魔物の拠点探し
それから数日をかけて、冒険者の一行は、シルマイの街の周りを探索して回りましたが、それらしき場所は見つかりません。この辺りに、魔王の配下の者が拠点としている場所があるはずなのですが…
「おっかしいわね。ほんとに、この辺なの?」と、炎系魔法の使い手スカーレット・バーニング・ルビーが、痺れを切らして言い出します。
「そのはずなんじゃが…」賢者アベスデが申し訳なさそうに答えます。
「そもそも、アベスデさんは、どうやって発見したんですか?何が方法があるんでしょ?」と、女勇者ハマヤラが尋ねます。
すると、アベスデは1枚の地図を取り出すと、手に杖を持ち、何やら呪文を唱え始めました。
地図には、世界の地形が記されています。アベスデが呪文を唱えた途端、地図上のあちこちに無数の赤い点が浮かび上がりました。
赤い点は、大きなモノもあれば小さなモノもあり、様々な大きさをしています。
「この点が魔物の居場所を示しておる。点の大きさが大きければ大きいほど、魔物の数が多いというわけじゃな」
地図を覗き込みながら、賢者アベスデの説明に、皆が頷きます。
「以前は、この辺りで大きな反応があったのじゃが。今、見ると、消えておるの…」と、アベスデ。
「どういうコト?アタイたちが来るのを察知して、どこかに隠れた?」と、女海賊マリン・アクアブルーが問いかけます。
ゲイル3兄弟の1人、デブのデブールも言い出します。
「オレらに恐れをなして、逃げ出したってわけっすね」
「じゃあ、早いとこ、別の場所に移動して、そっちを叩きに行きましょうよ!」と、スカーレット・バーニング・ルビー。
「ウ~ム…果して、そうじゃろうか?」と、賢者アベスデは疑わしそうです。
そこへ、鉱山跡を探索していたアゴのなが~いアゴールと、ハゲのハゲールの指揮する部隊が帰ってきました。
「一番怪しそうな銀鉱山跡を探ってみましたけど、何も見つかりませんね。ただ、あまりにも広過ぎて、全部を探索するのは無理そうです。内部は複雑に入り組んでいるし、狭くて通れない場所もたくさんあるし」と、アゴール。
「たまに、魔物と遭遇しても、ザコばっかりですね。てんで相手になりゃしない」
こっちは、ハゲールのセリフです。
「ウ~ン?どうしたものかしら?」と、女勇者ハマヤラも悩んでします。
どうやら、万策尽きたようです。
その頃、勇者アカサタはどうしていたかって?
相変わらず、ボ~ッとしたままです。みんなと一緒に魔物の拠点探しには同行していますが、ブラブラと歩き回るばかり。まるで、頭のボケかけた老人が近所を徘徊するみたいに。
*
その夜のコトです。
女勇者ハマヤラの元を1人の少年が訪れてきました。
「やあ!お姉さんたちは、魔物退治に来たんだろ?それで、魔物たちがどこにいるか知りたいわけだ?」
少年は、そう話しかけてきます。
「そうよ。あんた、どこに隠れてるか知ってるの?」と、ハマヤラ。
少年は、自分はポテイチという名だと名乗ってから、答えました。
「まあね。その場所を教えて欲しい?」
「もちろんよ!」
「ただし、それには1つ条件があるんだけど。いいかな?」
「条件?どんな?」
「もしも、お姉さんたちが魔物たちにやられちゃって全滅してしまったら、その時は何もなしでいい。それとは逆に、魔物の方を全滅させてしまったら…その時は、僕らを救って欲しいんだ?」
ポテイチ少年は、おかしなコトを言い始めます。「魔物に襲われているから救って欲しい!」ならわかりますが、それとは全く逆。「魔物たちを退治した後に救って欲しい」だなんて。
「ちょっと意味がわかんないわね…」と、女勇者ハマヤラは答えます。
「今はわからなくてもいいよ。全てが片付いてからわかってもらえば、それでいい。とにかく、僕ら全員、この街の人たちみんなを救って欲しいんだ。約束できる?」
いくら寂れた街とはいえ、このシルマイには、まだ数百人の人が残り、住み続けています。結構な数です。
よくわからない約束でしたが、とりあえず背に腹は代えられません。女勇者ハマヤラは、ポテイチ少年と約束するコトに決めました。
「わかった!どうにかするわ。約束する!」
「オッケ~イ!」
そう答えると、ポテイチ少年は、説明を始めました。
*
ポテイチ少年の話によると、こういうコトでした。
「この街の近くにある鉱山跡地からは、月に1度、物凄い数の魔物たちが現われて出てくる。どこから現われるのかは、わからない。おそらく、鉱山の奥深くがどこかにつながっているんだと思う。地獄とか、そういう場所に。そうして、それは決まって満月の夜なんだ」
女勇者ハマヤラが、みんなを集めて、その話をしています。
「ただし、私たちがここにいると、魔物たちは警戒して現われないかも知れない。だから、1度、この街を去るフリをした方がいい、って言うの」
それを聞いて、アゴの長いアゴールが答えます。
「なるほどな~!どっから来るかは知らんが、そういう仕掛けか」
デブのデブールも乗ってきます。
「じゃあ、その日に備えて、一網打尽にしてやりやしょうぜ!」
一同、それに賛成します。
1度、アルファベの街へと帰るフリをして、船に乗って出航する。そうして、直前になって舞い戻ってきて、満月が出るのを待つ。そこで、一気に敵を叩く!そういう作戦でいくことになりました。
 




