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エピローグ 2

 これにて今回の物語は終劇でございます。

 ここまで読んでくれた方、あと少しで完結ですよ。

「君の話を聞く通りだとお父さんは確かに酷い人かもしれない。だけどもう許してあげてよ。ボクは思うんだ。きっと誠十郎さんも約束を破ってしまったことをとても後悔してる」


 その手は開かれ縁の頬に添えられる。


「それでも俺は……」

「許せない?」


 水無月の問いに無言のまま頷く。すると水無月は僅かに微笑む。


「違うよ。君は本当はもう許している。誰よりもお父さんのことを知っている。だから許している。今許せないと言っているのは嘘」

「そんなことは……」

「それに君は許せないんじゃない。ただ許したくないだけ。誰よりも強くあろうとしているのはお父さんみたいになりたいから。そう思うってことは本当はお父さんのことが好きでもうとっくに許しているんだと思う」


 かけられる言葉に縁は反論することができなかった。


「許せないと言うのは我侭が言えないから。子供ながらに困らせたかった。けどもうそれが叶わない。

 だからせめて憎むフリをして、許さないフリをして埋められなかったモノを埋めようとしているんだとボクは思うよ」


 そう言いながら水無月は親指で縁の涙を拭った。

 ……ああ、そうだ。俺は一度もあの人のことを嫌ったことは無い。憎んだことも無い。ただ腹が立っていただけなんだ。

 もう一度会って怒りをぶつけたかった。でもそれが出来ない。だから意地になって俺は……。


「……水無月の……言う通りだ」


 頬に触れている手に自身の手を重ねる。その手は柔らかで暖かく、縁の手よりも小さかった。


「俺は許せないんじゃなくて許したくなかった。それはやりたくても出来なかった親への反抗心なんだ」

「そうなんだ」


 二人の間に静かな空気が流れ、見つめあう。その状況の意味に気付いたのか、どちらからでもなく手を離し一歩だけ距離を開けた。


「そ、そう言えばせっかく友達になったのに苗字で呼ぶのって変だよね」


 顔を僅かに赤くした水無月が思い出したかの様に言う。


「確かにそうだが俺は気にし――」

「いや! ここは修介君とか雄吾君みたいに君の名前をボクは呼びたいな!」


 縁の言葉に被せるかのように言葉を発する彼女。その積極的な勢いに驚きつつも縁は「いいよ」と言葉を返した。

 すると水無月は頬を緩ませ笑顔になる。


「じゃあさ、ボクのことも名前で呼んでよ。水無月じゃなくて月華って」

「別に構わないが。――月華」


 何の苦も無く縁は水無月の名を――月華の名を呼ぶ。途端月華の頭についていたヘアバンドが吹っ飛んだ。

 そこからはピコピコと立つケモノ耳が出現する。おまけにお尻からは尻尾が出てフリフリと揺れた。

 その姿を見て縁は、……あ、喜んでいる気がすると思った。


「まあ、これからもよろしくだ月華」


 縁は右手を差し出した。それを見た月華は同じく右手を出し彼の手を握る。


「こちらこそよろしく縁君」


 しばし手を握り合ったあと指を解き手を離す。

 そして再び墓石へと視線を戻す縁。


「俺は弱い。この間も格下である相手に勝てなかった。下手をしたら死んでいた。あの時月華が居なければ俺もここに眠っていたかもしれない」


 相手の器量は今までの経験で計れた。現にスピットファイアはケンカ技しか持ち合わせては居らず、純粋なる武術を扱う縁には運動面では圧倒的に負けていた。

 しかし勝利を確信した際に縁は油断してしまった。油断が無ければ氷川に殺されかけなかった。

 故に弱い。弱くて非力だ。防人で名の通った実力者だった父さんの足元にすら及ばない。今のままではきっとみんなに迷惑をかける。


「俺は誓うよ。絶対に強くなる。強くなって……早く強くなってみんなに迷惑をかけないようになる」


 今日帰ってからでもいい。早く強くなりたい。かつて幼き日、師が死んで駆け抜けた日々のように。


「ダメだよ」


 否定の言葉によって縁の思考は遮られた。墓石から視線を外し再び水無月に体を向ける。


「そんなのはダメ」

「何故?」

「縁君はそう言うのじゃない。そうじゃない」


 そこで月華は言葉に詰まる。縁は紡がれるであろう言葉を静かに待つ。そして、


「今まで通りで良いとボクは思う。だって、君は誠十郎さんでもないしザインでもない。遊馬 縁と言う人物。それは誰とも似ずたった一人の存在だから」

