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戦いの思考

 女勇者ハマヤラの引き連れてきた者たちと戦いながら、勇者アカサタは考えます。

「コイツらの中にも、ただガムシャラに突っ込んでくる者と、冷静にこちらを観察してくる者の2種類いる。何も考えずに突っ込んでくる者は、言っちゃ悪いが、大した実力はない。それに比べて、一瞬でも観察し、すきを突こうとしてくる者は、まだ少しは歯ごたえがある」


 勇者アカサタは、さらに考えを進めます。

「この図式は、そのまんま、このオレとアベスデのじいさんの戦いにあてはまる。あそこで、むやみに突っ込んでいかなかった。それは、やはり正解だったのだ。落ち着いて、相手を観察する。そこまではいい。だが、それには続きがある。その続きが見えてこない。さて、どうしたものか?」


 アカサタは、以前に比べて、戦いに関して考えるようになっていました。相手が強ければ強いほど、その傾向も、また強まっていきます。

 それまで、ただ自分の心のおもむくままに、おのれの感性にのみ従って戦っていたとのは全然違います。

 もちろん、はるか格下の相手であれば、そういう戦法も通用するでしょう。けれども、逆に自分よりも強大な敵と向かい合った時には、そうはいきません。常に、頭を使いながら戦っていかなければならないのです。


         *


 フッ…と、アカサタが意識を切り、戦いの思考から戻ってくると、人々の声がしています。

 さっきまで、必死になって向ってきていたあらくれどもが、勇者アカサタの周りに集まってきて、口々に叫んでいるのです。

「アニキ~!アカサタのアニキ~!」

「ハマヤラのあねさんが言ってた通りでしたぜ!さすがに強い!こりゃ、オレたちがたばになってかかっても、かないませんや!」

「ハマヤラのねえさんに言われるまでもねェ!オレたちの方から、お願いしますぜ。オレたちをまとめ上げる頭領とうりょうとなってくだせぇ!」

「兄貴!いや、これからは師匠と呼ばせていただきます!師匠!さっそく飲みに行きましょうや!師匠もいける口だって聞いてますぜ!」


 いつもの調子であれば、勇者アカサタの方から誘いかける場面です。

「オッシャ~!者ども、酒場に繰り出すぜ!」とかなんとか言って。

 ところが、今回は違っていました。

「ん?ああ、そうだな…」などと気のない返事をするだけでした。


 実は、アカサタは以前ほど、お酒を飲むのを楽しいとは思わなくなりつつあったのです。

 その代わりに、こんな風に感じていました。

「フム…“強くなる”ってのは、結構楽しいものかも知れないな。これが、なかなか奥が深い。もっともっと追求してみたいな、この奥の深さを。もっと、強さというモノを求めてみたい。戦いについて研究してみたい」と。

 これまで、エロ関連以外にはあまり深く興味を持てなかった勇者アカサタでありますが、この頃から段々と、戦いや強さについても興味をいだきつつありました。


         *


 酒の席へと移動しても、それは変わりません。

 相変わらず、勇者アカサタの頭の中は、戦いの思考でいっぱいです。

 そうして、みなに、こんな風に尋ねてみたりするのです。

「なあ?意識するのに、意識せず。それって、何だと思う?」

 それを聞いて、周りにいた男たちの1人が問い返します。

「何ですか、そりゃ?禅問答ぜんもんどうか何かですかい?」

「いや、いいんだ…」

 そう答えて、再び思索しさくにふけるアカサタ。おかげで、場は盛り上がりません。


 その様子をはしで眺めていた賢者アベスデが、見るに見かねて声をかけてきます。

「悩んでおるようじゃな、アカサタよ」

「あ、アベスデのじいさん」

「お前らしくないのではないか?が、それも結構。時として、人は悩み迷う時間も必要なものじゃて。もっとも、私は悩み過ぎて、こんな風な人生になってしもうたがな」

「それでは、悩むのがいいのか、悩まないのがいいのかわかりませんね」と、アカサタは返します。

「フム。それでよい。悩むがいいか、悩まぬがいいか、そこに悩む。それも、また一興。それらを繰り返しておる内に、自然と答は見えてこよう」

「じいさんの話は、いつも難しいな…わかったような、わかんないような。いつもけむに巻かれたような気分にさせられてしまう」

「ホッホッホ」と愉快そうに笑う賢者アベスデ。


 突然、立ち上がると、こう叫び出す勇者アカサタ。

「オッシャアアアアアアアア!悩んでばかりいても、しゃあねぇ!!今夜は飲むぞ~!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 と、途端に場は盛り上がります。

 その後は、またいつもの調子に戻って、側にいた女の子にちょっかいを出したり、バカ話に花を咲かせたりして楽しむ勇者アカサタなのでありました。

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