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最終話 炎を穿つ者 2

 屋上に出たところで葛木は鍵をかける。そこで中ほどに設置されているベンチに腰掛け、縁達も葛木の正面に立つ。


「で、お前はハマダタカシの仇をとりたいの?」


 オブラートに包む訳でもなくストレートに言葉を投げかける葛木。それに対して縁はと言うと、


「全く。自滅は所詮自業自得だ」


 とどうしようもない答えを返す。


「ま、それが一番正しいこったぁ」


 そう言いつつ葛木はポケットからタバコを取り出し火をつけ口に咥える。


「復讐なんざ何の意味もありはしない。やられたからやり返すって言うのは幼稚園児のケンカと同意議さ。そんなもんゴキブリの餌にもならんよ」


 すぅっと煙を肺まで吸い込み、口からフッと煙を吐く葛木。


「だが、自業自得と言ってもそこに至るまでの原因はそいつ所為じゃないとお前は考えているみたいだが」

「ああ、彼は力さえなければそんな目に遭わなかった。だから俺はそうなる原因を作った奴が許せない」

「根幹に目をつけたか。いいことだ。だが、ハマダタカシに能力を与えた奴が元じゃない」


 葛木はポケットから新たに携帯灰皿を取り出しそこに灰を落とす。


「ハマダタカシにこの間捕まえた三人組のザイン。そのどちらも炎の使い手だった。……俺の言いたいことがわかるか遊馬?」

「彼らに能力を与えた者達には根幹があると?」

「そうだ」


 葛木はおもむろに手元にある授業用のファイルの中から一枚のプリントを取り出す。それを縁に渡した。


「一連の炎使い達の背後にはこいつの影があった」

「こいつが?」


 プリントに書かれているのは一人の青年のことだった。そこに写る青年の顔は大人になったばかりの青さが伺える。また年齢の方が十九歳と記述されている。


「そいつの名はスピットファイア。近頃他所からやってきた炎使いだ。そいつはこの町で自分だけの組織を作り上げここに根付こうとしている」

「……スピットファイア」

「いやまあ組織を作るのは問題ないんだが、やっていることの殆どが犯罪を助長させる物。こちらとしては面白くない訳で討伐対象になっているんだよ」


 常識的に考えてそうなのだろう。警察の隣に暴力団が巣を作るようなものだ。それが面白いはずが無い。


「それでスピットファイアは自分の組織を作り上げるために私兵を欲した。結果生まれたのがここ最近町内に出没している炎のザイン達だ」


 葛木の説明によると今まで遭遇していた炎のザインは彼の子や孫に当たるようだ。

 ザインが増えるためにはある程度能力を使いこなせるようになった者が他者に力を与えることで増やすことができる。

 ただし色々と制約があり、一人のザインにつき三人までにしか力を与えられないと言う点とと能力が発現しない可能性もあると言う点の二つがある。


「奴は都合のいい若者を言葉巧みに誘いこみ能力を与え、頭数が増やせるまで鍛え上げた。そこであとは二世代目の奴が同じように能力をレクチャーし鍛えていたんだが……」


 急に言葉が詰まる葛木。言いたいことは容易に想像できた。


「いたんだが、所詮素人に毛が生えたもの。末端の指示が上手く伝わっていない訳で。結果としてのありようはお前が見た二件になるんだよ」


 葛木の指す二件。逃げることよりも自身の力を過信して戦いを挑む者や、私利私欲のために能力を使って自滅する者のこと。

 せっかく増やしたところでトップの程度が低いのでは増やそうにも増やせない。むしろ被害が広がるばかりだ。


「組織としてモノが成っていない訳か」


 縁は前日からもてあましていた怒りが急に冷めた。

 ……惚れ惚れするくらい間抜けな状態だ。そんな奴の所為で誰かが犠牲になるのは我慢ならんな。