「……月華」

「別にお父さんみたいになりたいって言うのは素晴らしい夢だと思う。ボクだっていつかは両親と同じようになりたいと思っているからそれは悪いとは思わない。

 けれど無理して走るような生き方は良くないと思う。きっと誰かの速度にあわせて生きるのは大変だから。だから、その……ごめん。上手く伝えられない」


 月華が言おうとしていることは縁にはよく分かった。

 ……俺は過去に失敗したのにまた同じようなことを繰り返そうとしていたな。

 そこで数日前のやり取りも思い出す。

 雄吾が言っていた。焦るなと。そこで言っていたはずだ。かつて失敗した俺が考え抜いた答え、『一歩を意識しろ。飛び越えようとするのは愚行だ』と言う言葉を。

 意思や思いは結局巡り巡って自分の元に戻ってくる。良いことであれ悪いことであれ。

 だけど、一番はそばに居る誰かが正してくれるのが確かな救いなのだろう。

 となると今目の前に居る水無月 月華は縁にとっての正してくれる存在なのかもしれない。


「……だからね」


 少女は柔らかく微笑み、少年の顔を見て言葉を紡ぐ。


「君は君の通りに生きれば良い。ボクが今まで見てきた君であれば良い。だって、それがボクにとっての――――月華の縁だもの」


 柔らかな言葉に、縁は足りなかった何かの断片を得た気がした。


「……そうか。そうだな」


 君は君らしく。その言葉を聞いて僅かだが父との記憶が蘇る。


「ありがとう。月華のおかげで大事な約束を一つ思い出した。それと、大事な夢も」

「それは何?」


 愛くるしい瞳が、続きを尋ねた。そんな彼女に縁は珍しく爽やかな笑顔をし、


「それはな――」




             ×              ×




「僕はね。いつかこの剣槍術で自分の流派で広めたいと思っているんだよ。そうだね、名前は遊馬流で」

「りゅうは?」

「うん。流派。それを作れば僕の名前を刻むことができる。それが僕の望み。できるならオリンピックの競技の一つに選ばれるくらいになりたいと僕は思っているんだ」

「おりんぴっく? それはすごいね」

「ははは。そうだね。できればいいんだけどオリンピックもそうだし、流派を作る夢もちょっと無理そうなんだよ」

「どうしてむりなの?」

「僕一人が名乗ったところで、その夢は叶えられないだ」

「なんで?」

「それはね、誰かが継がなきゃ続かないんだ。その上で広めてくれないと誰にも分かってもらえない」

「そうなんだ」

「うん。そうなんだよ」

「だったら」

「ん?」

「だったらぼくがつぐよ。ぼくがついでみんなにあすまりゅーをおしえてあげる」

「はは、縁。それは嬉しい限りだよ」

「うそじゃないよ。ほんとにだよ?」

「ああ、分かっている。本当に嬉しいよ。君がそんなこと言ってくれるなんてね。僕は本当に果報者だ」

「やくそくするよ。おとこどおしのやくそく」

「ああそうか。じゃあ約束だ。ちゃんと指も切ろう」

「うん」

「縁は良い子だ。本当に僕は恵まれている」

「そんなにいいこじゃないよ?」

「いや、良い子だよ。……それに、君のおかげで僕は最も渇望した夢が叶ったんた」

「おとうさんのゆめ? それってなぁに?」

「……それはね――――


         誰かのお父さんになりたかったんだ」



                                          END

 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。


 月下の縁はこれにていったん終了です。

 続きの方は考えてはおりますが、ライトノベルの大賞に送る作品を書かねばならないので続きは結構後になるでしょう。

 またこの月下の縁を小学館ライトノベル大賞に送ってみようかなんて思っております。

 あくまでためしですが……。


 なんにせよ何らかの形でこの作品が大勢の方の目に留まるように精進しながら書いていきたいと思います。 

                  2012.8.18 岡田 宗一郎


 小学館ライトノベル大賞に一部改稿したのを送りました。

 良い結果が出、何らかのアクションを起こせればなと思っております。

 願わくば人の手に触れられる作品として昇華したいです。


                  2012.10.1 岡田 宗一郎

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