第一話 僕は恋をしている
僕は恋をしている。
理由なんてわからない。気付けばしていた、というのか。いつだって、彼女を目で追っていた。
僕は生まれてこの方恋なんてしたことがない。だから、そういったものに関わることもなかった。この感情を指摘された時、心底動揺したものだ。
久東錬次、私立若月高校二年、血液型A型、特技は色々と先読みすること(別に中学二年特有の病気ではない。散々馬鹿にされたが、この特技はじゃんけんやら何やらで実証済みである)、趣味は漢字の書き取り、部活は無所属。僕が春、彼女と同じクラスになって自己紹介という機会に明かしたプロフィールである。
時間が一分というものであり、これだけ話して余った時間は二十三秒くらい。もう少し面白味のある紹介が出来れば良かった、と今では空しく後悔が残るばかりであるが過去は戻って来ない。今、思い返すだけでもつまらない人間。漢字の書き取り(ノートの半分を同じ漢字から始まる熟語で埋めている)が趣味ってなんなんだ。よく考えれば結構な変態じゃないか。残念なことにやらなければ気持ち悪くなるほどに定着してしまった習慣なので、今更やめることは出来ないのだけど。
そんな貧弱な精神で女性に恋など出来るのか、と問いたくなってしまう。
ちなみに、その女性の情報。
篠本凉子、同学年同クラス、血液型AB型、特技は剣道、趣味は朝のジョギング、部活は剣道部。
ここまでが自己紹介から得た情報。そしてここからは何気なく、目で追って得た情報。
彼女は非常に人気が高い。男女構わず人望があり、教師も彼女には絶大な信頼を置いている。どちらかと言えば体育会系だ。
良い香りのする腰まで伸びた艶のある長い黒髪、凛とした佇まい、よく通る澄んだ声、容姿は学年一と言っても過言ではない。個人的な美的修正が含まれずとも。成績だって常に三位以内入っている優等生だ。
絵に描いたような、とはまさにこのこと。そのうち神にでもなりそうな勢いだ。
そんな彼女。当たり前のように週に三回は告白を受け、毎度のようにたった一言「忙しいから」で断るという。その時のささやかな笑顔も忘れない。僕も、その現場を何度か目にしたことがある。……不思議なことに、断られた相手はそれほど落胆した様子はない。どうやら、彼女と話せたことだけで十分、ということらしい。傍から見れば多少変態チックである。
さて、僕が釣り合うのかどうか。
まさか、そんなわけがない、のはわかっている。何せ相手はどこの漫画のヒロインだよと、ツッコミを入れたくなるほどのステータスだ。アルティメット凡人の僕が釣り合うなんて、そんな夢は見ちゃいない。僕はクラスでも目立たない方だ。クラスに一人はいる、「ああ、そういえば」と言った後に出て来るくらいの知名度。成績は平均。顔も普通。平均以上を求められる現代では確実にいずれ排斥されるであろう人間。彼女とは雲泥の差だ。
しかしなんと、その時になるまで僕も気付かなかったのだけど、僕はかなり諦めが悪い人間であるらしい。というか、楽観的なのだ。
告白が失敗するのを見る度、ああ、彼女が僕の告白をオーケーしてくれる前に誰かと付き合うことにならなくてよかった、なんて、強気の姿勢である。そもそも、告白どころか、会話すらまともにしたことはないのに。釣り合うわけがないと、わかっているのに。
そもそも、コミュニケーションという点では。
クラスで会話する人数は二、三人ほど。それ以外の生徒とは会話どころか目すら合わせない。
なんというか、付いて行けないのだ。話題に。
「ねえ、あの××見たー?」とか「あの●●●●って娘、可愛いよね!」とかエトセトラ。まるまるだのもりもりだの、皆して狂ったように口ずさんで、アレは宗教的な何かなのか? 一日のノルマ、あのフレーズを朝に十回、昼に十回、夜には二十五回口ずさまなければあなたは不幸になります、的な決まりがあるのか?
