「YouTuberの突撃」
5日目 午前11時〜午後2時 ※視点:外側からの描写
チャンネル登録者数は十四万人だった。
「社会の膿を暴く」がチャンネルのキャッチコピーだった。本名は使っていない。「レイジ」という名前で活動していた。二十八歳。もともとは飲食店で働いていたが、三年前に動画投稿に専念した。最初は料理動画だった。反響がなかった。炎上系に転向してから伸びた。
レイジは午前十時に自宅を出た。
電車を乗り継ぎ、住宅街の最寄り駅で降りた。スマートフォンに保存した地図を確認した。特定班がまとめた情報から、おおよその住所を割り出してあった。番地まで正確かどうかは分からなかったが、このあたりだという見当はついていた。
カメラはスマートフォンと、胸元に取り付けた小型のアクションカメラの二台体制だった。
住宅街を歩きながら、スマートフォンのカメラで周囲を撮影した。「現在、例の柏木先生の自宅と思われる場所に向かっています」と話しかけた。声は落ち着いていた。慣れていた。
スマートフォンの地図を見ながら、細い路地に入った。
表札は外されていたが、門柱の古いプレートに名前が残っていた。
「柏木」と読めた。
「ありました。柏木家です」とカメラに向かって言った。声のトーンが上がった。
インターホンを押した。
返答がなかった。もう一度押した。やはり返答がない。レイジはカメラを家の外観に向けながら、「居留守を使っているようです。まあ当然ですね」と言った。
「でも僕たちには知る権利があると思うんです」
そのままカメラに向かって話し続けた。五年前のいじめ事件の概要。殺人予告動画の存在。ネット上で特定された情報。すべてを並べ立て、「この人物が本当に被害者なのか、それとも加害者なのか、みなさんと一緒に考えていきたいと思います」と締めた。
スマートフォンの画面には、リアルタイムのコメントが流れていた。ライブ配信だった。
「乙」「待ってた」「これ本人いるの?」「突撃お疲れ様です」「正義の執行」
コメントが流れるたびに、レイジは画面を確認した。反応がある。数字が伸びている。同時接続者数が三千を超えていた。
「コメントで応援ありがとうございます」とレイジは言った。「こういう人物を野放しにしている社会への怒りを、みなさんと共有できていると思います」
玄関前に十分ほど立ち続けた。
二階のカーテンが、わずかに動いた気がした。レイジはその方向にカメラを向けた。「今、二階のカーテンが動きました。中にいますね」とコメントした。
コメント欄が沸いた。「いたwww」「出てこいよ」「逃げんなよ」。
レイジは満足そうに頷いた。
その時、隣家の老女が玄関から出てきた。レイジに気づき、立ち止まった。「何をしてるんですか」と言った。声は穏やかだったが、目が鋭かった。
「ちょっと取材で」とレイジは答えた。
「取材? どこの?」
「個人で活動しています」
老女は少し考えてから、「出て行ってください。ここは住宅街です」と言った。毅然とした声だった。
レイジはカメラを老女に向けた。
「近隣住民の方に止めるよう言われました。でも公道に立っているだけなので、法的には問題ありません」とカメラに向かって言った。
老女は何も言わずに家に入った。
レイジはさらに五分ほど立ち続け、「今日はここまでにします。また来るかもしれません」と言って撮影を終えた。
帰りの電車の中で、動画の同時接続者数の最高値を確認した。四千二百だった。過去最高に近かった。
スマートフォンに通知が来た。スーパーチャットだった。五百円。「応援してます」というコメントが添えられていた。
レイジは小さく笑い、イヤホンを耳に差し込んだ。
車窓の外を、住宅街が流れていった。




