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第三話 ザイン 5

 戦いも終わり、縁達は三人の少年を持ってきていたワイヤーでぐるぐる巻きにする。一応言っておくと持っていたのは水無月だが。


「さて、ひと段落着いたし聞かせてもらおうか?」


 縁は水無月の方へ体を向けそう言った。彼女は静かに深呼吸してから口を開く。


「あのね――」

「とう! 防人の無頼参上!」

「同じく小烏丸参上!」


 喋りかけたところで入り口から二人の少年が入ってきた。思わず空気を読めと言いたくなる状況。

 会話を中断されたことに小さなため息を吐きつつ、縁は新たに現れた二人の方へ顔を向ける。


「……何やっているんだお前ら?」


 そこには勝負服とも取れる私服を着た雄吾と修介が決めポーズをして立っていた。


「……どゆこと?」

「フォックステール。状況説明お願い」

「分かった」


 水無月が現れた二人に先ほどから今に至るまでの顛末てんまつをさらさらっと話す。


「ああ、そう言うことか」

「ふ~ん。そうなんだ」


 納得した口ぶりのあと縁の方を見る二人。ところが視線は納得するどころか何故かいぶかしんでいた。


「お前、俺の記憶が正しければザインじゃなかったよな?」

「ザインって何だ?」


 縁は雄吾の言っている意味が分からなくて聞き返す。


「どうやら、完全に部外者だったみたいだね」


 修介がやれやれと言う感じに手を振ってくれる。その態度に縁は俺がここに居てはまずかったのか? などと思ってしまう。


「おぃ~っす! お前達ご苦労さん!」


 皆が困惑する空気をぶち壊すかのように男性が一人フロアに入ってくる。

 その人物は格好こそ違えど、どこからどう見ても葛木だった。 


「支部長、これはどういう意味ですか?」

「俺達が納得する理由を教えてくれよ支部長」


 水無月と雄吾が今にも噛み付きそうな勢いで葛木を問い詰める。


「どう言うって……何の?」


 相も変わらずふざけた態度をとる葛木。それに対して修介が問い詰めている二人をなだめるべく間に入る。

 二人は修介が間に入ったことにより静かになる。けれど口は何か言いたげで。

 それを見た修介は軽く手を振って押さえるようにジェスチャーすると、くるりと反転し今度は葛木の方へ向く。


「支部長。僕が思うには彼がここに居る理由。あなたは彼が我々防人の新しい戦力になると判断したのではないですか?」

「ハハ、さすが小烏丸。いい勘してるんじゃないか」


 ケラケラと笑う葛木。どうにも話が読めない。


「そうそう~。どうだったフォックステール? 遊馬の戦いっぷりは?」

「客観的に見て言えばとても強いと思いました。能力者に匹敵するくらい」

「そうか。じゃ、決まりだな」


 そう言って葛木は縁の元に歩いてくる。


「おいおい支部長。どう言うつもりだよ?」

「どうもこうもねぇ。遊馬を今日から愛知支部の防人に加える」


 縁が受諾していないのにも係わらず勝手に話を進める葛木。


「支部長。彼は確かに強いですが、ザインじゃありません。ただの一般人です。そんな彼を防人に加えるなんて……」

「あ~? 別に問題ないだろ。過去にも一般人でありながら防人に所属していた奴が何人か居たんだし。例えば……そう、〝遊馬 誠十郎〟とか」

「!!」


 縁は葛木の口から出た名前に思わず驚く。


「遊馬って」

「もしかして遊馬君の家族?」


 雄吾と水無月が縁に確認してくる。それに対して縁は渋い顔をしながら苦々しげに口を開く。


「誠十郎は、父さんの名前だ」


 縁の言葉を聞いた葛木を除く三人は顔を強張らせる。それもそのはず、何せ彼は故人なのだから。

 幼馴染の雄吾と修介は縁の家に頻繁に出入りしていたために縁の家庭環境を知っている。また水無月もそのことを過去の件から知りえている。

 故に三人は誠十郎が既にこの世に居ないことを理解していたために顔を強張らせたのだ。 


「どうだ? お前が防人に入ったら親父のこと教えてやらんでもない。入るか?」


 へらへらとした態度で縁に確認を取る葛木。口ぶりからするに葛木は誠十郎と何らかの交流を持っていたことを窺える。だが、


「父さんのことは興味ない」


 そうさらりと縁は言い切る。

 縁にとって父である誠十郎は強くなるための目標であった。いつかは彼のような強さを手に入れたいと思っていた。なのに縁は父親のことは興味ないと言い切る。

 その反応に葛木はへぇと言い、やや呆れ気味な態度を取る。


「あっれ~? 興味ないのかよ」


 対して縁は短く「ああ」と返事をする。


「ただ、俺は今回の戦いで今まで知らないものを知った」


 火を己の意思で自在に操る人間。それが出来る人間がこの世に居たなんて縁は知らなかった。


「世界にはまだまだ強い奴が居る」


 今回の相手は恐らく最弱クラス。探せばもっと強い奴が居るはず。縁は先ほどの戦いから既にザインのレベルを理解し始めていた。


「俺は、そいつら全てと戦いたい」


 縁は凛とした態度でそう告げた。

 目標であった父が死したときから彼はずっと戦ってきた。いつかは父に届くようにと昔から今まで。

 そうなると通常は父の様になるべく強くなりたいと抱くはず。されど、縁は違う。

 ……死んだ奴のことを気にかけたって仕方ない。家族を遺して勝手に死んだ奴のことなんて。そんなことよりも能力者――ザインと言う奴と一人でも多く戦いたい。

 縁は通常に当てはまらない想いを胸の中に強く抱く。そして、


「だから、防人に入る。防人に入って、沢山の能力者と戦って強くなりたい」

「そうか。ま、いいけど。そう言う理由でも」


 可もなく不可もなくという風に言うと、葛木はいつもの様にやる気なさそうに拍手をした。


「ハイハーイ。新しいお仲間ができました! みんな仲良くねー」


 葛木の宣言に雄吾も修介も水無月もなんとも言えない表情をした。特に水無月は若干目を伏せている。

 みんなの気持ちがどう言うものかは分からなかい。だが、一つだけ言えよう。

 縁の日常は今日、この瞬間から変わった。

 今までとは違う世界に足を踏み入れた。その先に何があるのか分からない。

 だけど、きっとその先には父が『居る』のだと縁は直感する。

 父親のことを知りたがらず。でも父親のようになりたいと願う縁。

 歪な矛盾を孕みながらも縁はザイン達の住む世界へと足を踏み入れたのであった。

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