表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/31

「三日目の動画」

12日目 午後2時17分 

「私」は午後二時十七分を選んだ。

最初の動画を投稿した時刻、午前二時十七分から、ちょうど十二日後の同じ分。その数字に意味があるわけではなかった。ただ、覚えていた。指が覚えていた。

投稿ボタンを押した。

今回の動画は六分三十秒だった。最初の動画より長かった。声は同じだった。画角も同じ、暗い背景。しかし内容は、最初の動画とは根本的に違った。

冒頭の一分間、沈黙があった。

それから声が始まった。

「柏木真司さんは、私が殺そうとしていた人間ではありません」

「彼は、あなたたちが殺しました」

その二文が、動画の核心だった。続けて声は語った。柏木を標的に選んだのは自分ではなく、ネット上の群衆だったこと。特定班が動き、インフルエンサーが拡散し、YouTuberが突撃し、無言電話をかけ、出前を送りつけた。その一つひとつの行為が積み重なって、ひとりの人間を死に追いやった。

「あなたたちは正義のつもりでした」と声は言った。「しかし正義の名のもとに、人を殺しました」

動画はそこで終わった。

投稿から三十分、再生数は一万を超えた。

最初の反応は沈黙に近かった。コメントが付かなかった。いつもなら溢れる嘲笑が、今回は来なかった。動画を見た人間たちが、言葉を失っていた。

一時間後、コメントが動き始めた。

「これは俺たちへの告発だ」

「お前らのせいで人が死んだって言いたいのか」

「待って、俺は何もしてない。見てただけだ」

「見てただけも共犯じゃないか」

その言い合いが始まった瞬間、早瀬のもとに桑田から連絡が入った。

「新しい動画が上がってます」

早瀬は画面を開き、動画を再生した。六分三十秒、最後まで見た。

見終えて、しばらく動かなかった。

「柏木さんは被害者ではありません。でも皆さんは彼を殺しました」

その言葉の構造を、早瀬は頭の中で解体した。投稿者は柏木の死を予期していなかったのか。それとも予期した上で動かなかったのか。どちらにせよ、この動画には計算がある。罪悪感を植え付けることで、何かを動かそうとしている。

何を。

その問いの答えが、まだ見えなかった。

一方、ネット上では動画への反応が二極化していた。

「投稿者の言う通りだ。俺たちは加害者だった」と認める声。「投稿者こそ元凶だ。人を煽っておいて責任転嫁するな」と反発する声。その二つが激しくぶつかり合い、新しいスレッドが乱立した。

「私」はその反応を、静かに見ていた。

狙い通りだった。罪悪感を持つ者と、罪悪感を拒絶する者。その分断が生まれることを、「私」は想定していた。分断は次の段階への布石だった。

次の段階。

「私」はキーボードの前に座り、画面を見つめた。

柏木真司の死は計画になかった。しかしもう起きてしまった。取り返せない。取り返せないなら、使うしかなかった。その冷酷な計算が、「私」の中で静かに動いていた。

窓の外では夕暮れが始まっていた。

橙色の光が、部屋の中に差し込んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