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第一話 新学期 2

 遊馬あすま えにし。私立草薙大付属高校に通っている高校二年生。

 昔彼に両親は居たが、縁が三つの時に母親は他界。しばらくして父親が新しい母親を連れてきた。

 そのとき彼女の娘である柚姫と知り合い、縁と柚姫は兄妹になる。

 そこから楽しい家族としての生活が始まると縁は思っていたが、それは今では叶わぬ夢となる。

 縁が七歳で柚姫が五歳の頃、新婚旅行をしていなかった父親は妹である千種に旅行に行くから子供達をしばらく預かってくれとお願いした。


 当時既に結婚していた千草は子供が出来たときの予行演習としてちょうどいいと言って軽い気持ちで引き受けたそうだ。

 当初一週間を予定した旅行だったが、行った先は異国の地。トラブルが起きて両親の帰国が遅れてしまう。

 まだかまだかと縁と柚姫は首を長くして待ち続け、ようやく戻ってきた時には二人は小さな箱になって帰ってきた。


 両親の行った旅先でテロが起きたらしく、二人はそれに巻き込まれて帰らぬ人となった。結果、小さな二人は世界で二人ぼっちとなる。

 その後、親族同士で相談した結果、豊久が縁達を引き取ると申し出てたのだ。しかし、現実には簡単に話は進まなかった。

 突然それなりに大きな子供を二人も引き取るというのは馬鹿げていると周囲の大人に猛反発されたからだ。

 特に縁の母方の親族である唐沢家が猛反対する。

 自分の娘が生んだ子供。道理としては自分達が引き取るべきだと。

 豊久は当初その話を飲もうとしたが、彼らは柚姫は連れて行かないと言う。

 そのため豊久は「この兄妹は別れさせない。おいが育てる」と親族達に頭を下げ、必死な思いで交渉した。


 彼の堂々たる姿勢を見た親族達は覚悟があるとみなし、縁達を引き取ることを許可した。ただし、まともに育てられないことが発覚した場合、即時引き取りに行くという言伝を残して。

 以来、今日まで御影家に縁と柚姫は住まわせてもらっている。

 一応言っておくと縁と柚姫は引き取られはしたが、養子ではない。

 千種の意向で遊馬の性を残したいという意見があったため、縁達兄妹は遊馬のままだ。

 以上が縁と柚姫が御影家へ住むことになった理由である。


                ×             ×


 縁は目の前に置かれた朝食を見てみる。そこにはアジの開きと味噌汁とご飯が置かれていた。理想的な日本人の朝食である。

 食卓に居る全員が箸を握り、一斉にいただきますと挨拶して食事に入る。


「今日から新学期だが、各々準備は出来ているかい?」


 豊久がアジを解体しながら子供達に尋ねる。


「わたしは準備できてるよ~」

「私も問題ないです」


 音芭と柚姫がさっと言葉を返す。


「縁君は?」

「俺は……」


 尋ねられ縁はふと考える。自分には明確な目標が無いから問題はないのでは? と。


「何も問題ないです」

「本当に?」


 縁の目を見て再び尋ねる豊久。その目を見た縁は若干ながら気持ちがぶれるが、すぐに問題ないと気持ちを持ち直す。


「おいが思うにはやらねばならんことが今年はいっぱいあると思うぞ?」


 ところが豊久はそんなことはないだろうと指摘してきた。対して縁は疑問を抱きながら豊久の意図を尋ねる。


「たとえばどんなのです?」

「そうだな」


 豊久は一瞬考えたあと、口を開く。


「彼女を作るとか女の子と付き合うとか女の子を家に呼ぶとか女の子を押し倒すとか……」

「それって結果としては全て一つの事柄で済ませれますよね?」


 突然変わったことを言い出す豊久に縁は顔を僅かにしかめる。それもそのはず。豊久は大きく噛み砕いたところ、縁に女を作れと言っている。ちなみに最後の方はどう考えても犯罪だ。


「縁君はもう十七だろ? ここはそろそろ女の子の一人や二人くらいは連れてきたっておかしくは無いだろうに」

「それはそうですが……」


 言いよどむ縁。内心一人は分かるが、二人は何だ? と突っ込みを入れる。


「おいだって若い時に千種と出会ってそれはもう楽しい楽しい青春を送ったものだ」


 一人うんうんと首を振る豊久。

 ……彼女か。男子高校生であるのなら求めなければならないものか?

