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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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3/32

「2.5ちゃんねるの祭り」

0日目 午前8時台〜正午

朝になっても、「私」は眠れなかった。

動画の再生数は夜明けまでに三百を超えていた。深夜帯の視聴者は少ない。それでも数字は動いた。コメント欄には四十件近い書き込みが並び、大半は嘲笑と無関心の混合物だった。

午前八時を過ぎると、流れが変わり始めた。

会社員が通勤電車の中でスマートフォンを開く時間帯。学生が起き抜けにSNSを確認する時間帯。日本列島が目を覚ます時間に合わせるように、再生数のカウンターが加速した。

誰かが動画のURLを2.5ちゃんねるに貼った。

「私」はそのスレッドを発見したのは午前九時ごろだった。タイトルはこうだった。

「【閲覧注意】『7日後に人を殺す』動画、本物かどうか検証するスレ」

スレッドが立ってから十分も経たないうちに、書き込みは五十件を超えていた。

最初の数十件は動画の感想が中心だった。「声が作ってる感じする」「BGMもなくてリアルちゃリアル」「でもどうせ釣りだろ」。意見は割れているが、温度は低い。暇つぶしに参加している人間の書き込みは、文体に独特の軽さがある。真剣さの欠片もない言葉たちが、画面を埋めていく。

しかし百件を超えたあたりから、質が変わり始めた。

「この声、加工してる? 素の声じゃなさそう」

「投稿時間が深夜2時17分。衝動的じゃなくて計画的な感じがする」

「『7日後』って言い方が気になる。なんで7日? 準備期間?」

推理が始まっていた。

匿名掲示板の住人たちは、ある種の能力を持っている。情報を断片から組み立てる力、パターンを見抜く嗅覚、そして何より、ゲームとして楽しむ冷静さ。彼らにとってこのスレッドは謎解きだった。現実の命がかかっているかもしれない問題を、週末のパズルと同じ感覚で扱う。

「私」はスレッドをリアルタイムで読み続けた。

午前十時。書き込みは三百件に達した。

「動画のファイル名にメタデータ残ってないの?」

「もう調べた。クリーンだった。意図的に消してる」

「意図的に消せるってことは、ある程度ITリテラシーある人間」

「都市部在住っぽい環境音がする。エアコンの型番から地域特定できる説」

推理はエスカレートした。実際に動画の音声を波形解析して投稿する者が現れた。エアコンの駆動音から製造年代を推測しようとする者も出た。大半は的外れだったが、その熱量は本物だった。

これが「祭り」だと、「私」は思った。

誰かの人生が燃えるかもしれない可能性を前に、人々は楽しんでいる。不謹慎だと分かっていても、知的好奇心と暇が合わさると、人間はこういう行動を取る。それを責める気にはなれなかった。「私」自身も、かつて似たような場所に座っていたことがあったから。

午前十一時半。スレッドの書き込みは五百件を超えた。

「ねえ、もしこれが本当だったとして、誰が殺されるの?」

「そっちが問題だよな。被害者候補を特定するのが先じゃね」

「いや投稿者を特定して警察に通報するべきでは」

「でも警察が動くレベルの証拠ないだろ今の段階じゃ」

議論は分岐した。通報派、特定班、静観派、野次馬。それぞれが別々の方向を向きながら、同じスレッドの中で声を上げている。組織ではない。指揮系統もない。ただ無数の個人が、それぞれの動機で集まってくる。

誰かがXにスクリーンショットを上げたらしく、流入が一気に増えた。

正午になった頃、スレッドは七百件を超え、すでに次のスレッドへ移行する準備が始まっていた。

「私」はコーヒーを飲み干した。昨夜から数えて四本目だった。胃が痛かった。

画面の向こうで祭りが始まっていた。入場者は増え続けている。誰も主催者を知らない。誰も終わり方を知らない。ただ熱が集まり、ぶつかり合い、渦を作っていく。

「私」はその渦の中心に、静かに座っていた。


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