 そう思ってしまったために冷めてしまったのだ。


「しかしさっきのことから考えるとチマチマ潰すのは大変そうだな」


 少なくとも数は居るのが想像できた。まあ戦力的な物は遥かに低いのが分かるが。


「そうそう。そこで俺達防人は組織を破壊すべく各個撃破するのではなく、スピットファイアとその傘下に居る者全てをまるっと捕まえる作戦を実行しているのよ」

「実行している?」


 それは現在進行形の言葉であった。縁が首をかしげているところで静かにしていた水無月が口を開く。


「実はね、ボクと雄吾君と修介君の三人を含めた防人達が二週間前からスピットファイアに加担しているザインを根こそぎ捕まえているの。

 そうすることによって策略能力の低いスピットファイアでも必ずどこかで一斉に人を集めて会合を開くはず。そこで一定人数の防人で襲撃して組織を一夜で滅ぼそうって作戦なんだ」

「そんな作戦が動いていたのか」


 縁の中ではてっきり部下から捕まえ徐々に組織を崩壊させていくものだと思っていた。

 しかしそれでは時間がかかる。そうなると一斉に捕まえた方が楽な訳で。


「今まで散々種をばら撒いてきた。それがようやく芽を出す頃合だ」


 葛木は縁向かって楽しげに言う。


「防人の情報では明日の晩、マークしている三箇所のどれかで会合が行われると言う情報を入手した。よってお前達四人はその中の一つに潜入し、スピットファイアと奴の私兵であるザイン達を捕獲せよ!」


 葛木は四人に向かって命令を下す。それに対し四人は「ハイ!」と元気な返事をして応えた。


「喜べ縁。時は来た。今度こそ本当の戦いをさせてやる。そこで暴れればお前の望む物が手に入るかも知れんな」


 葛木の言葉に縁は震えた。――やっと強い奴と戦える。

 この間の戦いで俺は何かを掴みかけた。今度はもっと明確な物を知ることができるかもしれない。

 胸の奥にあいた穴を塞ぎ得る何かを。師である父に通ずる道が見つかるかもしれない。


             ×                 ×


 次の日の晩、縁達は丘に建てられている廃屋に身を潜めていた。

 廃屋といっても規模はそれなりに大きい。もともとは愛知万博の為に用意された施設だったが会場までの交通状況が悪いためにすぐに客は引き、今では完全に営業を辞めている。

 それでもかけられた費用はそれなりであったために頑丈であり、人が住むには十分な環境であった。正しライフラインは皆無だが。


 ところが電気もガスも通っていないはずの建物の一階、ホールにあたる場所にいくつかの明かりが見えた。

 そこでは総勢二十人ほどの少年達がたむろしており、彼らは持ち込んだランプや光源で暗い室内を照らし各々談笑していた。

 ちなみにその片手には酒やタバコを持ってアウトローっぷりを発揮していたりする。

 その様な少年達からあまり遠くない位置に縁達は隠れていた。彼らの前には山積みにされたテーブルがあり、それを遮蔽物にしつつ様子を確認する。

 そんな縁達の姿は揃いも揃って真っ黒な服を着ており、上にはジャケットを羽織っている。

 決して格好をつけたいからその様な格好をしている訳ではない。安全性を確保するためにその格好をしているのだ。

 ちなみに縁のは若干灰色がかっている。それはもちろん縁が出撃前に渋ったが故の変更点だ。


「結構数が居るみたいだな」

「みたいだね」


 縁の言葉に水無月が賛同する。隣の雄吾と修介も少年達をまじまじと眺める。


「数は居るけど実力は無いと僕は見るよ」

「ま、仮にあったとしてもこの場所は俺の能力と相性が良い。ルーキー相手に負けはしねぇよ」


 修介がもっともなことを言い、雄吾は問題ないと口にする。が、縁は雄吾に対しある疑念を浮かばせる。


「そう言えば雄吾の能力って何だ?」


 水無月は水。修介は武器生成。なら雄吾は?