その点、篠本さんはそういった流行には疎いらしく、よく困惑している顔を目にする。とても可愛い。そこら辺も好印象なのだ。惹かれている。
僕と彼女は似ている、気がする。
きっと、好きになった理由なんてそんなものではないだろうか、と分析してみる。答えは出ない。きっと、僕の他にもそういう奴、いるのではないだろうか。
「何より、やっぱり可愛いって言うのが、しかもあのスタイルだしな……」
「声、声抑えろ錬次。奴らに感づかれるぞ!」
僕が今いる場所は廊下の一角。時間帯としては昼休み。ちなみに、昼休みのこの場所は『女神の道』と呼ばれていて、必ず篠本さんが通るということで有名だ。どこのストーカー調べなのかは知らない。僕は別に篠本さんのストーカーではないからストーカーの事情なんてまったく知らない。潔白である。
そして、僕の傍らで注意を促したのが佐藤正人。数少ない友人の一人で、背丈のちんまりとした男である。奴らというのは篠本親衛隊という非公式ファンクラブのことで、彼等は彼女を不純な目で見る者を抹殺する、まるで忍のような奴らだ。
もし目を付けられれば、朝に僕の席はなく、一言「お前の席、ねーから!」なんて言われるのだ。しかし、そういった行為を篠本さんは嫌うので、やってもしっかり元の位置に戻す。あとちゃんと謝る。変な所で純粋である。
そんなこんなで、何故注意されたのかは僕の不純らしき発言をキャッチされるかららしい。でも仕方ないと思う。今、この夏序盤に相応しい、二つのスイカ的素敵物体(乳)をたずさえた篠本さんが目の前を通り過ぎたのだから。たぶん、その親衛隊とやらも僕と同じことを考えていたに違いない。
その姿を存分に目に収めた後、ふと思う。
「随分皆、律義なもんだよな。よく今まで襲われなかったよ、あの人」
「襲う? 何言ってんだよ、無理に決まってるだろ。全校の男に嬲り殺されるよ、そいつ。その手が篠本に触れる前に」
「まあ、そうかもしれないけどさ。性質の悪い不良とか」
「いないいない。少なくとも、篠本相手に脅しは通用しないと思うぞ?」
確かに、篠本さんは正義の人、というイメージがある。実は、ということもあるかもしれないが、暫定正義の人である。さらに芯も強い。不良に絡まれる篠本さん。想像すると不良たちの敗北するビジョンが容易に想像できる。何せ、相手は剣道の達人。確か五段、とかなんとか。
目の前にたむろする集団(ファンクラブの紳士たち)に目をやると、皆は篠本さんを見ながら、何やら無線で連絡を取り合っている。完全に尾行グループだ。誰か通報してやる人はいないのだろうか。
「おい! アレ!」
正人が指をさして叫ぶ。ちなみに誤解されそうだから付け足しておくが、コイツは篠本さんに興味がない。僕が好きだと言った篠本さんに興味がある、らしい。
僕の胸より少し下くらいの位置から伸びる正人の指の先には篠本さんの姿と、一人の男子生徒の姿。
『隊長どうしますか?』
『見守れ。結果によっては排除せよ』
『『了解!』』
彼等の言う排除は決して生命的なものではない。そんなことをしたら犯罪だ。
そもそもストーキングまがいのことをしている時点ですでに犯罪臭いけども、そこはスル―させてもらうとしよう。
告白が成功した場合、この学校にいる間、彼らの嫌がらせを受け続ける(不確定情報)。
今までに成功した者はいないので噂だけで、彼らの勢いならそれくらいするだろう、という勝手なイメージである。
「お、屋上に向かうぞ。ほら、何してんだ錬次。行くぞ、気にならないのか?」
「わかったよ。そんなに血走った目で僕を見るな。あと、手に構えた携帯電話の動画撮影待機を解除しろ」
「いや、他人の告白現場って面白そうじゃん? 俺としてはこう、形に残しておきたいと思ったわけ」
「悪趣味な奴だな…………まさか、僕も同じ理由なのか!? そうなのか!?」
