賢者アベスデに教わる女勇者ハマヤラ
勇者アカサタの魔法能力は、相変わらずちっとも上がりません。
賢者アベスデとしては、教える気満々なのですが…
そもそも、アカサタは頭を使うコトに向いていないのです。自分なりに、いろいろと考えたり想像したりすることはあっても、複雑な理論を必要とする分野は苦手でした。
そうではなく、もっと感性とか感覚とか経験などといったモノを必要とする分野の方で力を発揮するタイプだったのです。
魔法というのは心の力。けれども、それだけではいけません。同時に、複雑な理論を必要とするのです。高度な魔法になればなるほど、その傾向は強くなっていきます。
勇者アカサタは、魔法を習得する為の条件の半分しか満たしていないのでした。
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そんなある日、女勇者ハマヤラが、こう話しかけます。
「ねえ、アベスデさん。私にも、魔法の修業をつけてもらえませんか?」
そう言われて、賢者アベスデは迷いました。アベスデとしては、教えてやりたいのは、勇者アカサタの方なのです。
もしも、これ以上、世界に知られていない魔法が広がってしまったら、この世界はどのような姿に変わっていくのか想像もできません。
そもそも、強力な魔法を教えてしまった者が、また寝返らないとは限りません。新たな魔王や、かつての勇者たちのような存在に成り果ててしまう可能性だってあります。
それでも、と賢者アベスデは考えました。それでも、別の可能性に賭けてみるか。これまでの方法で駄目だったのならば、他の方法を試すしかない。
どうせ残りの寿命も、そう長くはないだろう。おそらくは、これが最後のチャンス。ならば、できる限りのコトをし尽くしてから終わりにしよう。
そのように考えたのです。
「いいじゃろう」
そう答えると、賢者アベスデは女勇者ハマヤラに、もう1度、魔法の基礎から教え始めました。ハマヤラも基本的なコトくらいはマスターしていましたが、それらを1度全部忘れさせ、最初から覚え直すコトで、さらなる広がりと深みを得たのでした。
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毎日のように、女勇者ハマヤラは賢者アベスデの元を訪れ、魔法を基礎から学び直していきます。そうして、メキメキとその実力を上げていくのでした。
なにしろ、教える方は、世界最高峰の能力を持った魔術師なのです。それどころか、現代魔法の基本は、アベスデが作り上げたと言っても過言ではありません。
もちろん、ハマヤラのにもその才覚はありました。急激なスピードで成長していくには、それなりの理由というものがあります。元々の頭の良さに加え、「アカサタを助けたい!魔王を倒すために最大限の援助がしたい!」というその強い思いが、成長を促進させていたのです。
ハマヤラだけではありません。
スカーレット・バーニング・ルビーもまた、賢者アベスデに就いて、学び始めました。そうして、その炎系の魔法を、より一層極めていったのでした。
そうこうしている内に、他の魔術師たちも賢者アベスデの元を訪れ、師事するようになっていきます。
ここで学んだ魔術師たちは、新しい時代の世界を担っていくコトとなるのですが、それはまた別のお話。機会があれば、語らせていただくことといたしましょう。
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賢者アベスデは、1人になった時に、こう呟きます。
「こういうのも、いいかも知れんな。これまで私も、1人の勇者を育てるコトにこだわり過ぎていたかも知れん。もっと、大勢の者たちに知識をわけてやるべきじゃったのに…」
もちろん、アベスデも賢き者であります。その危険性は、いまだに熟知しておりました。
世界の進歩が速まれば速まるほど、世界の崩壊のスピードも、また速まるもの。ある意味で、それは魔王ダックスワイズのやっているコトと同じなのですから。
「願わくば、この者たちが、身につけた能力を賢き方向へと使ってくれんことを…」
賢者アベスデは、そう願います。
仮に、この世界から魔王を消し去ったとして、アベスデの望み通りに世界は進んでいくのでしょうか?それは、まだこの時点ではわかりません。




