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最終話 炎を穿つ者 7

「やっと見せてくれたか。俺はその状態のお前と戦いたかったんだ」


 そう言うと縁は一度床に小太刀と短槍を置く。


「対等で戦おう。同じ命を賭けた状態で」


 するとあろうことか上半身に纏っている防火服を脱ぎ捨てた。更には肌を守る最後の一枚であるシャツも脱ぎさる。

 露になる鍛え上げられた肉体。その体はどこを見ても傷だらけで、少年の体をしていなかった。


「……はぁ、なんつう体してるんだよ。お前本当に一般人か?」


 呆れ気味な声を出すスピットファイア。縁は気にせず武器を構える。


「一般人だよ。ただ人より少しだけ頭がとち狂っているだけだ」


 周りがぶつかり合う中、二人の間には僅かな静寂が流れる。


「早々に決着をつけてやる。スピットファイア」

「上等。なら俺はお前を文字通り灰にしてやる」


 どちらからも無く目を見合い、駆け出した。

 スピットファイアは使えなくなった右手抜きで左手と両足をフルに使って攻撃を仕掛ける。

 縁も小太刀と短槍を四方に振り回し攻撃に入った。

 初撃、スピットファイアは左拳のストレートを縁の頭部に向かって放ち、縁は右の短槍をスピットファイアの腹部目掛けて穿つ。

 灼熱の炎と高速で放たれた槍は交差し、互いの標的に。


「フッ!」

「おっとぉ!」


 縁は眼前で頭を逸らして回避し、スピットファイアも服を裂かれながらも避けきる。

 互いが背後に立ったところで振り向く。その際にスピットファイアは背面回し蹴りを繰り出し、それを縁は小太刀で迎え撃つ。

 鈍い音が響き攻撃が弾かれあう。すかさず縁は短槍を短く持ちスピットファイアの腹部に向かって槍を放つ。

 スピットファイアも腰をねじりながら左手を縁の顔へ。

 再び交差する攻撃。だが次は当たった。当たったのは、


「ぐあぁぁ!」


 スピットファイアだった。

 短めに持っていた短槍は避けられると同時に刃先が伸びたのだ。

 通常予想できない一撃。常人では、武術を嗜んでいないスピットファイアには予知すらできなかった。

 腹部に打ち込まれた強烈な一撃に、スピットファイアは膝を震わせながらもその場に留まる。

 口元からだらだらと無様によだれを零しながらも顔を起こし縁を睨む。


「なんで邪魔をするんだ。俺はただ居場所が欲しかったんだ」


 咳き込みながら体勢を元に戻し再び四肢の火力を上げる。


「俺のことを認めない奴らに俺のことを認めさせてやるためにがんばってきたのに……」


 徐々に自身のことを漏らすスピットファイア。


                ×                  ×


 スピットファイア。彼は世の中に居たありふれたただの青年だった。

 そんな彼はありふれた生活の中でありふれた夢を抱き、ありふれた状況に立たされた。

 今年で二十歳。もう少しで成人する。そんな状況に。

 周囲の者達は彼を祝福し、社会への自立を願った。

 だが、彼はその願いを受け入れられなかった。

 大人になり、社会の一部になる。彼にはそれがとてつもなく耐えられなかった。

 日々見る大人達の姿。大人はみんな何のために働いているのか分からない。無論生活するからにはお金が要る。

 お金が無ければこのご時勢殆どが出来ない。

 けれど、彼にはその手ごたえが理解できなかった。好きなことをするのは分かるが好きでもないことをする気持ちが理解できなかった。

 まだまだ自分は遊びたい。自分のための自由な時間が欲しい。

 嫌だ、自分は働きたくない。そう言う気持ちがどんどん沸き出溢れていく。しかし時は刻々と過ぎていく。

 そして、運命を変える日が来た。

 彼はザインの存在を知ったのだ。

 それは常人を超越する力。それがあれば自分は社会と言う輪の中に入らなくて済む。なぜなら、超人――即ちヒーロー(自由人)に成れるのだから。

 

              ×                ×


「お前に分かるか? ただ成人するだけで成りたくも無い大人に成らなきゃいけなかった俺の気持ちが! 大人達に自由を否定された俺の気持ちが!」


 どのような思いで吐き出された言葉なのか縁には容易に想像できた。

 ――ああ、なんだ。そう言うことか。こいつは見た目より餓鬼なんだなと。

 嘆息交じりの息を吐きつつ縁は鋭く、冷めた視線をスピットファイアに送る。 


「結局お前の願いとやら自分のためだけか」

「ああそうさ! 人は自分の願いを叶えるために他人を利用する! 別に俺があいつらをどう使おうと問題ないだろ!

 だってよ! 俺はあいつらに力を与えてやったんだ! それの見返りとして俺が自由になる権利を貰ったっていいじゃないか!」


 ギブアンドテイク。聞こえ良く言えばそう言う風に取れるが、実際はただの我侭。

 スピットファイアは大きな理想や目的を持って兵を募った訳じゃない。ただ自分の願いを叶えたいがため、自分の居場所を守るために組織を立ち上げた。


「スピットファイア。お前はお前の能力によって増えた人間達の名前を覚えているか?」


 答えられるであろう回答を分かっていながら縁はあえて問う。


「さあな、最初の面子は記憶しているが末端までは知らないよ」

「ならお前の仲間で力が扱えずに消滅した者達の名は?」

「覚えが無いな」


 簡単な受け答え。スピットファイアは知らぬ存ぜぬと繰り返す。


「そうか。……じゃあハマダタカシ。この名に覚えは?」


 繰り返される質問に対しスピットファイアは眉間に鋭いシワを刻み、口を開く。


「――記憶に無いね!」


 苛立たしげに吼え、下半身に力を込め走り出す。


「俺の与えた能力がどのように使われ、結果どんな被害が起こったとしても知るものか!」


 独善的な理由の中でも最も愚かな理由。更には消えていった者達のことを知らないと言うエゴイスティックな態度に縁は安堵する。

 ……ああ、これで心置きなくこいつをぶちのめすことができるなと。


「喰らえクソ野朗!」


 スピットファイアはブンと左手を振り上げ火柱を立てる。そこには二周りほど大きくなった炎の腕が出現した。

 それをスピットファイアは叩き付けるかの如く縁の真正面に火柱を振り落とす。

 縁はギリギリまでタイミングを計り、すんでのところで回避した。

 僅かにジュウと焼ける皮膚。ひりつく痛みを認識しつつ攻撃モーションが続いているスピットファイアの前まで駆ける。


「来るのは分かっていたぜ!」


 左手が振り下ろしきる前に右足が振りぬかれる。その足も大きな火柱となり縁の元へ空気を焦がしながら接近していく。

 けれど縁はまたもや回避する。微かに皮膚を焦がすだけのダメージを負いながら。


「なぜ! なぜそこまでお前は!」


 スピットファイアには縁が自分に挑んでくる理由が分からなかった。

 自身の力量を測るため――にしてはダメージをものともせず、皮膚を焼かれることに恐怖する様子も見えない。

 分からない。奴が何を考えて挑んできているのか分からない。そう思えた。

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