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最終話 炎を穿つ者 6

 しかし、縁は表情を曇らせなかった。さすがのスピットファイアも不審がる。


「おかしい、なぜ溶けない?」


 ――そして気付いた。目の前の異常に。


「ほう、お前は俺の武器が溶かせないのか。まあそうだろう。何せこれはアルミナで出来ているのだから」

「な! アルミナ!?」


 彼が驚くのも無理はない。チタンの融点は1812℃。一方アルミナの融点は2072℃である。

 この数字が現すことはつまり、


「お前の火力では俺の武器は溶かせない」

「んだと!」


 そこで初めてスピットファイアは顔をゆがめた。怒りによるものではない。縁に脅威を抱いたからだ。


「武器がダメならお前の体を!」


 瞬時に炎を広げ縁の体に火を纏わせる。


「それも無理だ。俺の着ている服は《アルミナイズドクロス》で出来た防火服。ちょっとやそっとのことじゃ燃えんよ」


 アルミナイズドクロス。アルミナを布状に加工したもの。耐熱温度は確かに高いのだが、かと言って使用者を完全に守る訳ではない。

 縁はそれを分かっていながらあえて強気で対応する。要はハッタリだ。


「……んだよそれ。何だよそれは!」


 スピットファイアは叫ぶ。顔を強張らせながら。

 その表情を読んで縁はスピットファイアの力量を見切った。そして結論に至る。

 ――ああ、こいつも俺を満たすことができないのかと。


「それでも! それでも問題ねぇ! 何せ俺がお前の武器を掴んでいるのだから!」


 そう、彼は未だに縁の武器を掴んでいる。得物を使うものにとってそれは致命的な状況だ。


「なら手を離そう」


 が、それは縁に関係なかった。

 突然の武器放棄にスピットファイアは目を見開く。


「唐沢流無刀拳――」


 ゆらりと両手を引き硬く拳を握りこむ。


「双拳衝!」


 ゼロ距離で、スピットファイアの腹部目掛けて握られた拳は打ち出される。

 それは存在するであろうチタンの鎧の上にぶつかり、彼の内臓へ確実に衝撃を伝えた。


「ぐぅあ!」


 通るはずのない衝撃を受けたためにスピットファイアは吹き飛ばされる。――それだけには留まらず武器まで放り出してしまう。

 縁は跳躍してそれを掴むと構え攻撃に転じた。

 迫り来る縁を視認したスピットファイアは慌てて応戦する。

 縁は離れた位置から短槍を打ち出す。

 互いにぶつかる得物。火花を散らし荒々しくも戦いが再開される。


「んだよお前! 動きがさっきと……」


 言い終わる前にスピットファイアは黙る。なにせ眼前には小太刀と短槍を振りかざす縁が居るのだ。

 先ほどとは打って変わって変化した攻防。それは見るからにスピットファイアが押されていた。

 縁はわざわざスピットファイアが一番当てやすいであろう距離まで詰めると小太刀はそのまま、短槍をいつもより刃先に近いところで掴む。

 同等のリーチになった武器。すなわちこれから縁が行うことは、


「はぁ!」


 ――至近距離での連撃であった。

 小太刀と短槍が交互に放たれスピットファイアを襲う。対する彼は両手を使ってそれを防いでいく。

 その度にチタンの鎧が振動し、衝撃だけをスピットファイアに伝えた。


「は、早くたって問題ねぇ! だって俺には鎧が……」


 苛烈さを極める縁の連撃。同等のリーチになったことで同じテンポで次々と攻撃が繰り出される。

 右左右左。左左右。――ひたすら甲高い音を立てながらも着実に攻撃を当てる。

 そして、異変が起きた。

 縁が床を強く踏み込み強力な左の抜刀をスピットファイアの右腕に当てる。


「っぐぅ! がぁぁぁぁぁ!」


 ギィンと鈍い金属音が響いたあと、スピットファイアは顔を苦悶の表情に変え叫んだ。

 縁は自身の左手に感じた手ごたえを理解する。――ああ、腕が折れたなと。

 何度も叩かれた結果スピットファイアの右腕の鎧が砕けた。偶然起こったように思えもするが実際は違う。縁はこれを狙っていたのだ。

 縁が奇襲で当てたのは右腕の鎧。たった今壊れたのも右腕の鎧。そう、縁は始めから同じ箇所を執拗に攻撃して破壊したのだ。


「あああ! いてぇ!」


 右手を抱え苦しみだすスピットファイアに縁は表情一つ変えることなく追撃を入れる。

 左手に数撃打ち込みまたもや鎧を破壊する。スピットファイアは身の危機を感じバックステップで距離を取ろうとする。が、そこは縁の短槍の攻撃範囲内だった。

 縁は左手の小太刀を一度宙に放り投げ空いた手を右手の短槍に添える。そこで足を叩きつけ、全体重を乗せた槍の突きをスピットファイアの腹部に当てた。


「ぐおぉ!」


 これまた鈍い金属音と共に鎧が服の下で砕ける。縁は一度距離を取り空から降ってくる小太刀を掴み構える。


「……なぜだ。俺のチタンが」


 ガクガクと膝を揺らすスピットファイア。その様子を見ながら縁は冷たい視線で彼に言い放つ。


「お前は馬鹿か。確かにチタンは強度としては強いが硬さは脆いんだよ。このアルミナよりも遥かにな」


 そう。スピットファイアの鎧は縁に対して全くの防具になっていなかった。

 当初縁は鎧の材質を確認すべく防御に回った。そこで手ごたえからカーボンかチタンであることを推測する。

 あとは押されているフリをし調子ついている本人に語らせ材料を特定。それを力の限り同じ場所を的確に打撃し、金属を疲労させ破壊したのだ。


「お前の力はこんなものかスピットファイア?」


 体勢を崩したスピットファイアに対し冷めた眼差しを送る縁。


「こんなもんじゃねぇよ」


 ゆらりと、体を起こし構えなおすスピットファイア。その彼の目にはまだ闘志と言う炎が燃えていた。


「俺はやらなきゃいけないんだ。ここで勝って俺は自分だけの軍団を作りこの地に楽園を築く!」


 彼は叫びながら自身の服の下に手を入れ、鎧を剥ぎ取っていく。壊れている物も、まだ壊れていない物も全て。


「俺は強い! こんな物が無くたって俺は強いんだよ!」


 そう言って四肢の炎を更に燃え上がらせる。結果四肢を纏っていた衣服は一瞬にして灰になり崩れ落ちる。

 その下から限界の証である青緑色の結晶がいくらか現れる。

 これ以上能力を使うと自滅する状況。だがそれだけの――命の危機に瀕するほどの対価を支払えば力はもっと行使できる。

 ここに来てスピットファイアは縁を侮るのをやめた。そして、自分の全て(命)を使って戦う相手と認識する。

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