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あざなつる!  作者: 蜂須賀久乃
壱『魔法少女と思念』
7/11

一つ目の呪い

 魔法とは、本来人間の中に眠っている、強大な「思う力」「念じる力」である――――少女は、二人にさっきの現象をそう説明した。


 そして現在、二人の名術師は少女の自宅に上がりこんでいた。

 少女は、自分と同じ力を持った人に会えたことが嬉しかったらしく、もっと話がしたいと強く誘われたからである。

 命音家には敵わないが、それなりに大きな日本家屋だった。

 この少女も、標準よりはいい暮らしをしているのかもれない。

 その家の客間に通され、卓袱台の前に置かれた座布団に二人は座っていた。


「驚かせて済まなかった」


 彼女は、頭をそう謝罪しながら深々と頭を下げた。


「いえ、別に。気にしていません」

「あー、いいよいいよ。俺は太平洋並みに心が広いんだ」


 二人は、年下の少女から頭を下げられることに慣れていなかったし(というか慣れていたら逆に不気味だ)、実際に気にしていなかったため、首を振って言った。


「そうか。それはよかった」


 運んできた盆の上にのった湯のみを卓袱台の上に置き、自らも二人の対面に腰を下ろす。

 字名と名弦は、目の前の少女を気付かれない程度に観察し始めた。

 高校生くらいに見えるが、精悍な日焼けした顔が印象的である。

 年齢にも性別にも不相応な口調が気になるが、それも個性だと受け取れば良い。

 名弦が、遠慮がちに切り出した。

 

「えっと……名乗るのが遅れました。僕は命音名弦、二十一歳です。隣のこれは……、なんかアレです。駄犬です」

「殺すぞ。俺は命音字名、二十一歳だ。誕生日が俺の方が早いから年上だけどな。隣の敬語バカは気にするな。害虫だと思え」

「なるほど、個性的だな。お二人は」


 明らかに痛い人を見て「個性的だ」と評することはよくあるが、彼女の場合は純粋に二人を個性的だと言っているように思えた。ただ、一つだけ指摘するとすれば個性的ではなく個性敵であったということだけだろう。


「では、私も名乗らせていただこう」


 と、丁寧に前置きして、少女は言った。


「私は御仏思念みほとけしねんという。十七歳、女子高生だ」

「思念さん、ですか。変わったお名前ですね」


 何か感想を言わなくてはいけないと、名弦はあまり感情を出さずに言った。


「ああ、よく言われる。しかし、母からもらった誇り高い名だ。恥じはしない」

「へえ、母親から……」


 ゆるぎない自信の灯った目で、少女――思念は断言した。

 母親、という単語に反応したのは字名だったが、少し目を細めただけで、その言葉に続きはなかった。

 思念も、それを気にした様子はなく、本題へと入った。


「確認させていただくが……お二人は、魔法が使えるわけではないのだな?」


 慎重に、思念は尋ねる。

 そこは彼女にとって、大事なポイントのようだ。

 それに対し、名弦が慎重に答えを返す。


「どんな力を魔法と呼ぶかで答えは変わってきますけれどね。あなたのいう、思い念じる力がもととなる力は、僕たちは持っていませんし使えません」

「……そう、か」

 

 表情こそ変えなかったものの、思念はがっかりしたようだった。

 自分と同じ能力を持った人間がいる――そう思っていただけに、裏切られた感が否めないのだろう。

 名弦が何か言おうとしたときに、おどけた着信音が流れ始めた。字名の携帯電話だった。

 思念と名弦の視線が、字名に集中する。


「……あ、悪い」


 と呟いて字名が立ち上がり、退室した。

 残された二人は、それを一通り見送ってから、話を戻した。

 思念が、口元に笑みを浮かべて言う。


「字名殿はなんとなく、不思議な雰囲気を持っておられるな」

「そうですか?」

「ああ。なかなかいないと思うな、あんなに自由なお方は……自由を通り過ぎて、あれは孤独というべきなのか」

「……まあ、友達いない奴ですからね」


 それは言い得て妙というか、的を射ていた。

 まるで世界と無関係かのように、解放され過ぎている。

 命音字名。

 世界に絶縁された、独りの名術師。


「ところで、お二人はどういう関係なのだ? 苗字が一緒ということは……兄弟なのか?」

「アレと兄弟? 僕も、そこまで底辺の人間ではありませんよ。親戚ですよ、ただの」

「……前から思っていたが、仲が悪いのだな。お二人は」

「ええ、とっても」


 犬猿の仲。

 対立という絆で結ばれた、最悪の二人。

 そして現在――その一方は、廊下で驚くべき事実を告げられていた。

 




 字名の携帯電話に掛けてきたのは、他でもない命音名継だった。

 表示された番号を見つめて、しばらく迷っていたが、字名は結局電話に出たのだった。


『もしもしー、字名くんー?』

「そりゃあ、俺のケータイだからな」

『確認だよ確認ー。もし名弦くんが字名くんを殺しちゃってたら、君は出れないでしょー」

「……まあ、そりゃそうだ」


 恐ろしいことをさらりと言ってのける名継に、字名は驚く様子もなく言った。

 もう、この男に対しては半分諦めの感情しか抱いていない。


『そういえば、開照は役に立ってるー?』

「ん? ……ああ、あれか。さっぱりだよ、あのボロホウキ」

『えー、嘘でしょー? 廃ヶ峰についてないー?』

「あ? 廃ヶ峰?」

『言っちゃ悪いけど、ガラクタ山ー。去年の地震で、未だに瓦礫が回収されてないからさー。建物も倒壊してて、廃材だらけだよー』

「…………」


 字名は、思念と出会った場所を思い出した。

 あれはまさしく、ガラクタ山だった。

 思念の持ち上げたのも、朽ちた廃材だった。

 

『その沈黙は、肯定と受け取っておくよー』

「好きにしろ」


 じわじわとまとわりついてくるような、嫌な予感がする。

 ガラクタ山。

 魔法少女。

 御仏思念。

 そして、呪い名。

 この全てのキーワードが、受話器の向こうから聞こえるくぐもった声で繋がった。




「御仏思念。その子が、今回の呪い名回収対象者だよー』



 

 

 



 

まあ、皆さんお気づきだったでしょうが……思念ちゃんが呪い名を宿された一人だったわけですね。……感想プリーズです。

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