「まさか、まさかだ。ははっ!」
「そのまさかはどっちのまさかだよ……そして爽やかな笑いやめろ気持ち悪い!」
正人は爽やかな笑い声を廊下に撒き散らしながら、屋上の方へと走り去っていく。友情というものがまた一つ信じられなくなった僕である。
しかし、告白の結果がどうなるのか、薄々わかっていながらもやはり気になるのは確かだ。たまたま、篠本さんが気まぐれにその人を受け入れるかもわからない。
僕は屋上へ向かおうと走り――靴ひもを踏んで盛大にこけた。
盛大に、顔から。残念なことに、都合よく人が少ない場所と言うわけではなく、僕の痴態は四、五人の生徒に目撃された。当然笑われた。僕は何事もなく立ち上がる。落としたハンカチを拾うかのごとく、自然に、ナチュラルに靴ひもを結ぶ。
「あー、いや、靴ひもほどけてたのか。今気付いてよかったわー……」
小声でひとり言を呟き、言い訳をさりげなく一つ。いや、言い訳にはなっていない。自分の気持ちをポジティヴに塗りつぶしただけだ。
さらにそのひとり言すらも聞き取ったのか、また微かに笑い声が聞こえる。かなり惨めだった。死にたいと思ったのはこれで四十二回目。
「――大丈夫ですか?」
ふと、上から降る物静かな女の子の声。実に大人しそうな声だった。まるで、図書室の中で会話しているような。
目の前に差し出された白く、ありがちな表現ではあるが、触ると壊れてしまいそうな手は恐らく僕を助け起こそうとしているのだろうけれど、今まで女の子の手を握ったことがない僕にはその手がまぶしくて、なんとなく、触るのがためらわれた。
…………大袈裟じゃない。妹を除けば、確実に握ったことはない。
「まさか、これを触ったくらいでセクハラとか言われたりしないよな……」
「そんな訳はありません。それくらいのことでいちいち気にしていては、毎日がセクハラの連続です。毎日がセクハラ記念日です」
僕のひとり言を聞き取ったのか、彼女は声の音量そのままに、素早くそんな意見を述べる。
「…………そうか。記念か」
それはそれで、かなり危ない毎日である。
今度こそ、そっと彼女の手を取り、しかし、起き上がるのはほとんど自分の力で。このまま手を引いてしまっては、彼女まで倒れ込んできてしまうと思ったから、なのだが。
「あら――」
「え?」
やはりというか当然というか、彼女の身体は僕の方へと倒れ込んできた。
ただ、妙に不自然に、彼女の方から僕へ飛び込んできたようにも見えたのだけど、気のせいだろうか。驚いたような声も、あらかじめ用意していたかのようにどこかわざとらしいような気がする。
僕がそう思いたいだけなんだろうか。僕はこれから始めるロマンスを期待しているのだろうか。
しかし、そんな疑問がよぎったのもつかの間、次の瞬間には、ふわりと香る甘い匂いと、胸の中に収まった柔らかな感触がそんな僕の思考を奪い去る。
自分でもつくづく思うのだが、僕は女性抵抗力が低すぎるような気がしないでもない。
そしてその結果、僕が見知らぬ少女を抱き締めて廊下に寝転んでいるという状態が出来あがってしまっていた。救いようのないことに、僕の両腕はしっかりと少女の身体をホールドしている。
「あ、ああ、ごめん! こんなつもりはなかった!」
うわずった声。無様にも僕は慌てている。今日は厄日か……?
「いえ、すいません。私の方が立ちくらみを起こしたものですから。受け止めさせてしまって申し訳ないです」
「いや、こっちの方が申し訳ないです……」
今も当たり続ける柔らかな感触。この感触を味わえただけで、この子にはいくら感謝してもし足りない。故に、誠に申し訳ない。
それにしてもこの子、自分から押し付けているような気がするのは気のせいだろうか。まさか、あれか? 俗に言う、当ててんのよ状態ってやつなのか?
