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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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12/32

「娘の孤立」

5日目 午前8時〜午後3時半 

学校に行きたくなかった。

でも彩はそれをお母さんに言わなかった。言ったら心配するから。お母さんはここ何日かずっと顔が怖い。笑ってくれるけど、目が笑っていない。彩にはそれが分かった。だから余計なことを言わないようにしていた。

ランドセルを背負って、玄関を出た。

通学路を歩きながら、彩はずっと下を向いていた。いつもは友達のさくらちゃんと一緒に行く。でも今日はさくらちゃんのお母さんから「今日は別々に行って」とメッセージが来たとお母さんが言っていた。なんで、とは聞けなかった。

校門をくぐった。

下駄箱で上履きに履き替えていると、後ろで誰かがひそひそ話すのが聞こえた。振り返ると、同じクラスの男の子たちがこちらを見て笑っていた。彩が目を向けると、笑うのをやめてそっぽを向いた。

教室に入った。

自分の席に座った。隣のみほちゃんが、いつもと違う方向を向いていた。話しかけようとして、やめた。

一時間目が始まった。国語の授業だった。先生が教科書を読んでいた。彩は文字を目で追いながら、内容が頭に入ってこなかった。

休み時間になった。

女の子たちが集まって何か話していた。彩が近づくと、話が止まった。

「ねえ、一緒に遊ぼ」と彩は言った。

少し間があった。

「今日はいい」とひとりが言った。

理由は言わなかった。彩は「そっか」と言って、その場を離れた。

廊下の窓のそばに立って、外を見た。校庭では別のクラスの子たちが鬼ごっこをしていた。楽しそうな声が窓ガラスを通して聞こえてきた。

なんで、と思った。

彩は何もしていない。悪いことをした覚えがない。なのに、なんで。

給食の時間、隣の席のみほちゃんが小さな声で話しかけてきた。

「ねえ、彩ちゃんのお父さんって、人を殺すの?」

彩は息が止まった気がした。

「ちがう」と言った。声が震えた。

「でもみんなそう言ってる。お父さんが悪い人だって、お母さんが言ってた」

「ちがう」ともう一度言った。今度はもっと小さな声になった。

みほちゃんはそれ以上何も言わなかった。給食を食べ始めた。彩も食べようとした。スプーンを持ったが、口に運べなかった。給食が、いつもと違う味がした。

午後の授業は体育だった。

ドッジボールをした。チーム分けの時、彩は最後まで選ばれなかった。先生が「じゃあ彩さんはこっち」と決めた。チームの子たちは何も言わなかった。ただ、彩の方を見なかった。

ボールが飛んできた時、彩は避けた。当たらなかった。誰も「ナイス」と言わなかった。

帰りの会が終わった。

ランドセルを背負って廊下を歩いていると、知らない上級生の男の子が「おい、人殺しの子」と言って走り去った。

彩は立ち止まった。

廊下には他にも生徒がいた。何人かがこちらを見た。でも誰も何も言わなかった。先生もいなかった。

彩はそのまま歩き続けた。下を向いて、足だけ動かして、校門まで歩いた。

帰り道はひとりだった。

家に着いた。玄関のドアを開けた。

「おかえり」とお母さんの声がした。

彩はランドセルを下ろして、台所に行った。お母さんの顔を見た。

泣かないようにしようと思っていた。心配させたくなかった。でも、お母さんの顔を見たら、だめだった。

声を出さずに泣いた。涙だけがぼろぼろと出た。

お母さんが抱きしめてくれた。何も聞かなかった。ただ抱きしめてくれた。

彩はお母さんの胸に顔を埋めたまま、ずっと泣いた。


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