「新たな標的探し」
8日目 午後3時〜深夜
柏木真司の名前がトレンドから消えて、三時間が経っていなかった。
2.5ちゃんねるに新しいスレッドが立った。タイトルはこうだった。
「【緊急】柏木を死に追いやった『本当の犯人』を特定するスレ」
一時間で書き込みが五百件を超えた。
内容は大きく三つに分かれていた。動画投稿者を追う者。特定班の中心人物を吊し上げようとする者。レイジのような突撃系YouTuberを責める者。それぞれが別々の方向を向き、別々の標的を設定し、別々の正義を主張していた。
共通していたのは、熱量だった。
柏木が死んだことへの悲しみではなかった。怒りだった。その怒りの矛先が、今度は「柏木を殺した者」へと向いていた。対象が変わっただけで、追い詰める構造は同じだった。
午後五時、レイジのチャンネルにコメントが殺到した。
「人殺し」「お前のせいで死んだ」「チャンネル登録解除した」「広告収入を遺族に渡せ」。昨日まで「応援してます」とスパチャを送っていた層の一部が、今日は罵倒を送っていた。
レイジは午後六時に動画を投稿した。
謝罪動画だった。神妙な顔で「今回の件について、深く反省しています」と語った。「私の行動が結果として柏木氏を追い詰める一因になったかもしれないという点については、真摯に受け止めています」と言った。
動画の再生数は二時間で三十万を超えた。
謝罪動画のコメント欄は二分された。「謝罪を受け入れる」「誠実だと思う」という声と、「反省してるなら活動やめろ」「再生数稼ぎの謝罪」という声。その二つが激しくぶつかり合った。
レイジのチャンネル登録者数は、謝罪動画投稿後に二万人増えた。
午後七時、特定班の中心人物とされる匿名アカウントが特定された。
根拠は薄かった。しかし「こいつが首謀者」という書き込みが拡散すると、そのアカウントへの攻撃が始まった。アカウントは数時間後に削除された。本当に特定班の中心人物だったかどうか、誰も確認しなかった。
「私」はその流れを画面で追いながら、ある感覚を覚えた。
祭りは終わらない。標的が変わるだけだ。柏木真司という名前が消えても、怒りと正義と暇が混ざり合った熱は、次の燃料を探し続ける。それが今夜、「柏木を殺した者」という新しい標的を見つけた。
明日には別の標的が生まれるかもしれない。
深夜、スレッドに一件の書き込みがあった。
「柏木さんの娘さん、小学二年生らしいね。これからどうやって生きていくんだろう」
返信は三件だった。
「スレチ」「関係ない話すんな」「別スレでやれ」。
その書き込みは流れた。
誰も答えなかった。誰も考えなかった。七歳の子供が父を失った事実は、スレッドの流れに飲み込まれ、深夜の海の底に沈んでいった。
画面の向こうでは、新しい標的への怒りが燃え続けていた。




