空高く舞うアカサタ
暴れ竜リベロ・ラベロの口にくわえられた勇者アカサタは、そのまま物凄いスピードで運ばれていきます。偉そうなコトを言った割には、何もできず、そのままの姿勢でいるコトしかできません。
リベロ・ラベロは、ヌーメア平原の真ん中にポッカリと空いた巨大穴から飛び出すと、そのまま天高く昇ってゆきます。グングンとスピードを増す暴れ竜。
そうして、地面の穴が、アリの巣の入り口ほどの小ささになると、グッとスピードを落とし、くわえていたアカサタを口から放し、放り投げました。
ポ~ンッと空中へと投げ出されるアカサタ。
慌てて、1つの魔法を唱えます。
「フワリン!」
自分の体を宙に浮かせ、空中でホバリングする勇者アカサタ。そこに、スピードを落とした暴れ竜リベロ・ラベロがやって来ます。
アカサタは、どうにかこうにかその体につかまると、竜の頭の部分までよじ登って、こう言いました。
「なにしやがんだ!!あぶね~じゃねーか!!」
暴れ竜は、それを聞いて、愉快そうに笑っています。
「ワ~ハッハハハハ!どうだ、小僧?己の身のほどを思い知ったか?自分が、いかにちっぽけな存在か理解したか?」
アカサタは、負けじと答えます。
「ああ、知ったね!理解したね!だが、それがどうだと言うんだ?それで、オレがお前に勝てない証明になるか?」
「口の減らぬ小僧め。では、これではどうだ?」
そう言うと、リベロ・ラベロは急旋回し、今度は地面に向って飛び始めます。
そうして、あちこちの街や村を訪れては、自分を退治しようと準備を進めていた兵士や軍隊を攻撃し始めました。
全長が数十メートルもある巨大な竜の飛行です。
その体が近づくだけで、物凄い突風が吹き荒れ、人や家が吹き飛んでいきます。
さらには、暴れ竜の口から吹き出される炎は、木材建築の建物や、街の木々を燃やしていきます。
「どうだ?今度は、参っただろう?」
リベロ・ラベロのその言葉に、勇者アカサタはこう返します。
「ああ~、参ったさ。参った、参った。参りました。けどな、何百年、何千年も生きてきた偉大なドラゴン様が、この程度とは呆れ返る」
「なんだと!?」
竜の言葉には、明らかに怒りの感情が含まれています。フツフツとした怒りが全身からも伝わってきます。
ここで、アカサタ得意の話術が開始されます。
「リベロ・ラベロよ。確かに、お前は強いよ。ああ、強い。それは認めよう。だが、それは、上辺の強さに過ぎない。心の大きさはチッポケなもんさ」
「心が、小さい?」
「そうさ。どんなに強大な能力や攻撃力を手に入れようとも、心の器は小さなもんさ。それじゃあ、何の意味もない。生きている意味も価値も、な~んにもありゃしない。結局、お前がやってるのは、ただの弱い者いじめに過ぎやしないのさ」
「……」
ここで、リベロ・ラベロは、押し黙って考えます。
同時にアカサタも考えていました。
「コイツは、ほんとは寂しいだけなんじゃないだろうか?クリスマスの夜にひとりぼっちで過ごし続ける独身男性のようなものなんじゃないだろうか?」と。
どんなに仕事ができようとも、どんなにたくさんのお金を稼ごうとも、ひとりぼっちの夜は寂しいものです。特に、街中がきらびやかなイルミネーションで飾られ、腕を組んで歩くカップルや仲のよさそうな家族であふれている時期には…
アカサタは、リベロ・ラベロに、それと同じような雰囲気を感じ取ったのでした。




