ色などなど。緑系統の色で統一された衣装が、自宅のタンスの中にギッシリと詰まっています。
エメラルドグリーンウェル嬢は、自宅でシャワーを浴びた後、タンスの中から若葉色のパジャマを取り出して、着替えました。そうして、もう1度、その日のコトを振り返りました。
それから、一言、こう呟きました。
「まったく、変な人だったわね」
でも、あの人は、初対面で、わたくしのこの肌を褒めてくれた。“よく焼けたパンのようで、今すぐにでも食べてしまいたい”ですって。そんな風に思い、愉快な気分になってきました。
そうして、フフフッ…と微笑み、ベッドへと向います。
エメラルドグリーンウェル嬢、どうやら、今夜はよい夢が見れそうですね。