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あざなつる!  作者: 蜂須賀久乃
壱『魔法少女と思念』
8/11

思念と死念

「……まあ、薄々気付いちゃいたけどな」


 なんとなく予感がしていたらしく、字名は驚いた様子もなく言った。

 しかし、抵抗するかのような口調で、彼は名継に訊く。


「でも、思い念じるって、いい名前だと思わねえか? あの魔法だか念力だかの能力も、名前から来てるんだろ? そんなの使えたら便利だし、だいいち他人に迷惑かけてねえじゃん」

『分かってないなー』


 やれやれ、と名継が首を振るのが目に見えるようだった。

 

『他人に迷惑がかからなくとも、本人に負荷がかかるんだってー。大体、そんなに強い思い念じる力なんて、脳に眠ってる力を呼び覚まさないとできないことだよー。あれを頻繁に使えば、脳を酷使することになる。本人がどこまで自覚してるか分からないけれど、このままじゃ彼女――』




『――死ぬよ』




 思い念じる異能力。

 思念――死念。

 死と隣り合わせた、魔法使い。

 

『それに字名くんー、嘘を一つ吐いたよねー?』

「あ? 何の話だよ」

『力が使えると便利、って奴』


 字名は、心の中をかき回されたような感覚に陥った。

 しかし、蘇る記憶を無理矢理におさえつけ、低く言った。


「……細かいんだよ」

『……。ごめんねー』


 意外にあっさりと謝った名継に、字名は少し驚いた。

 性悪ジジイだと思い込んでいただけに。

 字名は適当に電話を切り、二人がいる客間へと歩き出した。

 




 

「字名殿は、まだ帰ってこないのかな」

「あれは駄犬だから気にせずに」

「……。ところで、名弦殿は正座が綺麗だな」

「ええまあ、慣れていますからね」


 そう言う思念も長時間正座をしていても足を崩さず、近頃の女子高生にすれば礼儀作法がなっている方だろう。少なくとも、名弦の横であぐらをかきながらあくびをしていた字名よりは。

 そう思ったが、名弦は控えめに頷いておいた。


「それに、まだお若いのに敬語もお上手だ。憧れる」

「いいえ、そんなことはありませんよ。貴方も女子高生にしては礼儀作法が身についているようですし」

「ご謙遜を」


 と、思念は言った後、ぼそりと呟くように言った。


「……名弦殿は、難しいな」

「え?」


 何が難しいのかどうして難しいのか、全てを省かれた言葉に名弦は聞き返した。


「いや、その……。名弦殿と話していると、壁一枚隔てて離しているような気がする。そこにいるのに、本当の姿が見えない。本音が聞こえない。なんだか、遠く感じるよ」

「…………」


 名弦の心に、微かな波紋が広がった。

 微動だにしなかった精神が、静かに揺らぐ感覚。

 しかし、名弦はそれを抑制して言った。


「そんなことは、ありませんよ」


 やっとそう答えたところで、襖の開く音が聞こえた。

 字名が、「あー、終わった終わった」と、独り言を呟きながら客間に入ってきた。


「……おい、害虫」

「……何ですか、駄犬」


 字名と名弦は、目を合わせた途端に悪意を交わす。

 そして、字名が思念に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で、名弦に囁いた。

 できるだけ感情を消して。


「一番目の呪い名は『思念』だそうだ」


 と。

 名弦は、それを受け、表情を変えずに、


「今から話しますか?」


 と尋ねた。

 字名は「おう」と頷く。

 二人は、思念に向かい合い、神妙な顔で切り出した。


「……実は、ですね」






 命音家について、名術師について、呪い名について、全てを聞き終えた思念は、


「……そうか。では、お渡ししよう」


 と、少し寂しそうに頷いた。

 てっきり、名前を抜くという申し出は却下されると思っていたので、意外な反応だった。


「いいんですか?」

「ああ。代わりに素晴らしい名前をつけていただければ、それでよい。……名前を抜いてしまえば、前の名前のことは思い出せなくなるのだろう。全て消えるのだから、気にすることなどないよ」

「潔いな」

「未練がないといえば嘘になるが、私も死にたいわけではないからな」


 思念の言葉に、字名は、


「……分かった。サンキュ」


 と言い、立ち上がった。

 座っている思念の後ろに回り、掌をかざす。

 滞りなく済む、はずだった。

 直後、事件は起きたのである。






 






 

 

 

 


 

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