いやまさか。それは思い込みだ妄想だ。性欲旺盛な中学生でもあるまいし。
「…………いい匂い」
「な、何か言ったか?」
「いえ、何も。すいません、まだ頭がくらくらとします。もう少し、このままでもいいですか?」
「あ、はい。もちろん、どうぞ、大歓迎で」
「はい、それではお言葉に甘えて」
少女はそう返事したかと思うと、なんと、先ほどよりもさらに強く、その、もう色々と柔らかい部分を押し付けてくる。
十七歳の男子には、付け加えるならば彼女などいたことがなく、色っぽい出来事は人生未経験な僕にとっては、理性を押さえるギリギリのラインを超えるか超えないかという微妙な境を行き来するに十分な刺激だった。若干乗り超え気味である。やばい、中学生のことを笑えないかもしれない。
しかし、この状況の見物人が何人か存在するという状況が僕を踏み留まらせてくれている。これが幸か不幸かと問われれば……僕にその判断は非常に難しい。
…………気のせいか? この状況、僕が自覚しているよりも大分まずいような気がするんだが。
「あ、あの、人に見られて……るんだけどさ」
「構いません。人の視線など気になりませんので」
「あ、そうなんだ~……じゃない、ほらでもさ! 変な噂とか」
「問題は皆無です。気になりませんので」
「そうですか……」
なんというか、不思議な娘だ。か弱そうな感じだと思えば、今は頑固な一面を見せている。それにしても、視線も噂も気にならないなんて……。この娘はもしかするともの凄い金持ちでそんなのいくらでももみ消せる、とか? いや、それだと言葉の意味に合わないか。『気にしない』んだもんな。情報自体が消えるわけじゃないんだ。
僕の胸に顔をうずめる少女。僕は今更、彼女の顔をこの目に収めた。
肩口で切りそろえられた髪。脱色だろうか、少女の髪色は真っ白だった。前髪はこれまた一直線に切りそろえられ(パッツンというやつだ)、その次に目に入った形の良い眉も白い。そして、心地良さそうに閉じた目、小さな鼻、薄い桃色の唇は小さく微笑んでいる。
「(すっげぇ可愛い……!)」
ごくりと音を立てて唾液が喉を這う。僕は恋をしている、などとぬかした矢先に他の娘に目移り。
だけど待ってほしい。言い訳をさせてくれ。これは恋じゃない。トキメいただけだ。勘違いしないでいただきたい。ほら、よく漫画で恋に堕ちる時は、ズキューンだかドキューンだかそういった効果音だろ? だがトキメキは違う。断じて違う。音で表わすなら、ドキッとかキュンとかそういう感じなんだ。だから僕は軽い男じゃない! 決して!
「んっ……」
「そろそろ、どいてくれ。僕にだって予定はある。君に助けられたことに感謝はしているから君を保健室に送るくらいのことはするよ。だから……」
「イヤです」
なんで、という僕の疑問の声よりも早く、少女は顔を上げる。
僕の顔との距離はわずか十センチほど。少女の両の目が僕をまっすぐに見つめる。涼しげな深い藍色の瞳。白い髪は地毛なのかもしれない、という可能性が浮かんだことに気付いたのはまた後の話になる。
今はただ、心臓の音が世界を支配していた。
見知らぬ美少女と、冴えない僕の間の十センチメートル。詰めることも、離すことも出来るが、容易ではないその行動。身動き一つ許されない、甘い空気。
それを破るかのように、忘れかけていた僕の疑問への返事を微笑みながら少女は呟く。
「ここが、好きなんです」
そう言い、少女は止めと言わんばかりに僕の首筋に一つ、くちづけする。
「…………」
ズキューン。
あ、いや、ストップ。今のは違う。今のは違うから。放送禁止用語だから。決して恋に堕ちてなんかいないから。もしくはトキメキの応用表現だから。
あれ、待てよ? 今僕、考えようによっては告られたんじゃないか? マジで? え?
……そんなまさか。そんなはずはない。この冴えない男が? 告られるだって?
