第二話 彼女の秘密
読む上で、縁を鳥海浩輔さん。月華を花澤香菜さん。雄吾を浪川大輔先生。修介を小野大輔さん。葛木を藤原啓治大先生の声を当てて読まれるとよりいっそうこの物語を楽しめるかもしれません。
あくまで楽しめるだけです。個人の思い付きです。書かれた人と一切関係はないです。ごめんなさい。思い上がってごめんなさい。
うぅぅぅうぃあぁぁぁぁぁ!
予鈴が鳴り、クラスで散らばっていた生徒達はだらだらと席に戻っていく。
そこで教室の入り口が開き、ボサボサ髪のメガネをかけた男子教師が一人入ってきた。
「お~し、HR始めるぞ」
男性教師は教壇に立つと、黒板に名前を書いていく。
カッカと苗字を書いたところで突然彼の手が止まる。
「……めんどくせ」
それは教師らしからぬ発言だった。
「あ~、黒板に書いてあるとおりだ」
バンと叩かれた黒板には葛木と苗字が書かれている。
「俺がここに居るのは他の先生の代理じゃないからな。担任だからな」
「ちくしょー! また先生かよ!」
「やってらんねー!」
そう言って一部の生徒達が叫ぶ。その生徒達は、縁にとって見覚えのある生徒達だった。
それもそのはず、この新しいクラスの担任となった葛木は去年も縁と一部生徒の担任をやっていたのだ。
性格は雑で面倒くさがり。授業は簡潔に済まし、どうでもいい会話ばかりするいい加減な教師。それが生徒同士が抱いている共通の認識だ。
「俺の名前は以上。読めない奴は……去年俺が受け持っていた奴にでも聞け」
始めからだらけモード全開である。
一見やる気のなさそうな人物に見えるが、彼は理科の授業を受け持っていたりする。人は見かけによらないものだ。
「ええ~、今日から新学期だ。羽目をはずすな。ついでに勉強はしっかりしろ。俺の沽券に係わる」
そう言いながらプリント配り始める葛木。
「今後の予定表だ。こいつ見てしっかりやれよ」
前の席から手渡されたプリント。そこには一月分の予定が事細かに書かれている。隅っこの方には何故か可愛らしいウサギさんが描かれていた。
「ウサギさんは俺の趣味で貼り付けた奴だから気にするな。あと五分くらいしたら体育館で校長の念仏聞きに行かなきゃならんから各自シューズ用意しておけ。以上」
本当にこいつは教師なのか? と言う疑問を生徒一同に抱かせたあと、勝手にHRを終わらせ葛木は満足していた。
× ×
体育館で校長のありがたいのかありがたくないのか分からない話を聞いたあと、再びクラスに戻ってくる縁達。
するとクラスの入り口には葛木が立っていた。――――何故か片手に紐を持って。
縁は思わず目を点にさせる。この人は一体何をやっているんだ? と。
「いきなりだが席変えだ。このくじ引いてから中に入れ」
葛木に言われ一人一人くじを引いていく。引き終わった生徒達は彼に急かされ、教室内でくじの確認をし始める。
縁の番になり紐を引くと、先端には小さく折りたたまれた紙が付いていた。
縁はそれを開きつつも中に入ろうとする。――が、突然葛木に肩を掴まれる。
「遊馬。女の子は好きか?」
主観的に見ても客観的に見ても質問の意図が分からない。
「どちらかと言うと好きですが……」
「可愛いのと不細工なのは?」
「それは可愛い方がいいですけど」
「分かった」
縁の回答を聞いた後、部屋に入るように手で仕向ける。
教室内に入った縁は最初に居た席に戻って荷物と鞄を取り、くじで指定されている場所に移動する。
新しい場所は日当たり良好、教壇から少し離れた窓際の席だ。だらけるにはもってこいの場所だった。
縁は荷物を机の中に入れ、その隣に鞄を引っ掛け座る。暇つぶしに机にプリント類を並べていると、不意に隣に立った人物に目が行った。
――――そこには水無月が面食らって固まっていた。
「ひょっとかして。しばらくよろしくか?」
状況から判断したのか、縁がそう尋ねる。水無月は顔を若干赤く染めてこくこくと頷いてきた。
彼女はぎこちなさそうに席に座ると、鞄を机の隣に引っ掛ける。
なんだか、妙にふらついているな。大丈夫だろうか?
