異世界への道
「うはー、今日も学校終わったぁー!」
私の名前は神宮寺 零歌。
地方の中学校に通う、ごく普通の中学二年生。
そして、さっき大声で伸びをしながら話しかけてきたのは私の親友の葭原 響霧。
ちなみに名前を正しく読んでもらえた例がないらしい(余談だけれど)。
今は学校が終わり、下校しはじめたところ。
あたし達の学校は進学校で、もの凄く厳しいから、終わると一気に気が抜ける。
さっきの響霧みたいにね。
あたし達は至って普通の成績で、特に凄い面がある訳でもない。
まあ、平凡って言葉が一番しっくりするかな。
「それで、あの時に笹平先生がさー」
「あー、そんなことあったねぇ」
こんな風に、変哲のない会話をして、いつも通り下校する。
そしていつも通る曲がり角を曲がった途端―――――異変が起きた。
そこに広がっていたのは、見渡す限りの野原。
といっても綺麗ではなく、一面に動物の死骸が転がっている。
勿論そんな風景に見覚えなんてないし、ましてや地方でも大分都会に近い方だから、こんな所が存在する訳もない。
そして何より異常だったのが、その死骸の傍に集っている生物。
スライム状の体に色々な動物の一部が取り込まれていて、見るからにグロテスクな外見をしている。
幸いこちらには気づいてないみたいで、逃げるには絶好のチャンス。
あたしは振り返り、響霧にそう伝えようとして・・・絶句した。
さっきまで響霧がいた所には、誰もいなかったのだ。
そして次の瞬間、最悪の事態が起こった。
あのグロテスクな生物が、今の物音で気配を察し、あたしの方に振り返ったのだ。
初めて正面から見たその生物は、想像していたものよりもずっと恐ろしかった。
体の中心には歪な形をした核のようなものが埋め込まれ、その周辺に浮かぶ無数の泡。
真ん中あたりには口があり、鋭い牙が覗いている。
それら全てが、まるでゲームに出てくる魔物のようだった。
あたしに気付いた魔物らしきスライムが、ゆっくりと近付いてくる。
あたしは丸腰だから、対抗手段なんてない。
かといって、こんな訳の分からない所で死ぬなんて御免被る。
だから、最後の手段。
あたしは、勢いよく駆け出した。
駆け出すと同時に、スライムの動きも格段に速くなる。
普通のお約束では、こういった生物は動きが鈍くて初心者向けだけれど、そんなのは通用しないらしい。
まるで足があるのではと思う位に素早い動きで距離を詰めてくる。
しばらくそんな鬼ごっこが続き―――――ついにあたしは転んだ。
立ち上がろうにも足が草に絡まり、身動きが取れない。
近付いてくるスライムの気配を感じ、あたしは死を覚悟し目を閉じ、そして・・・。
グゥオォォァアァアアアァアッッ!!
目の前で、スライムの断末魔が響き渡った。
「………え?」
思わず呆然とする。
目の前には、ズタズタに切り裂かれたスライムの体。
かろうじて一部はまだヒクヒクと動いているが、それもやがて収まり、動かなくなった。
「い、一体何が…?」
慌てて辺りを見回す。
すると、あたしの背後に見知らぬ人物がいた。
細いけれど、最低限の筋肉をつけている小麦色の肌。
髪は金髪で、目は緑という、普通はありえない色の組み合わせ。
簡素ながら、頑丈そうな銀色の胸当てと、腰の防具。
そして何より目を引くのが、その背に背負われている、不釣り合いな巨大な斧。
まるで、アニメか何かの勇者のような出で立ちの女性。
その人を見た瞬間、一気にこの世界がおかしく思えてきた。
そもそもここは本当にあたしのいた世界なのだろうか。
そう思って頭を抱えていると、不意にその女性が口を開いた。
「全く、魔物退治に出てみれば、亜種の魔獣はいるし、こんな一般人が襲われてるし……。アンタ、大丈夫かい?」
女の人があたしに話しかける。
まだショックで口が上手く動かないので、とりあえず頷いた。
「そうかい、ならいいんだけど。気を付けたほうが良いよ。ここら辺はね、【イルモストロ平原】っていって、名前の通りさっきみたいな魔物や魔獣が多い。早く家に帰りな、送ってやるから」
送ってやるから、といわれても困る。
何せ魔物やら魔獣やらがいる時点で、ここは異世界だろう。
帰るところなんてどこにもないのだ。
帰るところがない、という意味を込めて首を左右に振る。
すると、困った顔をされた。
「参ったねぇ、まさか家がないなんて。かといってこんな子供をギルドに連れて行くわけにも……」
訳の分からない単語を口にする女の人。
ギルド、というものがこの世界にはあるらしい。
それなら都合が良いというものだろう。
「あの」
思案顔の女の人に、声をかける。
すると、なんだい?と尋ねられた。
「よかったら、そのギルドにつれていってもらえますか?雑用でも何でもやりますし、もし可能なら戦ってもいいですから」
そういうと、ひどく驚いた顔をされた。
多分、あたしみたいな子供はそのギルドには属していないのだろう。
大分困った顔をされた。
「っていっても、こんな子供に酷なことさせる訳にもいかないし――――――!?」
終始思案顔だった女の人が、急に驚愕の表情をつくる。
焦ったようなその顔に、あたしは慌てて後ろを振り向く。
するとそこには、さっきよりも何倍も大きいスライム。
女の人とは大分距離があるし、スライムはもうかなり接近している。
今度こそ間に合わないだろうと悟り、あたしは無駄とわかりながら両手をそのスライムに向かって突き出し―――――――瞬間、眩い光が生まれ、あたしを包みこんだ。
中途半端ですが、長くなりそうなのでここで区切ります。