「いやいやいやいや」
僕はそう言いながら少女の肩をやんわりと押し返し、身を起こす。少女はきょとんとして僕の顔を見る。そこできょとんとされても困る。僕は完璧に現実に戻ってきた。こんな夢の時間にいつまでも浸っているわけにはいかない。
「いるんだろう? わかってるんだ、これがドッキリだってことくらい。僕はテレビで間抜けにも醜態をさらすようなマネはしないぞ。出て来い! 正人!」
上半身を階段の方へ向け、名探偵さながらに指をさす。しかし、名を呼んだ目当ての相手はいつまで経っても姿を現さない。
「隠れても無駄だ! 僕にはわかっている! こんなフラグ立つような展開が僕に起こるわけないんだからな!」
「……?」
途中からそう考えていたからこそ、こうしてまともにしゃべれていると言っておこう。
不思議そうにしながらしっかり寄り添ってくる少女にドキドキしながら、僕は必死に正人の姿を探す。こんなことをするのはアイツ以外にいはしないのだ。快楽主義者のアイツしか…………友人の中では。
そんな様子を道行く人は必ず含み笑いを残して去って行く。演劇の練習だとでも思われているんだろか。そんなはずはない。僕の都合の良い解釈だ。
廊下でひとり言を呟くどころか叫ぶ男子生徒が女生徒を抱き締めているのだ。僕だったらケータイでムービーを回しているところだ。そうしないということは、今までの人々が世っぽどの善人であるか、運悪く携帯を持ち合わせなかったからではないだろうか。
「別にあなたをはめようとしているわけではありません」
「だって、僕がモテる訳がない。これは揺るがない事実だ」
「でも、私はハメられてもいいですよ? 今は困りますが」
「モテる訳が……ん? なんで君がはめられるんだ?」
一瞬、会話が噛み合っていないような気がしたが、気のせいだろうか。少女は首をかしげている。しかし、どこか顔が赤いような気がする。
それにしても、少女か。なんとも呼びにくい呼称だ。
「……れん」
「へ?」
「レンと呼んで下さい。私の名前」
「あ、ああ。僕は、」
「久東錬次、ですよね?」
「あ、うん。僕の名前、知ってるんだ?」
「はい、錬次のことはずっと見ておりましたから」
「……まあいいや。レン、ね。うん、覚えた」
…………覚えてどうする。なんとなく好意を寄せられてるっぽい、けども。呼び捨てだし。まあ名前くらい、いいじゃないか。僕の恋する相手は篠村さんただ一人だ。この娘には悪いけども、僕の初のこの気持ちは無駄にしたくない。……でいいんだよな? 本当にこの娘は僕の事……だよな? 勘違いじゃないよな? な?
「レン、さん。悪いけど」
「レン、と。さんは付けないで下さい」
「……ああ、わかった。レン、ごめん。君の気持ちには」
「お~い、錬次何をやって……た……」
キーンコーン、キーンコーン。
ちょうど戻って来た正人。さらに図ったように割り込む予鈴の電子音。
胸の辺りがすう、っと冷えるのを感じ、目を向けると、レンは僕の元を離れ、底冷えするような無表情を顔に張りつかせてスカートなんかを払っていた。夏の熱気など、冷気に変わってしまいそうな勢いだ。
「それでは、私はこれで」
「あ、え? うん」
豹変した彼女の様子に軽く動揺しつつ、生返事を返すと、レンはスタスタと廊下の角を曲がり、見えなくなった。
状況を呑み込めていない様子の正人はその空気に気まずそうにして、頬を掻く。
「え~と、俺、マズったかな?」
「……さあな、僕にも微妙に状況が掴めてないんだ。でも」
正人の目を見て、一言残す。これだけは言わなければ僕の気が治まらないというかなんというか。
「お前、マジ空気読めよ」
少し古い言い回しで、KYと、そう言いたいわけである。
どうも、桜谷です。残酷描写はまだまだ先ですが、ここから若干エロ増えるかもですね。まあ、可愛いもんなんですが。
学校生活はまだ続きます。まだまだ。
それでは、感想等お待ちしております。