女装少年と男装少女の恋煩い
このお題難しすぎる。
昔書いたやつが元ネタ、正直中二の頃のネタを引っ張り出す事になるとは思わなかった
追記:
若干加筆修正しました
枯泉 涼は女である。凹凸の少ないスレンダーな体型は、男子用制服の下に隠れてしまって女らしさがほとんど見られない。
しかし彼女は女を捨てているわけではない。むしろ私生活においては肌や髪のケアを欠かす事が無いため、服装さえ選べば整った顔立ちと相俟ってたいそうな美人に見える。
そんな彼女が特定の生活圏において男装を止めない理由は、里見 香の気を引きたい、その一点に尽きる。
里見 香は10人が見れば9人は振り向くような美人だ。女性らしい膨らみこそ見られないものの、その仕草は理想的な女性のそれであり、付き合いが深ければ深いほどその仕草は色濃く確認できる。
そんな香に対し涼が興味を持ったのはおよそ2年前、入学式その当日だ。
文字通りに一目惚れ、里見 香を目にした時のその衝撃は私にとって生涯忘れられない程の物だったのだ。
髪は烏の濡羽色、細長い眉、適度な運動を欠かしていないであろう健康的な肌色と肢体、ピンと背筋を伸ばしながらも口は若干開き、目は眠そうに細められている。
もし肌の色が白く絵に描いたような容姿であれば、私はただの美人としか感じなかっただろう。しかし里見さんはそんな不確かさとは無縁に、生きた美を晒していた。
将来といえば普通の恋愛をして普通に結婚するのだとばかり考えていた私は、その時決めたのだ。
ただ一人、里見 香と添い遂げる為ならばあらゆる障害を乗り越えて見せると。
まず私が手をつけたのは、買ったばかりの制服を男子用に買い換える事だった。
全額返済を条件に母は頷いてくれた、たいした理由の説明も無しに頷いてくれた事には大変感謝している。
生徒手帳に一通り目を通した所、制服着用の義務は書かれていても、どこにも男子は男子用の、女子は女子用の制服を着用する事などとは載っていない。
そこに目をつけた私は、男性として接する事により、里見さんの興味対象に入る事をひとまずの目的に設定した。
これは里見さんの特殊な事情から、人見知りが激しいだろうと判断しての事だ。
幸い里見さんとはクラスが違ったので、男子用の制服を着用し始めるまでに接点は一つも生まれなかった。
一年目は男性的仕草を学ぶ事にひたすら時間を費やした。
その成果はしっかりと表にでたのか、一年の終わりにはほとんど自然体で男性らしく振舞えるようになり、学年が変わった直後、女性徒に告白されてしまったほどだ。
無論私は里見さん一筋であったので丁重にお断りし、再びそのような事が起こる前に里見さんと接触することにした。
二年目、里見さんと同じクラスになる。先の一年は気持ちが先走らないように、時々眺める程度に抑えていたのは正しい判断だった。
里見さんは相変わらず美人で、もしかすると入学式のあの日より更に美しくなったかもしれない。
緊張に声が上ずりそうになるのを押さえ、声をかける。
「始めまして僕は枯泉。君は里見さん、だよな?」
里見さんはキョトンとした顔で私を見上げ、上品に笑う。
「ええ始めまして枯泉君。本当に男装してるんだ、噂に聞いたより様になってるわね」
その声は思ったよりも低めで、私の脳を揺さぶった。
男装と言われた事は特に問題でも無い。身体的特徴というのは隠そうとしても出てくるもので、僅かとはいえ膨らみを持ち始めた胸や、丸みを帯びている身体を隠し切ることが出来ないのは重々承知の上だった。
重要なのは里見さんに合わせる事、里見さんの肉体的性別は男性のそれなのだ。
「で?枯泉君は私に何か用かしら、特別接点は無かったと思うの」
里見さんはからかうようにゆったりと上目遣いで言う。
「無かったら話しかけちゃダメか?僕としては仲良くしたい所だ」
それで逆に少しばかりの落ち着きを取り戻した私は表面上だけ、軽く受け流す。
少しの間、なにやら考えていた里見さんは一つ頷いて答えた。
「うんそうね、私も仲良くしたいわ。私は香、かおるじゃないから間違えないでね。枯泉君は?」
なにやら判断基準があったようで、それに合格したらしい私は、やっぱり表面上だけ冷静を装う。
「涼、すずって呼ばれるけど家族はお涼って呼ぶ。出来ればそっちで呼んでくれ」
香はまたもキョトンとした顔を見せ、今度は小悪魔のような笑みを浮かべる。
「なぁに?私を娶りたいのかしら。それはこれから次第ね、頑張りなさい」
名前で呼ぶ事を許してもらえたことで、浮かれた心が見透かされてしまった気がして私は顔を赤くした。
それからとても小さな声で「頑張る」とだけなんとか返す、聞こえたかどうかは香にしかわからない。
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お涼と友達になってから2ヶ月。
彼女はたったそれだけの期間で、私の中で大切な部分を占める人となっていた。