「ん、俺の能力? それは後のお楽しみで」


 もったいぶるかの様に笑う雄吾。その態度に対し縁は気にすることもなく「そうか」と会話を終わらせた。


「あ、奥から誰か出てくるみたい」


 水無月がケモノ耳をせわしなく動かして言う。三人は即座に意識を集中させ少年達の方を見た。

 ホールの従業員用通路から一人の青年が現れる。その姿は中肉中背でパーカーにジーンズ、頭にバンダナを巻いており、ホールに居る少年たちと比べると明らかに雰囲気が違う。

 大人びていると言うより、自信が満ちていた。いや、その表情そのものが自信に溢れていると言うべきか。

 その青年の姿が出てきたところで縁は彼の顔を見据える。その見方は誰だろうと見つめる見方ではない。むしろその目は、


「奴か」


 ――獲物を目の前にした獣と同意義の目つきだった。


「水無月、あいつがスピットファイアだな?」


 縁は明らかに彼がそうだと言う風に水無月に尋ねる。水無月はケモノ耳をしきりに動かしてからしばし考え口を開く。


「うん、あそこに居るのは紛れもなくスピットファイア本人だね。影武者じゃない」


 水無月は彼がターゲットだと宣言する。


「縁君、こんな暗がりで良く気付いたね」

「いくら写真で事前確認しているからってこの距離は見にくいぜ?」


 修介と雄吾が驚いたような口ぶりで言う。それに対して縁は照れるでもなく喜ぶでもなく、さらりとした態度をとる。


「あいつの歩き方、普通じゃない。それに体から出る気配がこの間の雑魚とは違うことを物語っている」


 縁には青年がスピットファイアだと一目で判断がついたようだ。


「そう言う遊馬君こそ普通じゃないとボクは思うけど……」


 水無月は僅かに眉尻を下げながらあははと笑う。

 彼女の言うとおり縁は普通ではない。見ただけで相手の器を図ると言うのは常人には出来やしない。常日頃体を鍛え、精神を高めてきた縁だからこそ判断がついたのだろう。

 それはさておき縁達のことを微塵も知らぬスピットファイアは軽やかに部屋の真ん中に置いてある台の上に飛び乗る。そこで高らかに声を上げた。


「野朗ども! 元気にしているか!」

「「おう! 大将!」」

「腹の虫は暴れているか!」

「「大暴れっす!」」

「だったら今後のことを話し合おうぜ!」

「「イェー!」」


 勝手に盛り上がるスピットファイア達。

 その様子を見ながら修介が水無月に小声で囁く。


「ここに本人が居るんだったら他のチームはどうなっているの?」

「ちょっと待って、連絡してみる」


 そう言って水無月は左手の裾を上げ、腕にある液晶のタッチパネルをパチパチと叩く。するとすぐに返事が返ってきたらしく、内容を読み始める。


「他の二箇所にもスピットファイアと思しき者が現れたって。だけど様子が怪しいから影武者っぽい」


 通常こういった場で、複数の場所で会合が行われると言うのであれば影武者が出てくる場合が多い。

 そこで防人は本人以外の人物が出てくることを想定し、三つのチームに分け三箇所バラバラに配置した。


「どこに当たるかなと思っていたけど」

「まさか僕らのところに当たるなんてね」


 雄吾と修介はそう言いつつ縁の顔を見る。縁は「俺がどうした?」と言う顔をするも二人は笑ってごまかすのであった。


「他二箇所も複数のザインは居るみたい。スピットファイアはもしもの為にダミーを二つも用意していたみたいだね」

「それは多少は頭を使ったことで……」


 コソコソと四人が話していく中、少年達は勝手に過熱し盛り上がる。


「ま、居ても居なくても俺達の仕事をきっちりやろうぜ」

「そうだね。ここに居るザイン達はみんな軽犯罪者だ。捕まえない手はない」

「うん。それでは今から作戦を決行しようか。じゃあ遊馬君行く……よ?」


 水無月が視線を横に動かしたところで縁の姿はなかった。不審がるがケモノ耳をピクピクと動かしたあと、彼女は目を弧ににした。


「……行っちゃったみたい」


 どうやら縁は先攻したようです。

 それを聞いた雄吾と修介はやれやれと言わんばかりに首を横に振った。


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