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第二話 彼女の秘密 8

「彼女は学校も行くし、友達もいる年頃の普通の女の子だ!」


 縁は腰を低くして葛木の股下をスライディングタックルする。葛木は足を取られて机から足を踏み外し床に落下した。


「そんな女の子に転校しろ? ふざけるな! あの子にとって友達はどれだけ必要で、どれだけ作るのが大変だったか分かっているのか!」

「知らねぇよ!」

「だったら知らない奴が彼女のことに口を挟むな!」


 体制の崩れた葛木に縁が飛び掛る。ところが葛木は縁よりも早く動き、前転して彼の突撃を避ける。


「俺は彼女に誓ったんだ! 秘密を守ると!」

「嘘くせぇんだよ!」

「嘘じゃない! それに、記憶を消されても絶対に思い出すって約束したんだ!」


 縁が記憶を消される直前まで水無月は「ごめんなさい」と泣き続けていた。縁はそんな彼女の頭にそっと手を置きこう言った。


「『大丈夫。きっと思い出すから』って言ったんだよ」


 葛木は縁の背後を取りにくる。


「お前の秘密がばれそうになったら全力で俺が阻止してやるって言ったんだ!」


 縁はそこで足を半歩引き、背後の葛木の腹部目掛けて肘を当てる。突然の反撃に怯む葛木。


「離れていてもお前に危険が迫ったら助けてやるって言ったんだよぉ!」


 縁は浴びせるように警棒で葛木の腹部に連撃を入れる。それは彼の想いの分だけ威力がこもり、加速した打撃を放ち続けた。

 繰り返し打ち込まれる打撃に葛木は低い声で呻いたあと、床にドスンと転がった。

 教師が床に倒れる姿を見て縁は思う。……勝った。俺は勝ったんだと。

 すっと、縁は水無月の居る方へ振り向く。彼女は目を丸くしてその場に固まっていた。

 縁はそんな水無月を見て表情を柔らかくして口を開く。


「水無月。今まで思い出してやれなくて済まなかった」


 そう謝罪の言葉を彼は述べた。


「何で、思い出しちゃうのかな」


 縁の言葉を聞いた水無月はポロポロと涙を流しだす。それは悲しみによって流れ出たものではない。なぜなら、


「約束守ってくれてありがとう」


 水無月は縁が今まで見たことの無かった笑顔を見せていたからだ。微笑みなんかではなく、花が咲いたような可憐な笑顔を。


「本当に……ありがとう」


 いつの間にか、水無月の声が変わっていた。

 静かな声じゃない。誰かと距離を置くような声じゃなく、とても甘い砂糖菓子のように可愛らしい声を出していた。

 ……この声、久しぶりに聞いた気がする。小学校以来か。

 可愛らしい声を聞きながら縁もぎこちない笑顔で返す。ちゃんと笑えているかどうかをやや不安に感じながらも。


「……お前ら、教師に楯突いてただで済むと思うなよ」


 直後、葛木がゆらりと立ち上がった。その状況に縁は顔を僅かに引きつらせ、水無月を庇う形で葛木に向かい合う。

 縁は胸の中で毒づく。確かに連撃を入れたはずだ、当分は立ち上がれないんじゃないのか? と。


「俺はデスクワーク派だったのに――――慣れないことさせやがって!」


 縁は再び身構える。そして、葛木は目を大きく開き二人を見据え叫んだ。


「なんちゃってうそぴょ~ん!」


 葛木の言葉に縁と水無月は同時に床に崩れ落ちた。

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