表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白黒リバーシブル  作者: 猫塚ルイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/15

第1話

指先が、冷たい。

深い泥の底に沈んでいた意識が、ゆっくりと水面へと浮上していく。


最初に肌が感じたのは、滑らかな絹のシーツの感触と、耳が痛いほどの静寂だった。


重い瞼を、ようやくの思いで持ち上げる。


視界に飛び込んできたのは、見たこともないほど豪華な刺繍が施された天蓋だった。


窓から差し込む青白い月光が、部屋の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。


その光の下、枕元に広がっていたのは───


雪のように真っ白な、自分の髪だった。


「ここは……どこ?」


掠れた声を出そうとして、喉が焼けるように乾いていることに気づく。


上体を起こそうと腕に力を込めるが、まるで自分の体ではないかのように力が入らない。


それどころか、自分が誰で、なぜここに横たわっているのか


昨日のことさえ霧に包まれたように思い出せなかった。


頭の中に広がるのは、何も描かれていない真っ白なキャンバスのような、虚無の空白だけ。


そのとき。


重厚な彫刻が施された扉が、音もなく開いた。


入ってきたのは、一人の男だった。


夜を塗り固めたような漆黒の髪。


冷徹なまでに整った容貌は、まるで冷たい大理石の彫像のようだ。


しかし、宵闇を溶かし込んだような深い瞳がベッドの上の私を捉えた瞬間


その表情に劇的なまでの激情が走った。


彼は一瞬、信じられないものを見たかのように息を呑んで足を止めたが


すぐに吸い寄せられるような足取りでこちらへやってきた。


軍靴が絨毯を踏み締める、静かだが力強い音。


「……シェリー」


聞き覚えのない名前。


けれど、鼓膜を甘く震わせるその低い響きに、胸の奥がざわつく。


彼は迷うことなくベッドの縁に膝をつくと


震える私の肩を引き寄せ、折れんばかりの力で抱きしめた。


「ああ、よかった。目が覚めたんだね……。どれほど、このときを待ちわびたか」


あまりに強い力で抱きしめられ、彼の胸に顔が埋まる。


高価な香水の洗練された香りが鼻をくすぐる。


けれど、その奥底に


雨に濡れた鉄のような、微かな血の匂いが混じっている気がして、背筋に冷たいものが走った。


私は困惑し、彼の硬い胸板を弱々しく押し返そうとした。


「あの……あなたは…どなた、ですか?」


私の問いに、私を拘束していた彼の腕がわずかに強張る。


彼はゆっくりと体を離すと、壊れ物を扱うような


あまりに丁寧で執着に満ちた手つきで私の頬を包み込んだ。


その瞳には、狂おしいほどの愛着と、それ以上に深い「何か」が渦巻いている。


「忘れてしまったのかい?無理もない。君は、王位を狙う反逆者どもの襲撃に遭い、その衝撃で眠ってしまっていたんだ」


彼は私の額に、誓いのように静かな、けれど熱を帯びた口づけを落とした。


「僕はジェル。君を生涯守り抜くと誓った騎士であり……君の、唯一の婚約者だ」


ジェルの唇が弧を描き、微笑みが形作られる。


それは完璧なまでに美しく、慈愛に満ちたものだった。


「大丈夫、怖がらなくていい。君の居場所は、僕の腕の中にしかないのだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