最終話 炎を穿つ者 3
「だからこそ俺達はもっと数を増やし、能力者狩りが太刀打ちできないところまで強くならなくちゃいけない」
自身の足元に居る少年達に熱く説明するスピットファイア。
どこぞの映画に出てくる人物みたく身振り手振りを大きく見せて話し続ける。
そんな彼の頭上に……縁は居た。
「お気楽そうに演説しやがって」
縁は相手が対象と確認するや否や、人気のない壁側を伝いホール天井部にある照明用の通路の上に登っていた。
もちろん移動途中に誰にも発見されていない。何せ室内は足元にある明かりのみ。そのため天井部は良く見えないし縁の服装も暗色のため認識し辛い。
潜むには好状況な中縁は両の手に小太刀と短槍を構え、スピットファイアの頭上まで移動し機会を窺う。
「……そしていつかは、俺達の理想の空間を手に入れるべく――」
演説が過熱していく中縁は動く。
片足を手すりに乗せると何の迷いもなく縁は飛び降りた。――床まで四mはあるであろう高さから。
落下途中縁は右手の短槍を自身の背に向かって引き、ビュオンと音がなるほどの勢いで振り下ろす。
それは着地の際に衝撃を和らげるために振ったのではない。降下する前から狙いをつけていたスピットファイアの頭目掛けて振ったのだ。
「そのために俺は――」
言葉が紡がれる刹那、スピットファイアは右手を天にかざした。そのすぐ上には縁の短槍が迫っている。
少しの距離はあっという間に縮まり、二人は接触した。
大きく力を込めて振り下ろされた短槍はスピットファイアの腕にぶつかりめり込む。が、スピットファイアは叫ぶこともなく、また苦悶の表情を表すこともなくその場に立っていた。
「奇襲とはいい度胸だな」
ゆっくりと縁に向かって顔を向けるスピットファイア。表情は穏やかではあったが体はそうではなかった。
特に右手が変貌している。真っ赤な炎に。
「余裕そうだな。その態度」
体重+重力を乗せた攻撃が阻まれたことを理解した縁は即座に距離を取った。
「どうせ嗅ぎ付けられているとは思っていたさ」
対するスピットファイアは静かに体を燃やし始めた。
当初右手が燃えているだけだったのが左手両足と炎が出現し、四肢が燃え盛る。
その様子を見た縁は直感する。
――――こいつ、融合型のザインか。
「いいぜぇ、やるならさっさとやっちまおう。なあ、他にも隠れているんだろう!」
スピットファイアが叫ぶと辺りがざわめきだす。すると物陰から水無月達が姿を現した。
「スピットファイア! ボク達防人が来た理由は分かっているんだろうね!」
複数の視線に怯えることなく水無月は凛とした声で言う。
「ああ、分かっているとも。お前たちが来た理由は――――俺達に狩られるためだと!」
それが引き金だった。
彼の言葉を聞いた少年達は一斉に能力を発現させて炎を操りだす。
「行くぞお前ら! ここに居る四人を生きて帰すな!」
ありふれた言葉と共に戦いの火蓋が切って落とされた。
「遊馬君! こっちの人たちの相手はボクらに任せて!」
手に水球を発生させた水無月が縁に言う。
「そうそう。雑魚は僕らに任せてよね」
「ボスはお前に任せたぜ縁!」
修介は手に刀を生成すると構え、雄吾は右手の拳を天高く突き出した。
「んじゃま! 俺の能力を見せてやろうか!」
雄吾は不敵な笑みを浮かべて拳に力を込める。その様子を見ている少年達は格好の的と言わんばかりに雄吾に飛び掛った。
あっという間に炎に囲まれる雄吾。しかし突如風が巻き起こる。
突風によって少年達の炎が鎮火しかける。慌てて力を発動しなおす少年達を傍らに雄吾は余裕そうに立っていた。
だが彼の周りには多くの物体が宙に浮いている。主に瓦礫や鉄くず、照明器具など。
「何だあいつの能力は!?」
それらの物体は雄吾の拳にまとわりつくと頑丈な拳へと変わる。
「へへ! これが俺の力だ!」
雄吾の能力のタイプは融合型だと言うことが窺える。けれども宙に浮いている物体に統一性がない。
いや、瓦礫に鉄くず、照明器具にはある物が使われている。それは今の人類にとって必要不可欠な物質。
「あれが、雄吾の能力なのか」
横目で見ていながら縁は雄吾の能力を理解する。
一見ある対象を自身の体に引き寄せ行使する能力に見える。引き寄せるといってもワイヤーや糸を使って引き寄せているわけではない。
となると原理が不明。簡単に言えば未知の能力。多少の知識があるザインはこう考えるだろう。こいつはレア能力だと。
……だけどな、俺はお前達凡庸な連中とは違うんだよ。雄吾の能力。それは引き寄せるってことで十分力が割れている。それは《磁力》だ。
雄吾は電気の能力を持ったザイン。その中でも磁力に特化したタイプ。磁力使いだ。
瓦礫の基礎には鉄の鋼材が入っているし、照明器具にも金属が入っている。おまけに言うと鉄くずは論外だ。
「さて、コチラの武器が吸い寄せられないように気をつけないとな」
スピットファイアとやりあっている最中に武器が持っていかれたら大変だ。酸化アルミニウムといえど金属。雄吾の磁力がどこまで吸い取れるかはやや不明だが。
「は、たった三人でこれだけの連中を相手するつもりか」
偉そうな口ぶりでスピットファイアは三人を眺め、縁の顔を睨む。
「あいつらのお望みどおり俺はお前と戦ってやるよ」
「ほう、上から目線か。さすがにリーダーとやらは格が違うんだな」
縁はスピットファイアを焚きつけるつもりでバカにする様に振舞う。しかしスピットファイアは冷静にそれを聞いた。
「安い挑発に俺が乗るとは思うなよ」
足を踏み込みスピットファイアは縁に向かって走り出す。
「仮にもこいつらの頭張っているんだ。俺が安い奴だと思ったのは誤算だ!」
自身の攻撃距離に入るスピットファイア。彼は迷うことなく燃え盛る拳を繰り出す。
その灼熱の拳を縁は短槍で防いだ。
スピットファイアは防がれたことに驚くこともなく、続けて反対の拳を繰り出す。縁も新たに放たれる拳を小太刀でいなした。
二撃三撃と繰り出される炎の拳。通常なら迫りくるだけでも逃げるなり避けるなりする物を縁は防いだ。
その様子にスピットファイアは口笛を鳴らす。
「ほう、驚いたな。炎の拳に真っ向から立ち向かうなんて」
「そりゃどうも」
防ぎつつ縁は軽口で言葉を返した。