 などと思考を働かせるが、彼にはその光景があまり実感が沸わかないようだ。なにせ女性関係は皆無であり、一応あると言えるのは家族内での女性関係のみ。


「ダメよあなた。縁君はそう言うのが下手なんだから」


 横から千種が豊久をいさめる。その光景を見た縁はほっとする。縁にとって女とどうのこうのと言うのは千草の言う通り苦手なのである。


「そうか? 縁君は見た目は十分いい男だからモテると思うんだが」

「外見は良くても中身は素人よ。基礎から経験を積ませないと」


 この話の流れだと縁は恋愛経験を積まなければいけない訳で……。女性の多い家庭での一人息子は大変である。


「あ、そう言えばわたし、終業式の日に同じクラスの男の子に好きだって言われたよ」


 何を思って発言したのか、縁の横から音芭がそんなことを言う。

 それを聞いた豊久は手に持っていた箸をベキンとへし折った。


「音芭、お父さんにその男の子を紹介してくれないかな。ちょっとお話がしたい」


 満面の笑みを浮かべて微笑む豊久。だが、目は笑っていない。


「あなた、その会話最初で最後じゃないでしょうね?」

「安心しろ。ちゃんと得物は貸してやる。その後で真剣勝負だ」


 一見冗談交じりの会話に見えるが、豊久はいたって本気だ。本気で得物を渡して真剣勝負を挑もうとしている。付け加えるのであれば一応刀も数本所持している。無論許可は取ってあるが。


「切り捨て御免と言えば、警察も納得するだろ」

「しません!」


 千種はぽかんと豊久の頭を叩く。叩かれた豊久は「なにすっと?」と言うものの、新しい箸が差し出されたのでとりあえずそれを受け取った。


「いてぇなぁ。ちょっと茶目っ気出しただけなのに……」

「そう言って保育園でも小学校の入学式でも結構睨み利かせていたでしょ!」


 目を棒線にしてポリポリと頬をかく豊久。まあ、愛娘が可愛いと思うのは一般的な父親なら誰でもそう思うだろう。


「ところで柚姫ちゃんもガッコ大丈夫?」

「私は大丈夫ですよ千種さん。友達もいますし、学校も楽しいですし」


 千種に話を振られた柚姫はニコッと笑ってそう答えた。


「おねーちゃんね。このあいだラブレターもらって困ってたよ」


 音芭が笑顔でそんなことを言う。正面のある人物が再び箸をへし折ったのは言うまでもない。


「こ、こら、音芭ちゃん。そう言うことは言っちゃダメ」

「俺にとっては初耳だが?」

「べ、別に兄さんに言うことでもないですし……」


 柚姫は頬を赤らめて顔をうつむける。それは誰から見ても可愛らしいと思える仕草であった。


「柚姫ちゃん。そいつのクラス分かる? 叔父さんちょっとガッコに面談しに行きたくなっちゃった」


 そう言う豊久は完全に馬鹿親モードだ。正直言ってタガが外れているというかネジが飛んでいるというか、なんとも形容しがたい状態だった。

 そんなこんなで彼らの朝食の時間が過ぎていったである。


             ×              ×


 縁と柚姫と音芭の三人は玄関に立ち、見送りをしてくれる豊久と千種に行ってきますと挨拶する。

 二人は柔らかく微笑んで手を振ってくれた。

 そこで縁と柚姫は下駄箱の上に飾ってある写真にも挨拶をする。もちろん、そこに映っているのは父親と二人の母親。

 その様子を豊久も千種も微笑ましく眺める。なにせ既に死んだ人間の写真。通常の人達は挨拶すらしないのだから。

 それと比べると縁も柚姫も故人を思うタイプな訳で。


「じゃあ、気をつけていこうか」

「はい」

「うん♪」


 玄関の戸を開き、三人は外へ出る。

 三人はいつものように一緒の通学路を歩いていく。その間の会話は他愛も無いものを話し合いながら。


                ×             ×


 そんな縁達の住む家は一戸建てであり、坪数はそれなり。間取りも二階建ての6LDKと大家族が住んでも問題ない規模の家に住んでいる。

 振り分けとしては一階に御影夫妻が生活している自室があり、二階は子供達の部屋となっている。

 また家の裏には叔父の豊久が経営する整体院があり、近所での評判は良好。毎日の様に人が溢れている。

 更には家の敷地内に中規模な道場もあり、終日にはそこで近隣の少年少女を集め剣道の指南をしていたり。

 収入源が複数あるために御影家の子供達は学業傍らにバイトをしなくて良い。また、ある程度の要望を叶えてくれたりもする非常に良い家だ。

 この辺はちょっと描写を足し、縁達の住む家の物件情報を書き加えてみました。

 家の間取りは大切です。

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