第一話 新学期 3
昨日の番組や今日から始まる新学期のことなどを話しながら歩いていると、三人は大きな交差点に差し掛かる。
その場所はこの付近に住む学生にとっては重要なポイントだ。
右手に行けば小学校があり、左手に行けば中学校。そして直進した先には高等学校があると言う非常に分かりやすい道の分岐点である。
「じゃあ、おにいちゃん、おねーちゃん、またお昼にね」
「ああ、行ってらっしゃい音芭」
「またね、音芭ちゃん」
そう言って音芭は同じ学校の生徒達が居る右手の通学路に向かっていった。すると柚姫も音芭とは逆方向の道へ歩を進め始める。
「じゃあ、私も」
「また昼だな」
縁は柚姫に手を上げてやる。それを見た柚姫も同じように手を上げてくる。
柚姫の行動を見た縁は少しだけ頬を緩めた。理由は柚姫がやった手を上げるという動作は基本男がやるものだからだ。
「勉強頑張れよ」
「兄さんもね」
そう言って柚姫も自分の学校へ向かっていく。妹達が去ったのを確認した縁も別の方向へ体を向け歩いていく。
軽やかな足取り。五分ほど歩いたところで縁は見覚えのある人物を二人ほど見かけた。
彼は少しだけ歩を早めて彼らに近づく。
「よぉ、雄吾。修介」
「お、縁。おはよう」
「やあ、縁」
二人の友達が縁に挨拶を返してくれた。
最初に返事をしてくれたのは荒木 雄吾。いまどき珍しい黒髪ヤンキーの少年だ。
彼と縁は昔から縁があり、ある理由で知り合って以来ずっと仲良くしている。
もう一人は渡 修介。少し長めの茶髪にスラッとした四肢、整った顔には常に爽やかな笑顔が浮かんでおり、時折白い歯を見せ笑う姿はまさに美少年だ。
そんな彼は主に女子から絶大な人気を誇っている色男なのだが、なぜか縁と雄吾の友達である。ちなみに縁は未だに彼が友達なのを納得できてはいない。
「よぉー縁、今日のクラス発表どうなると思う?」
「僕達三人共別のクラスになると思う?」
「それは無いんじゃないか?」
自慢話ではないが、彼ら三人は学校内で非常に有名だ。雄吾は学校内で不良共を束ねている頭で、秀介は歩いているだけで女が近寄ってくる。
縁に関しては運動系の部活から目の敵にされている。これはまあ、彼が過去にやらかしたことが問題なのだが。
まあとりあえず、ざっくりと言えば三人とも〝問題児〟な訳で。
教師連中がそんな問題のある奴らをバラけて扱うことは無いと縁は思った。
「僕ら、またクラス一緒だったら何か名乗らない?」
修介が爽やかスマイルで突然おかしなことを言う。
「おう! そうだな!」
握りこぶしを固めて乗り気の雄吾。
「やっぱアレだよ。草薙大付属高校有名トリオってので何かカッコいい名前を名乗ろうぜ」
「俺はあまり名乗りたくない」
「何故だ友よ? もしかしたら強い奴が現れるかもしれないのに……」
強い奴と聞いて縁が若干目の色を変えた。だが、すぐに表情が普段のものへと戻る。
強い奴とは手合わせしたいが、あまり有名になると柚姫と音芭に申し訳ない。
などと一人胸の中で考えていると、修介が横からニヤニヤと意味ありげな視線を送る。
「今、柚姫ちゃんと音芭ちゃんのこと考えていたでしょ?」
……何故分かった?
「君、あの子達のこと考える時さ、父親のような顔をするから」
縁は自分の顔を触ってみる。けれど、その様な表情をしていたかは判断がつかなかった。
「いいよな~お前は。俺のとこの姉貴は俺より強いから困っちまう」
「そんなこと言わないでよ。僕の妹だって兄である僕のことを目の敵にするんだから」
二人が困った素振りを見せて縁に言ってきた。
「俺から言わせれば相手してもらえるだけまだまだ良好な関係をしているとは思うよ」
本当に嫌いなら、もっと違う対応をしているだろうと縁が言う
少しの間、三人はくだらない話で盛り上がりながら通学路を歩いた。しばらく経ったところで縁達は学校の校門前へと辿り着く。
そこは桜の花が満開で咲き乱れており、花びらがひらりと舞い散る綺麗な世界だった。
その中を縁達は進み、校舎前に立てられている掲示板へと向かう。
「あそこに張り出されているみたいだな」
縁が指を挿すと、二人が掲示板を見る。そこには新しいクラスへの振り分けが載っている紙がクラス分張り出されていた。
「うわぁ、すごい人だね」
「それはこの学校の二学年分の人間が集まって見ているからな」
そこは一言で片付けるなら人間の山だった。初詣で賑わっている神社と同格の状況である。
「おし、俺が蹴散らしてやるぜ」
なぜか腕をまくって勇みだす雄吾。それを見た縁と修介は何をやるのか静かに見守る。
いや、分かりきっていることか。どうせこいつのやることは……。
「おらおらどけ! 荒木 雄吾様と愉快な仲間達のお通りだ!」
さすがヤンキー。思考が雑である。
雄吾の声に驚いた学生達は一斉に退く。直後、修介に気付いた女生徒達が一斉に群がってきた。これではどう考えても意味が無い。
「きゃぁ、修介さま~!」
「こっち見て!」
修介は営業スマイル100%の表情で冬の物語で有名になった韓流スターみたく手を振る。
それらの光景を見た縁の頭には一つ言葉が浮かぶ。――ダメだこりゃと。