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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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16/32

「注文していないピザ」

6日目 午後6時〜深夜1時 

最初のピザが届いたのは、夕食の最中だった。

午後六時四十分。インターホンが鳴り、加奈子が画面を確認すると、ピザのデリバリーの男が立っていた。「ご注文のピザをお持ちしました」と言った。

「注文していません」と加奈子は答えた。

「こちら、柏木様のご住所でご注文が入っておりまして」

「していません」

男は困惑した様子で電話をかけ始めた。加奈子はインターホンを切った。五分後、男は立ち去った。

柏木と加奈子は顔を見合わせた。どちらも何も言わなかった。彩が「ピザ食べたい」と言った。誰も笑わなかった。

三十分後、今度は寿司の出前だった。

また断った。

午後八時、中華料理の出前が来た。

午後九時、またピザだった。別の店からだった。

午後九時半、弁当の宅配が来た。

柏木は玄関先で配達員に頭を下げ続けた。「申し訳ありません、注文していないんです」と何度も繰り返した。配達員たちは困惑しながら帰っていった。誰も柏木を責めなかった。ただ、手間をかけさせていることへの申し訳なさが、柏木の胸に積み重なった。

嫌がらせをしている側は、この場にいない。

配達員という無関係の人間を巻き込んで、画面の向こうで笑っている誰かがいる。その構造が、柏木には耐えがたかった。悪意が自分に向かってくるのではなく、無関係な人間を経由して届いてくる。

午後十時、加奈子が言った。「彩を寝かせてくる」

柏木は居間に残り、ソファに座った。

スマートフォンを開いた。タグの投稿数を確認した。六万件を超えていた。

スレッドを見た。出前を送りつける嫌がらせを「やってみた」と書き込んでいる者がいた。「何件送った?」「俺は三件」「ウーバーも使えるよ」

スタンプの笑顔が並んでいた。

という会話が続いていた。楽しんでいた。ゲームとして楽しんでいた。

深夜零時過ぎ、加奈子が居間に戻ってきた。

「彩、なかなか寝なかった。怖いって言って」と言い、柏木の隣に座った。

しばらく沈黙が続いた。

「ねえ」と加奈子が言った。「会社、辞めようか」

柏木は加奈子の顔を見た。

「学校のこと。このまま続けても、周りに迷惑かけるだけだし」

「それは俺が決めることじゃないか」

「でも、彩のことを考えたら」

「彩のことを考えるなら、俺が逃げる姿を見せたくない」

加奈子は何も言わなかった。柏木も続けなかった。どちらも正しかった。どちらも間違っていなかった。だからこそ、言葉が続かなかった。

深夜一時、最後の出前が届いた。

ピザだった。今夜五枚目だった。

柏木は玄関を開け、配達員に「本当に申し訳ありません」と言った。配達員は二十代前半に見えた。深夜に働く若い男が、困った顔で「いえ、こちらこそ」と言った。

ドアを閉めた後、柏木は玄関に立ったまま動けなかった。

謝り続けた一日だった。

学校で、保護者に。配達員に。加奈子に。

誰に謝れば、この夜が終わるのか。柏木には分からなかった。


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