などと縁が思案していたところで他の生徒達が次々と席に着き、全員が着席する。
席替えが終わったのを確認した葛木が教室内に入り、教壇に立ってやる気なさそうに黒板に文字を書いていく。
しかも文字は最初の方は大きかったのに、最後の方はとても小さくなって読みにくくなっていた。まさに竜頭蛇尾。
「え~、これからのためにクラス委員を決めます。やりたい奴挙手しろ」
当然、誰も手を上げなかった。
常識的に考えて花のある高校生活、部活にバイトに恋愛がある。クラス委員などを引き受けた日にはその時間が大幅にカットされるのだ。
葛木は生徒達の様子を見ていたところで急に拳を握りだす。
「ああ、分かっていたとも。お前ら青春真っ盛りだもんな。そんなもん引き受けたくないよな。俺も分かるぜ。やっぱり部活とかバイトとか恋愛とかに時間使いたいよな……」
一人でしみじみと言わんばかりの空気で語る葛木。
「ならここは生贄として生徒会長の弟である荒木……」
「俺かよ!? しかも生贄!?」
バンと席を立ち上がる雄吾。生贄なんかで選ばれるなんて堪ったものではない。それに教師の言葉ではない。
「……と、思ったが定番過ぎるので止めとこ」
軽々と中止宣言をする葛木。それを聞いた雄吾はふぅとため息を吐いて席に着いた。
「ここはやっぱりみんなの人気者、渡に頼むか」
人気者と言う理由で修介に白羽の矢が立つ。
そこで修介は何故か挙手をした。その態度に葛木が喋るようにとジェスチャーする。
「僕も指名されたのならやろうとは思いますが、クラス委員って男女一人ずつですよね? 相手の子の身が危ないと思うのですが……」
確かに彼の言う通りである。女性陣からとても好かれている修介がクラス委員になったのなら、パートナーの女子は確実に酷い目に遭うだろう。――主に嫉妬で。
「そだな。やっぱ別のがいいか」
葛木はぬぼーっとした目つきでクラス内を見渡す。
「ここはアレだな。荒木と渡と続けて言ったら三人組の最後の一人を指名すべきか……」
そのパターンで行くのなら、縁と言うことになるのだが……。
「それではクラス委員は……」
縁の方へ視線を向ける葛木。このままでは本当に縁を選びかねない状況だ。
ここで誰かが挙手をすれば、その人物がクラス委員となる。しかし、縁のことを面白い奴だと認識している奴は居れど、友達だと断言できる人物はほとんど居ない。故に、手を挙げて助け舟を出す人物は皆無だろう。その点縁も自分がやらなければいけないみたいだと覚悟していた。
「遊馬と水無月でいいや」
縁の覚悟を軽く通り越した回答を葛木が言った。場の空気が一瞬にして怪しげな雰囲気に包まれる。
「先生ちょっと待ってください!」
縁の隣に居た水無月が場の空気を破るかのように大声で席から立つ。
「どうした水無月? 先生に反論か?」
「指名されたのであればボクがクラス委員やってもいいと思いますけど、相手が遊馬君だなんて……」
そう言いながらどんどん語尾が小さくなる彼女。その際にチラッと縁に視線が向けられる。
……ひょっとして、水無月は俺と一緒にクラス委員をやりたくないのでは? まあ確かに、俺は今までクラス委員や生徒会に一切関わったことはないし。……あ、一応別件で彼女自身とは関わったことはあるが。
「お前の言うことはもっともだ水無月」
葛木は分かっていると言う素振りをする。だが、鋭い目つきでこちらを見て口を開く。
「これはアレだ。当面のことを見越した〝命令〟だ」
その言葉を聞いた瞬間、水無月は黙った。
何故急に黙ったかは分からないが、とりあえず縁と水無月は葛木の命令によってクラス委員になってしまった。
「じゃ、これでクラス委員は決まったから明日以降のことを話すぞ」
葛木は気にする様子も無く、次の話題に入ってしまう。
縁はこっそりと隣の水無月の顔を盗み見た。
嫌悪でもなく、悲しみでもなく、頬を赤く染めていた。それは羞恥的なものを感じていた様な表情であった。