ニシンのオリーブ漬けサンドイッチ
かつて銀鉱山だった街シルマイでの戦いを終え、アルファベの街に戻ってきた勇者アカサタは、また以前のようにノンビリと暮らし始めます。
…とはいっても、他の者たちに混じって、マジメに修業もするようになっていました。
日に何度か、わずか15分ずつ程度でしたが、“気の力”の修業を欠かしません。
それだけでも、基本的な能力は維持でき、基礎能力は上がっていきます。それさえやっておけば、応用はそんなに難しくはありません。
特に、勇者アカサタはそういうのは得意でした。その場その場で、応用を利かせ、奇抜なアイデアで新しい技を思いつくというのは。
苦手なのは基礎訓練。その苦手な基礎訓練を欠かさず行うようになってきたのです。これは、まさに無敵!
以前に身につけた「手の先から電撃を出す能力」と「自己回復能力」も、少しずつですが、その威力を高めつつありました。
それ以外にも、剣や魔法の修業にも参加します。
相変わらず、魔法の方は伸びが良くありませんでしたが、それでも少しずつは、成長を遂げつつありました。
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アルファベ国の首都アルファベの街は、以前にも増して活気あふれるようになってきています。勇者アカサタたちの活躍が世界中に知れ渡り、新しい冒険者が次から次へとやって来たからです。
そうして、お金や商品の流通も激しくなっていきます。おかげで、世界各国の食材も集まってきて、食文化も豊かになっていくのでした。
勇者アカサタは、最近出店したサンドイッチ屋へとやって来ています。
「うん!ウメェ!この街がにぎやかになって、世界中のうまい物も食えるようになって、万々歳だな!」
それを横で聞いていた女勇者ハマヤラが、こう返します。
「あんたは何を食べても、そんなでしょ?ウメェウメェって、ろくに味もわからないくせに…」
「そんなコトねぇよ。オレにも、うまいもんとマズイもんの違いくらいはわかるって!」
「だから、うまいとマズイの2つしかないでしょ?って言ってるの。アラ?でも、確かに、ここのサンドイッチはおいしいわね。どれを食べても、おいしく感じちゃう」
手にしたサンドイッチをほおばりながら語る女勇者ハマヤラの言葉に、「ほら見ろ、お前だって同じじゃねーか!」と、ツッコミを入れる勇者アカサタ。
サンドイッチとはいっても、いろいろな種類があります。
中に入っている食材だけではなく、パンの種類から、調味料まで、様々なこだわりを持って作られているのでした。
アカサタが頼んだのは、“子羊のステーキサンド”
やわらいラム肉に塩コショウを振り、ニンニクチップと一緒にサッと焼き、レタスと一緒にパンにはさんだものです。
パンは食パンではなく、たっぷりとゴマの振りかけられたライ麦パンを輪切りにしたものが使用されています。少し固めのパンですが、ここに子羊の汁がたっぷりと染み込んで、シンプルながら迫力のある味がします。
それに対して、ハマヤラが頼んだのは、“ニシンのオリーブ漬けサンドイッチ”
大量のオリーブオイルに漬けられたニシンと共に、プチトマトやタマネギのみじん切りなど、食べやすくカットされた数種類の野菜が、はさまっています。
使用されているパンは、軽くソテーされた薄切りの食パン。それに、バターとマスタードが塗られていて、なんとも言えない味わいを醸し出しているのでした。
「ま、それはいいんだけど、そろそろ次の魔物の拠点を叩きに行きましょう…って、アベスデさんが言ってたわよ」
女勇者ハマヤラの言葉に、とてもめんどくさそうに答える勇者アカサタ。
「え~!この前、帰ってきたばっかりだろう!?もう、次に行くのかよ…」
「こういうのは、サクサク進めていった方がいいってアベスデさんが言うのよ。敵に復帰の隙を与えないように、次から次へと叩いていった方がいいんだって」
「ま、しょうがねえな…いっちょやったるか!」と、勇者アカサタもやる気を出し始めます。
さらに、追加でサンドイッチを注文する勇者アカサタ。
「とにかく、今は腹ごしらえだな。こんなもんじゃ食い足りねえ。まだまだ、いくぜ!」
注文したのは、ハンバーガーバンズに、牛肉と青ネギを唐辛子と一緒に炒めたものがはさまっているタイプ。それから、ホットドッグパンに切れ目を入れ、そこにポテトサラダとベーコンとチーズが入ったサンドイッチ。これは、隠し味に天然のハチミツが使われています。
さらには、デザートとして、リンゴとオレンジとブルーベリーがふんだんに使用されたベーグル。
それらを、ミルクたっぷりのコーヒーを片手に、次から次へとたいらげていく勇者アカサタでありました。