初めは変わった人。短い会話で彼女を友達の範囲に入れたのは、きっと私が女子制服に身を包むように彼女が男子制服に身を包んでいたからだ。
それから2ヶ月ほどたった頃、ちょっとした会話の中で見え隠れする言葉遣いや、休日に出かけた時の目配りで気付いた。
彼女は男装が趣味だとか精神的に男だとかそういう私みたいな人では無かった。
それが多少とはいえ心に傷をつけたのは、こんな精神性故に爪弾きにされる事に慣れていた私にとって意外な事実だった。
それを不思議に思った私は考えるが、その答えはすぐにでた。
彼女が初めてだったのだ、心から笑い合える友達は。
私のような人間は世間体が悪い。
女性として性自認を持つ者の中でも、男の身体を疎ましく思い、それでも親から貰った身体を改造するのに躊躇いを持つ私のような半端者は、開き直らない限り一人ではとても生き辛い。
小・中と爪弾きにされていたが、進学してからは特に何を言う者も現れないまま日々が過ぎる。
そんな折に彼女は現れ、同類が居る心地よさを私に植え付けた。
依存では無いだろう。依存と思いたくない気持ちが大きいのもあるが、自分が保てないほどの傷は受けていない。
傷は心をジクジクと焦らす様に苛む。
彼女を意識したのは男装だからだ、けど笑い合えたのは彼女が男装してたからじゃない。
彼女が私と向き合ってくれたから、だから私は笑えたのだ、心の底から笑みを浮かべる事が出来たのだ。
そう思うと身体が火照り、動悸が激しくなっていく。とても苦しい、だけどそれ以上に心地良い。
傷も意識すれば意識するほど心地よい苦しみを発するだけで、痛みはもうただのきっかけになっていた。
ちょっと見渡せば気付くほど、その思いは近くにあったのだ。
私は彼女に恋してる。
そう自覚した途端、私の中の彼女に対する感情は爆発的に肥大した。
彼女が私をいじめないのは?
私をいじめる程の理由が無いから、
彼女が私に話しかけてくれたのは?
私に興味をもったから、
彼女が友達になってくれたのは?
私に価値を認めてくれたから、
彼女が私と一緒に居るのは?
私が彼女の友達だから、
彼女が私と今でも友達なのは?
私に理解を示してくれているから、
彼女に裏切られたと思ったのは?
私が彼女を受け入れていたから、
彼女を、私は……?
好き。
頭の中を色々な言葉が駆け巡る、今までに無い心の揺れ、心地よくて溺れてしまいそうになるほど。
歯止めが利かなくなって彼女の表情や仕草、言葉の一つに至るまで全てを回想していく。
記憶の片隅には入学式も。そうだ、あの時私を凝視していたのは彼女だった。
一年の廊下でも、教室の入り口でも、下駄箱の傍でも、思い返せばそこかしこに彼女は佇んでいる。
話しかけるでも無く、特に近寄る事も無く、たまたまだとでも言うように佇みながら、彼女は私を眺めていた。
もしかして、彼女も私を好きでいてくれているのだろうか?
一通りの暴走を終えた頭を、短いクールダウンの後に簡単に整理する。
私はお涼が好きだ、これは決定。
多分、きっと彼女も私が好き。
ゆっくりと落ち着き始めた心に対し「私は女なのだ、男装で現れた彼女こそが告白するべきだ」と更に強く言い聞かせて、平静をしっかりと取り戻す。
静まった心と頭は過去に無いほど冷静に、彼女から告白させるよう計画を立て始める。
何時間もかけた末、結局は正攻法が一番であると決まり、私の戦いは始まった。
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香から遊びに誘ってくれたのはこれが初めてだ。
遊び方を知らないという香は、カラオケボックスに初めて入った時もおっかなびっくりで思わず笑ってしまった。
どうやら香は私と遊びに行く以外、外で遊ぶという習慣を持っていないらしい。
だから誘われた事に思わず浮かれてしまい普通の私服、つまり女物を着て待ち合わせ場所に居てしまった。
それに気付いたのは愚かにも香が驚いた顔を見せてからだった。
失敗に気付いて浮かれた心が一気に冷め、顔が青ざめる。
徹底して男装していた私にとってコレはあまりに大きい失敗、しかし香は特に気にした様子も無く、いつかのような小悪魔の笑みを浮かべて言った。
「ねえお涼、知ってた?私っていわゆるレズビアンなの。男装の麗人ってのもいいけど、そっちの私服もそそるわね」
頬を上気させながらわざとらしく舌なめずりする香は身震いするほど妖艶で、私に言い訳する間も与えず腕を取る。
「冗談よ、ちゃんと言ってなかったと思うけど私って肉体的には男だけど精神的には女なの、この場合ってレズビアンって言うのかしら?」
声の調子こそいつも通りだが、取られた腕は若干震えていた。
「良いと思うぜ、香がそう思うなら僕らの間じゃそれが正しいって事だ」
だから私はいつもの調子で返す。それが良かったのか腕の震えは消え、香は満面の笑みを浮かべる。
「嬉しいわ、じゃあ早速デートに行きましょ?初めて考えたからシンプルだけど映画館からね」
