おばあちゃんと魔法のお菓子
エピローグです。
◇ 5月
あれから、桜は何度その花を咲かせ、散らせていったでしょう。
私も中学の制服がすっかり板につきました。……と思ったら、これを着るのもあと半年と少し。時間が流れるのは本当に早いものです。
身体の凹凸も人並みには出て、髪も肩あたりまで伸びました。そして、登校前にはいつも鏡の前で笑顔の練習をします。
「私も、あなたみたいにチャーミングになれてますか? おばあちゃん」
窓から空を見上げて一人呟いてみます。
あの病院騒動があってからも、毎年ゴールデンウィークの初日にはおばあちゃんの家に遊びに行きました。
縁側でおしゃべりしたり、新作せんべいをおススメし合ったり。
そんな風に、少しずつですが確実におばあちゃんとの思い出は増えていきました。
そして去年。
ちょうど桜の木が緑色を増やしはじめる頃……おばあちゃんは向こうの世界に旅立っていきました。
年齢が三ケタに突入した次の日のことでした。大往生です。
あの日のおばあちゃんは、いつものように穏やかに微笑んでいました。一つの人生を全うして満足したような、そんな表情でした。
最期まですごくおばあちゃんらしくて。
そんな彼女と一緒の時間を過ごすことができて。
私は感謝の気持ちでいっぱいになりながら頬を濡らしました。
おばあちゃんがいつも見せてくれたあの笑顔は、今でも私の最大の目標なのです。
あの日からちょうど一年。
学園生活はとても順調です。友達も沢山いて、放課後には一緒に新作スイーツなどを食べに行ったりもします。たまに驚くぐらい美味しい一品にも出会えます。パティシエ……恐るべき存在です。
でも――
それでもやっぱり……私はおせんべいが一番好きです。
だってそれは、おばあちゃんと気持ちを共有できた唯一の、魔法のお菓子なのですから。
~おわり~
これにて完結です。
最後までお読みいただきありがとうございました。
では、またお目にかかれることを願っています。