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おばあちゃんとせんべい

日記のごとく、プロットもなしに書き始めた作品です。

私の4001字~40000字の短編作品では、かなり飛んで八作目です。



 ◇ 5月


 小学校も四年生になったばかりの私――佐倉日和さくらひよりは、家族と一緒におばあちゃんの家に遊びに行きました。

 毎年ゴールデンウィークの初日にはここへ来るのですが、その時はなぜか普段よりちょっとウキウキして、普段よりちょっとおめかしして……要は、ちょっとした旅行気分なのです。

 いつもながら大きい和風の家で、リッパな縁側やキレイな中庭まであります。そして……。


「おばあちゃん。それって、そんなにおいしいのですか?」

「んあ?」


 バリバリ。

 バリバリ。


 私が来る時は決まって、縁側でおばあちゃんがおせんべいを食べているのです。そのパワフルさ、とても九十五のお年寄りのものとは思えません。ちなみにその日は、少し濃い色の醤油せんべいでした。


 たしかおばあちゃんの歯はぜんぶ入れ歯だったはず。なのにいつもいつも、カタそうなおせんべいを食べています。頬っぺをりんごのように赤く染めてニッコリ笑うおばあちゃん。その笑顔が何ともチャーミングで、私もついつられて笑ってしまいます。でも頭の中では彼女の口元ばかり気にしていました。


 それって、そんなにおいしいのですか?

 自分の歯をギセイにしてまで食べたいモノなのですか?


 そんなギモンがうっかり口に出てしまう、よく晴れた日の午後でした。

 そして……


「ああ美味しいよ。日和ちゃんも食べるかい?」


 何と入れ歯族への入団のお誘いがあったのです!


「えと、どうしよっかな……」


 わりと本気で悩みました。私は今まで、アイスやスナックなどの洋風なお菓子ばかり食べて生きてきました。なので、とつぜん訪れたおせんべいデビューの機会に少しビビってしまったのです。

 本音を言うと少し興味もありましたが、この歳で入れ歯は絶対にさけたいところです。

 ですが私も女です。胸はないし髪も短いしアホ毛はセットしても直りませんが、やはり女なのです。やる時はやると決めているのです。


「それじゃ、一つだけ……」


 茶色くて丸いおせんべいを一枚つまみます。そして、体の中から叩いてくる心臓を深呼吸で落ち着かせたあと、私は「えいやっ」と、その食べ物にかじりつきました。


「あがっ!」


 か、カタい! ふえぇぇ……! 前歯が砕けるかと思いました……。予想をはるかにこえる防御力でした。そんな私を見て、おばあちゃんは大いに笑います。


「おやおや、日和ちゃんは豪快だねぇ。ふぇふぇふぇ」


 いつもながら変わった笑い声です……。でも笑いごとではありませんよおばあちゃん! よくいつもこんなけしからんモノを食べてますね! 私は涙目でうったえます。


「……あ、あれ?」


 ですが、変化はすぐに訪れました。

 噛めば噛むほど、サクサクとした音が心地よくなっていき、ほのかな醤油の香りがほんわりと口いっぱいに広がってくるのです。

 アイスやケーキほど甘くない。スナック菓子のような手軽さもない。でも、今までに感じたことのない、とても深みのある味と食感だったのです。


「お、おいひい、です」


 ……前歯は痛かったですが。


「そうじゃろそうじゃろ。これで日和ちゃんとまた一つ、気持ちを共有できたの~」


 じんじんとした痛みでしたが、おばあちゃんの穏やかな笑顔を見ていたらどうでもよくなってきました。それに、おせんべいの素晴らしさに気づけた喜びに比べれば何でもない痛みです。


「私もおせんべいが気に入りましたよ! おばあちゃん!」

「さよかさよか。ふぇふぇふぇ!」


 しばらくおせんべいを食べながら、二人で笑い合いました。まるで魔法にかかったかのように、おいしくて楽しくて仕方ありませんでした。


「私もこれからはおせんべいを沢山食べますよ!」

「ああ、そうせぇそうせぇ」


 その日から、私の三時のおやつはおせんべいになりました。


 ある時は海苔せんべい。またある時は揚げせんべい。ぬれせんべいは少し苦手でしたが数をこなせば案外イケるようになりました。でも、毎日おせんべいばかり食べていれば自然と飽きが来ます。その時はかっぱのえびせんやおにぎり型せんべいでしのぎました。

 こうして、私のせんべいライフは順調に進んでいったのです。



以降、月単位の日記形式で進んでいきます。

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