覚醒した力
「ここは……?」
光が収まると、そこはさっきまでいた平原ではなく、どこまでも真っ暗な空間だった。
無重力みたいで体も浮いてるし、何より壁とか装飾品の類が一つもない。
それに加えて自分の体だけは仄かに蒼く光っている。
あのスライムによって殺されたとすればここはあの世だろうけど……痛みはなかったから多分違う。
それならまず意識が残っていることがありえないだろうし。
とりあえず誰かいないかと周辺を見渡す。
すると、突如頭の中に声が響いた。
“大丈夫です、私はあなたの敵ではありません”
直接頭に響いてくる声。
女性の声だろうか、とても落ち着いた声をしている。
“あなたには、やってほしいことがあるのです……”
その言葉と同時に、様々な映像が頭に流れ込んでくる。
魔獣の活発化や魔物の魔獣化のエスカレート、そしてそれに伴うこの世界の住人の被害。
それだけでも、この世界が危機に瀕しているのが良く分かった。
でも、これをあたしに見せてどうしようというのだろう。
その疑問を汲み取ったのか、その声は必要最低限の言葉で述べた。
“お願いです、この世界を救って下さい。そして―――を助けて……”
願いの部分は聞き取れたけれど、肝心の名前はモザイクがかかったかのように聞こえない。
尋ねようとすると同時に、今度はあたしの体自身が発光し……また視界が光で塗りつぶされた。
「冗談だろう……」
そんな呆然とした女の人の声で、ハッと我に返る。
気が付けば、さっきの平原に戻っていた。
でも、さっきとは違う点が一つだけあった。
あたしも気付かないうちに、体には白くて高級そうな装飾のローブを着て、手にはとても大きなダイヤモンドの埋め込まれた白金で出来た自分の身長くらいあるロッド。
そして頭にはローブと同じ装飾と色の魔法使いのような帽子を被り、左腕にはダイヤ型の蒼い盾。
その全てが、まるで魔女……あるいは魔法少女のような魔法の力を纏っていた。
杖を、構える。
杖なんて使ったことがないし、今までに闘ったことだって一回もない。
でも、不思議と体が動いていた。
スライムを見据える。
さっきまでは恐怖の対象だったけど、力を手に入れたあたしには、ただの雑魚にしか思えなかった。
「総てを司る精霊王よ、我に御力を授けたまえ………メテオライツ!!」
正しいかなんて分からない。
けれど、何故か確実性のある、脳裏に浮かんだ呪文を唱える。
すると、スライムの頭上に小さめの隕石がいくつも衝突し、スライムは塵一つ残さず消え去った。
そして、後に残ったのは術の後遺症のようなクレーターだけだった。
あまりにも、圧倒的だった。
戦い方を知らなかった筈の自分が、こうも強大な力を秘めている。
普通なら喜ぶ所だけれど、私は何か薄ら寒いものを感じた。
どうしてついさっきまで普通の中学生だった自分が、これ程までの力を持つのか。
いつかこの力が全てを破壊してしまうのではないか。
そんな考えが、脳裏をよぎった。
「なんてこったい、こんな子供が……」
女の人が驚愕したような声をあげる。
その言葉で、やっと思考の渦から抜け出した。
とりあえず、助けてもらったお礼をしなければ。
そのギルドとやらも紹介してもらいたいし、何よりここはどんな世界なのかも把握しなければいけないしね。
そう思い、後ろを振り向いた途端、強い眩暈に襲われる。
あ、やばい。
これはもしかして力の使い過ぎってオチだったりとかする?
そんな事を考えながら、あたしは女の人の腕の中に倒れこみ、気を失った。
早くも鬱展開の予感。
とはいえ、しばらくはそこまで鬱ではありません。
親友に出会うのはもっと先になりそうです。