華奢な見た目に反して強い力で私の腕を引く、今日の香は何故か何時もと違って見えた。
「んー、思ったほど面白くなかったわね。お涼が見せてくれる映画は良く当たるのだけど何でかしら?」
一つ大きな伸びをして香は小首を傾げる、実にあざとい。
それが可愛らしく見えると知っての仕草だというのは、交友を結んでからの4ヶ月で理解している。
「コレ公開初日だろ?僕はしばらく経ってから面白いってよく聞く奴を選んでるからな。けどそんなに酷かったか、結構いけると思うが」
内容は悲恋物だった。
魔女に恋した王子が手柄を立てて魔女を娶ろうとするが、魔女は種族柄伴侶の性を吸い尽くし殺してしまう、その事を良しとせず魔女は王子の前から消える。そんな話。
「創作物の中ぐらいはハッピーエンドで終わりたいじゃない、唯一の希望は続編がある事ね。魔女には幸せになって貰いたいわ」
有名ファーストフード店のポテトを口に放り込むと、香は続けた。
「それとも、お涼はバットエンドの方がお好み?」
言われれば確かにハッピーエンドの方が良い、創作とはいえ他人の不幸は蜜の味というのは性に合わない。
「じゃあ続編がハッピーエンドで終わるか確認しに来なきゃね。そろそろ次ぎ行きましょう、晩御飯は帰らなくても平気かしら?」
正直には言わないが、誘われた事で浮かれていたので母親には食事はいらないと言ってある。
それに気付かれないよう「大丈夫」とだけ返すと香は若干頬を赤らめて立ち上がった。
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8月の夜。
私が恋に気付いてから2ヶ月もの間を空けてからデートに誘ったのは、あまり簡単に靡くような女と思われたくない事と、もしかすればこの恋心が一過性の物ではと心配したからだ。
心配は杞憂に終わって、気持ちは日々膨れ上がるばかり。
今日は彼女が女物の服を着てきたのを見て驚いた。いつも私と遊ぶときは徹底して男装を行う彼女が、可愛らしい服装でそわそわしながら待っているのだ。
こちらから誘ったのは心の準備をする為と、彼女の反応を見る為だったのだが、かなりの確率で脈アリだと舞い上がる。
その為まだ言うべきでは無い事を言ってしまったが、結果は良好。
本当は彼女を好きになってしまったと言うだけで、元々はレズビアンでは無く、初恋の相手は近所のお兄さんだったのだがそれは心に仕舞う。
思わず勢いで告白する所だったけど、コレは彼女から言ってもらいたいので我慢した。
近場のファミレスで夕食を済ませた後、風に当たりたいと近場の人気が無い公園に彼女を連れ込んだ。
一つ深呼吸し、背を向けながら言う。
「ねえお涼、アナタが私に初めて話しかけてくれた時ね、私言ったじゃない?娶りたいのって。アナタあの時何か言ってたわ、あの時は気にしてなかったけど教えてくれない?」
「……ああ、言ってたな。頑張るって言った」
「今でも?変わらないかしら、まだ私を娶りたい?」
「そうだな、変わらない」
振り向いた私は嘘を言わせないよう目に力を篭める。
お涼は私よりもずっと男らしい目つきで私を見返した、私はきっと泣きそうな顔だ。
「言葉に、してくれないかしら?私ってずるいのよお涼、アナタの口から聞きたいわ」
一息分の間と、お涼の深呼吸分の間。
「一目見たときから好きよ香、アナタが男でも女でも構わない。ずっと私の傍にいて」
いつも私と話すときのような作った男口調じゃ無い、普通の女の子の言葉使い。
アナタの口からと私が言ったのを、ちゃんと考えてくれたのだろう。
私は始めてしっかりと、僅かに見えるだけだった、彼女の女の子の側面を見せて貰った。
それが嬉しくて返事は口付けにした、きっと言葉にしたくてもならなかったと思うから。
個人的に楽しい解説のターン、今回は恥ずかしすぎたので一部ネタに走ることで精神安定剤にしてしまいました
里見 香 →
肉体的には男性、精神的には女、けど涼のせいでレズビアンになった。あれ、普通?
今回のニューハーフは「生物学的には男性であるが、女性的な外見を持っている人物」
実は本編内で一度も女性として扱われていない。
普通の恋バナっぽいのは言わないで
枯泉 涼 →
卒業後は進学せず、お婆ちゃんがやってる銭湯を継ぐらしい。香は私の嫁、異論は認めない
凹凸 →
通称:ボンキュッボン
生徒手帳 →
性別指定で着用の義務を書いてある生徒手帳もある。うろ覚えだが私の出身校では「女子はリボン、男子はネクタイの着用義務」見たいな事が書いてあった
眺める程度に抑えて →
抑えきれてなかった、けど抑え切れてたらまた違った終わり方だったはず。
具体的には……香ヤンデレEND?
爪弾き →
一部には好きな子に素直になれないとかも含まれる
彼女~~?私~~、 →
ヤンデレ化一歩手前
遊び方を知らない →
ひとりぼっちは、寂しいもんな
指摘されたので今後は控える事にします