あたしと“私”
今回は後半にシリアス入ります。
もしかしたらしばらくはシリアスになるかも…。
…って。
(笑)じゃねえよ!
絶体絶命だからね、今。
何やってんのあたしぃ!?
これじゃただの馬鹿じゃん!!
「…一体どうしろっていうわけぇ」
進んだって、帰れるって保障はない。
むしろ罠の確率の方が圧倒的に高いわけであり。
あたしは、思わず溜息をついた。
その瞬間。
「―――ん?」
思考が一瞬停止する。
あたしは行き当たった結論。
それは。
「…仮にも支部長なら、アウレリオさんがここを知っててもおかしくない、よね?」
そう、こーゆーこと。
やっぱり正解じゃないかな。
だって、支部長なんだから、この仕組みをしってない訳がないし。
うん、流石あたし。
そう思いながら進んで行った。
そして、突き当たり。
そこには、いかにも厳重そうな結界を掛けられた扉。
え、何で結界って分かるのかって?
…知らん!
いつの間にか分かるようになってた!
きっとあれだぜ、あの時の女の人が何か仕掛けたんだよ。
じゃなきゃありえない、うん。
だってあたしは至って普通の人間な筈だから!
そんな思考回路をシャットアウト。
今は取り敢えず進むことだけを考えよう。
うん、あたしは大丈夫。
きっと何もないよ……多分。
そう、多分。
これで死んだらあたしの人生オジャンだし。
まあ…父さん母さんごめんなさい、あたしはこの歳でそっちに行くことになりそうです、みたいな?
……うっわ洒落になんねー。
よそう、こんな思考。
はい思考中断―。
さっさと扉開けよー。
多分六道輪廻とかないしー、うん。
結界解除の魔法を唱え、手を押し当てる。
すると、扉が左右に音を立てて開いた。
しかもご丁寧に埃までたてて。
何これ嫌な予感しかしない。
第六感が警報鳴らしてる。
…でも扉は音を立てて閉まっていく。
覚悟を決めろってことか。
完全に部屋に入ったところで、扉が閉じる。
振り返れば、もう扉があった形跡もなく、ただの密室になっていた。
…成る程、引き返すなんて馬鹿な考えはやめろってこと。
ま、ここまで来て引き返すなんていうのも妙な話だ。
やっぱりここは素直に進むべきなんだろう。
そんなことを思いながら、辺りを見回す。
すると、急に部屋が明るくなった。
思わず目を手で覆い隠す。
しばらくして目が慣れると、そこには一筋の光と、その光に照らされる一つの宝石があった。
台に乗せられて輝いている宝石。
光に照らされているのとは別に、宝石そのものの内側から、蒼い光があふれ出している。
そして、周りには不思議な蒼い球体状の光が飛び回っていた。
警戒した方が良いよね。
だって、どんな罠とか術がかかってるかなんて分からないし。
もしかしたら、瀕死の一撃かもしれないし、生気を吸ったりするのかもしれない。
…っていうか。
そんないかにもな設定ってありえるのか?
これじゃあたし厨二病みたいじゃんか。
否定できないけど。
……虚しい!
まあとにかく、なるようになるよね。
あれ、そういえば本来の目的って何だっけ。
まいっか、後でも。
とりあえず今はこっちを優先しとこう。
後々役に立つかもしれないしね。
台座の前まで行き、宝石に向かって手を伸ばす。
取り敢えず、罠とかは掛かっていないみたいだ。
あの光にも害はないみたいで何より。
そんな風に確認をした後、宝石を手に取る。
すると次の瞬間、宝石から眩く蒼い光が一気に放たれ、部屋を埋め尽くし。
あたしは、その光に呑み込まれた。
目が覚めると、暗闇の中にいた。
…あれ。
ちょっと待て、この展開前にも無かったか?
え、何、あの宝石ってもしかして何か宿ってた?
≪ほう、物分りは良いようだな、神宮寺零歌……いや、“弓野”零歌というべきか≫
またあの時のように頭に響く声。
今度は男の声……多分前回とは全くの別人だ。
でも、あたしが驚いたのはそこじゃない。
どうして。
そんな風に呟くあたしに、声は笑っているかのような雰囲気を出した。
まるで、全てを知っているとでもいわんばかりに。
≪ふむ…まさか、再び会うことになるとはのぅ。最も、お主は我のことを覚えていないだろうがな≫
懐かしむような台詞を吐く声。
まるで全てを見透かされているようで、あたしは全身の警戒レベルを一気に上げた。
コイツは、ヤバイ。
下手をしたら、呑まれる――――!
≪まあそう警戒するでない。お主の……正確には、弓野零歌のだが……知り合いみたいなものだ≫
そういう声に、あたしは過去の記憶を手繰り寄せる。
こんな知り合い、いただろうか。
少なくとも……神宮寺零歌の知り合いじゃない。
絶対に、こんな声の奴は知らない、
だとしたら、きっと……!
≪我は、お主の過去を知っている。お主が犯した罪も、お主が失ったものも、何もかもな≫
弓野零歌。
あたしが“私”だった頃の名前。
あたしが――――“私”が、かつて名乗っていたあの忌々しい名前!