暴れ竜リベロ・ラベロの想い
暴れ竜リベロ・ラベロは、勇者アカサタを背に乗せたまま、昔のコトを思い出していました。
今から数百年も前、まだ自分の心をうまく制御できず、世界を暴れ回って生きていた頃のコトを…
それが、1人の少女のおかげで救われました。
少女は、とても美しい声で歌を聞かせてくれたのです。この世のモノとも思われぬほど美しい歌を。そうして、少女はそのままリベロ・ラベロの側に寄り添って生きてくれました。おばあさんになるまで。
竜に比べ、人間の寿命というのは短いものです。また、楽しい時間は瞬く間に過ぎてゆきます。やがて、おばあさんとなった少女は、この世を去りました。
それでも、その美しく幸せな思い出が、ここまでリベロ・ラベロを支え続けてくれていたのです。
けれども、その効果も、ついに切れる時がやって来ました。そうして、再び、暴れ竜は復活したのです。
何が悪いのかもわからぬまま、自分の心をコントロールできず、自暴自棄になって、周りの街や村を破壊して回ります。
モヤモヤとした嫌な感覚だけが、心の底に鬱積していき、リベロ・ラベロを動かすのです。
心の底の声は叫びます。
「破壊せよ!自分だけが不幸なのはつまらない。自分1人が孤独なのは不公平だ!だったら、世界を破壊して回り、みんなを不幸にしてしまえばいい!それこそが公平な世界なのだから!」
*
そこへ、勇者アカサタがやって来ました。
生意気で、口が悪く、偉そうで、力ある者に従おうともしない。そんな男でした。
けれども、そんな勇者アカサタに、リベロ・ラベロもまた親近感を感じていました。どこか自分と似通った部分を感じ取っていたのです。根本的な部分で孤独な自分と同じモノを…
だから、いきなり殺したりせず、自分の力を見せつけてみたのです。リベロ・ラベロにとってみれば、チッポケな人間1人をこの世界から葬るのは雑作もないことでした。
けれども、そうはしませんでした。そこには、ちゃんと理由があったのです。
「どこか、あの頃の俺に似ているな。世間知らずで、無鉄砲で、恐れを知らぬ若者。いや、似ているのは、今のオレか?しかし、奴には仲間がいる。このオレとは違う。似ているのは、もっと別の部分。心の底に埋もれた想い。あるいは、生き方そのもの。それぞれが背負っている運命のようなモノ…」
リベロ・ラベロは、そう考えます。
そうして、それを確かめてみたくなりました。勇者アカサタと自分と、どこが似ていて、どこが違うのか?“共通する部分の正体”を。
*
一方、勇者アカサタは、考えます。
「どうにかして、コイツを言いくるめるコトはできやしないだろうか?そうすれば、戦いを止めるばかりか、うまくすれば、仲間に引き入れるコトだって可能かも知れない。こんなスゲエ奴が仲間になれば、1000人力だ。もしかしたら、オレが戦わなくても、魔王を倒してくれるかも…」
そうして、リベロ・ラベロに向って、こう言いました。
「オイ!もう、弱い者いじめはやめろ!お前に“本物の実力”と“心の器の大きさ”があるなら、それを証明してみせろ!」
「証明だと?」と、暴れ竜は尋ねます。
「そうだ!証明だ!この世界には、お前よりもずっとずっと強い奴が大勢いる。たとえば、魔王とかな。お前の力で、魔王を倒せるか?どうだ?無理だろう?」
ハハ~ンと、リベロ・ラベロはすぐに察しがつきました。
コイツ、オレを乗せようとしてるな。言葉巧みに、このオレ様を操作しようとしてやがる。
そうして、こう答えました。
「いいだろう。魔王だろうが何だろうが倒してみせるさ。それで、お前が納得するならばな」
そう言いつつも、実際はそんな気はサラサラありませんでした。イザとなれば、アカサタを置いて逃げ出す気でいたのです。それで、アカサタの困る姿を見て楽しもうと思ったのでした。
…というわけで、新しく暴れ竜リベロ・ラベロが、勇者アカサタたちの仲間に加わったのでした。
いや、加わったのでしょうか?加わったかも知れない?加わる可能性もなきにしもあらず?
それは、まだわかりません。