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第一編 Chapter1 (2)

…は?

今なんと言っただろうか、尾井は。

―『獣人』―

自分たちは、人間ではなく、獣と人間の混血だなんて…。

(信じられるか…)

僕は心の中でそれを一笑に付そうとした。だが、何故かそれは出来ないような空気を、尾井は流しながら続ける。

「俺達、十神学園の生徒や教師、いや、この四方を山で囲まれた十神地区の住民全員が、『獣人』で構成されている。ただの一人も例外はない。何を隠そう、君達がここに来る原因にもなった、君達の親も、獣人なのだよ。」

…父さんと母さんが、獣人?

あまりにも非現実的な話に思考がフリーズしかけたが、状況把握の為、すがりつくように尾井の話を聞く。

「獣人という種族は、文字通り、獣の血を通わせる人間のことだ。獣人はちょうど人間でいう、思春期に当たる時期に『野生化』という変化が起きるのだよ。野生化とは簡単に言えば、獣人が最も獣に近づく時期、かな。これを改善をせずに放っておくと、将来的には人間の社会になじめなくなる。人間ではなく獣に近づいてしまうからな。そしてつまり、この野生化を改善する為に創られたのが、この十神学園と言うわけだ。」

なるほど、『獣人』学園ね…。

そんなことをぼんやり考えて、半ば唖然としていると、

「この学園についての説明は以上だ。ここから獣人のことについても色々、話すことはあるんだが、少し時間を置くことにする。では、解散。」

尾井はそういって話を打ち切った。

そうして尾井は、そそくさと教室を去った。

教室は、しぃんと静まっていた。




***

その後、僕と大地と叶絵は、一旦自分たちの寮に向かうべく別れた。

父さんは僕の寮まで用意していたらしく、住所の書いた紙と家の鍵を渡されていた。

(確かに、父さんの言っていたことは正しかったな…)

さっきの尾井の話を受けて、僕はぼんやりとそう思っていた。

確かに、あの日に獣人がどうのこうのなどと父さんが言い出したら、僕は迷わず父さんを精神外科に連れて行っていただろう。

いや、違う…

父さんは、僕が反発するのを恐れたのだ。

確かにあの日、獣人なるものが通う動物園のような怪しげな学校に通え、といきなり言われていても、僕は何が何でも反発したかもしれない。

そして、そのまま野生化を改善せずにスルーして過ごし、社会になじめない男になり果てて人生どん底まっしぐら…なんてことになっただろう。

まあ、尾井が言っていた言葉が本当なら、の話だが。

だが、

(まったく、なんてわかりにくい愛なんだよ…)

と、僕は呆れ半分、嬉しさ半分の気持ちになった。



そうこう考えているうちに、寮に到着した。

自分が今持っている紙には、こう書かれている。

「黒乃アパート301号室。101号室の大家さんへの挨拶を忘れるな!」

父さんの言葉通り、僕は小綺麗な外装のアパートに入り、そのまま101号室に向かった。

そして、やや躊躇いがちにインターホンを押す。

数秒すると、扉が内から開き、中から60歳くらいのお婆ちゃんが出てきた。

とても優しそうな表情をして、僕に言った。

「はいはい、どうしたのかね?おや、見ない顔だけど、新入居者さんかね。」

「はい、今日から301号室でお世話になります、真堂哲志です。よろしくお願いします。」

僕ははっきりとした声で自己紹介した。

すると、大家さんらしきお婆ちゃんは少し目を見開いたかと思うと、また優しい顔に戻って言った。

「あんたが、真堂の息子かぇ。いやいや、思っていたより男前じゃのう。」

「…あの、父さんをご存知で?」

「ああ、何せ、あいつもこの寮で3年間過ごしたからのう…」

何!?

父さんも学生時代、このアパートを使っていた!?

僕の疑問を察してか、お婆ちゃんは続ける。

「獣人の学生が卒業し、寮を出るときは大抵、その部屋を将来の自分の子供に託していくのだよ。子供がここに来ることは、出産時から決まっているからね。」

「じゃあつまり、この部屋は父さんのお下がりってことですね。」

「ま、そういうことじゃ。」

出産時から決められていた自分の進路に、僕は複雑な気分になった。

「今日は疲れたじゃろ。部屋でゆっくり休みなさい。部屋は今日から使っていいからね。」

「ありがとうございます。では」

「あいよぅ、頑張るんじゃぞ」

自分の部屋へ向かおうとして少し歩くと、ふいに後ろから声が聞こえた。

「忘れておった。私は黒乃菊代。お前さんの父ちゃんからは、菊代さんと呼ばれておったよ。」

と、少し遅めの自己紹介が聞こえたので、

「分かりました。菊代さん」

僕はそう返して、部屋に向かった。




***

301号室は、階段を登ってすぐのところにあった。

予めもらっていた鍵を使って中に入る。部屋の中もそこそこ小綺麗な洋室で、必要最低限の家具が置いてあり、確かに使った面影がまだ残っている。

とりあえず、僕はベッドにボスンと横になった。

(さて、今日のことはどうするかな…)

正直、尾井の言っていたことは理解できた。

ただ、実感が全くないのだ。ちょっとやそっとで実感できる問題ではないだろうが…

僕の中に、何かモヤモヤしたものが漂う。

(尾井が言っていたことは、案外正解かもな…)

確かに、あのまま獣人についての知識をダーッと言われた所で、いつか限界が来ただろう。

尾井のこのやり方にもどこか慣れのようなものを感じる。

腕時計を見ると、

(12時25分…)

まだ昼である。それはそうだ。入学式とHRで終わったのだから。

だが、色々な疲れが溜まってか、ベッドに寝たままいつの間にか、僕の意識は途絶えた。





はっと、空腹で目が覚めた。辺りはもう暗くなっている。

腕時計を見ると、

(20時16分か…)

どうやら、8時間近く眠っていたらしい。

ぐぎゅるぎゅる~っと、なにやら腹部のほうから騒音がしたので、僕はとりあえず、コンビニでも行こうと、ベッドから立ち上がった。

すると、視界の端、机の上に何やら手紙のようなものが映った。

(…封筒?)

僕はそれを手にとり、開封した。すると、中には2枚の手紙が入っていた。

差出人は…

「真堂徹…。父さん!?」

僕が寝ている間に来たってことはありえない。では、元々ここに置いていたのか。

まさかの父さんからの置き手紙に驚きつつも、僕はそのうちの1枚を手にとって読み始めた。


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