第一話 新学期 4
何とか道を空けてもらってようやくたどり着いた掲示板には、縁達三人の名前が2-Aクラスの欄に入っていた。どうやら今年も彼ら三人は一緒のクラスの様だ。
縁達は構内に入ると階段を上がり、二階の2-Aクラスを目指す。
「ここだな」
「みてーだな」
「のようだね」
二人が先に教室に入っていく。縁も続いて入ろうとしたとき、廊下に居た一人の人物に目が行く。その目は驚愕ではなく、何か珍しいものを見るかの様に。
「水無月?」
そう言って縁は一人の少女の顔を見る。そこには髪をヘアバンドで留めた灰色のショートヘアーの少女が縁の居る方に向かって歩いていた。
「よう、久しぶりだな」
縁は少女に向かって挨拶をした。すると彼女は一瞬だけ目を丸くし、ゆっくりと縁に近づいてい来る。
「よくボクのこと覚えてたね。遊馬君」
綺麗な声だった。それは耳に、鼓膜に入り込み確実に言葉を認識させるほどの物。
だけど、どこか冷たい声。見た目の姿は柔らかく近づきやすい雰囲気があるのだが、空気は凍っていた。
そんな距離を感じる少女相手に縁は臆することなく堂々と正面に立つ。
「確かに久しいな。キチンと話すのは新年以来か?」
旧知の友に会ったかのような挨拶を交わした少女の名は水無月 月華。過去に小学校で一度だけ縁と同じクラスになった少女。何故一度だけかと言うと、彼女は家庭の事情ですぐに転校してしまったからだ。
しかし、それだけなら二人の会話に若干の違和感を感じる。一度しか同じクラスになって居ない者同士が相手の顔を覚えているか? また、相手に声をかけるか?
現実、記憶は大概薄れる。それだけではない。偶然出会ったとしても声をかけることはまず無い。仮に見かけたとしても、家族や知人に誰々を見かけたとしか言わないだろう。
だが、縁と水無月の会話はそれが見えない。新年にも顔を合わせているらしい。それもそのはず、縁は水無月が転校したあとも交友があったからだ。
正確に言えば街中で見かけた水無月に対し、縁が一方的に話を吹っかけに行くという行動をとっていたためである。
新年で顔を合わせたというのも、新年会やら相手の家に遊びに言ったという訳ではない。街中で、初詣に出ていた水無月を縁が人ごみの中から偶然発見したために顔を合わせたのだ。一見出不精に見える縁だが、なんだかんだ特定の人物とは交友をするタイプなのだ。
「同じ学校なのは知っていたが。まさか同じクラスか?」
「あ……うん。――そう、今日から一年間よろしくね」
深く会話しようとせず、すぐさま去ろうとする水無月。
「友達は、出来たのか?」
彼はつい、そんなことを聞いてしまった。背中を見せまま水無月は静止する。
「小中はダメだったけど、高校はちゃんと居るよ」
「そうか……」
何故そんなことを聞いたのか、縁は分からなかった。
……まあ、アレだ。街中で捕まえて会話したのと同意義だろう。
縁がそんなことを考えていると、彼女は先に教室に入ってしまってう。
それを見た縁は突っ立っていても仕方ないと思い、教室内に入って行く。
入ったところで黒板に目を向けると席番号が書かれており、既に何人かの生徒が席についていた。縁は黒板の番号を確認すると自分の席へ向かう。
荷物を置いたところで友人二人がニヤけ顔で近づいてきた。
「おいおい、さっきの会話は何だよ?」
「まさか君が彼女と親しいだなんて……」
雄吾と修介が不思議そうな顔をして縁に尋ねる。二人の姿に縁は頭に疑問を浮かべた。
「何か問題あったか?」
「大有りだ」
「大有りだね」
……む、どう言うことだ? そう思考を巡らす縁。
「水無月 月華。この学校内の裏ランキング一位に輝く美女。通称《孤高の女》」
「どういう訳か、そんな奴がお前と親しくしている。これは問題だろうが」
「そうそう。問題だね」
二人が目を弧にしてうんうんと頷く。そこで一つ疑問が浮かぶ。
「ちょっと待て、ランキング一位は雄吾の姉じゃなかったか?」
縁は自身の記憶を探る。
確か、生徒会長である雄吾の姉がランキング一位だった気が……。
「それは表ランキング」
「確かに、俺の姉貴が一位だが。だがな、この学校にはもう一つ裏ランキングあるんだよ」
「主に、問題がある人物が裏ランキングに挙がるんだけどね」
そうなると水無月が問題児になる訳なのだが。
「ちなみにお前も男性部門で裏ランキング一位だ」
「評価の理由としては『目つきが鋭いのがカッコいい』とか、『強いから守ってくれそう』とかが挙がっているんだけどね」
縁は顔をしかめる。そんな話は初耳だと。
「仕方ねーじゃねぇか。裏ランキングなんだし」
「本人達のあずかり知らぬ場所でそう言うことがあるってこと」
要は誰かが勝手に作ったランキングである。本人が知らないのも当然だろう。
「で」
「水無月ちゃんとはどういう関係なの?」
ズイッと身を乗り出して縁に近寄る二人。縁はどう言おうか一瞬悩んだあと、口を開いた。
「そうだな。知り合い以上、友達未満の関係だ」
「なんだそりゃ?」
「普通は友達以上恋人未満でしょ」
「仕方ないだろう。基本小学校の数ヶ月だけ一緒のクラスだったし。それにあいつが転校したあとはたまに街中で捕まえて少し会話していたくらいだし」
そんな訳だから友達と言う括りではないと縁は言い張った。
「んにしてもよく覚えてたな」
「むしろ、街中で見かけて声をかける君はある意味すごいよ」
二人とも何故か驚く素振りをする。
「別にすごくはないさ。学校を去ったあとの彼女がちゃんと他所でやれているか心配だっただけさ」
そう言って、彼は水無月の方を見た。
彼女の周りには二、三人の女生徒が集まっており、ニコニコと笑いながら会話していた。
だが、一瞬だけ彼女が縁の方へ視線を向けた。必然的に目が合う二人。
「ん?」
縁の視線に気づいた水無月はすぐ視線をはずし、女生徒との話に戻っていた。
「……やっぱりお前」
「……おかしいね」
縁が視線を戻すと、二人が何故かジト目で見ていた。その視線に思わず縁は尋ねる。
「どうした?」
「うんや、別にどうとも思ってねぇよ」
「ただ、君は鈍感なんじゃないかと思って」
「どういう意味だよ?」
なんだか意味ありげな言葉だな。
などと縁は思いはしたが、すぐに意識外へ追いやってしまう。
それを察したのか、雄吾も修介もやれやれと手を振った。それが一体どのような意味があったのかは縁には知る由もなかった。